猫の行動に興味のある方やこれから猫を飼おうと考えている人にとっては、猫の性別や猫種が猫の行動にどのような影響を与えるのかを知りたいと思うのが普通です。
今回はそんな気になるトピックを主に扱った洋書「Your Ideal Cat: Insights into Breed and Gender Differences in Cat Behavior」についてレビューしていきたいと思います。
参考文献として引っ張りだこ
猫の性別や猫種に特異的な行動を探索するという研究は今現在でも行われています。当然、猫の行動には遺伝的要因だけでなく環境的要因、社会的要因が影響を与えるため、一筋縄ではいきません。そのため、ある地域で行われた研究の結果と別の地域での研究の結果では多少違いが生じます。それでもなお、猫種や性別に特異的な行動がある程度観察されます。これはおそらく遺伝的要因によるものであろうと思われます。
実は、そのような分野の論文においてかなりの高確率で参考文献として記載される文献がこの本なのです。
執筆者
執筆者はカリフォルニア大学デービス校獣医学部に所属しているDr. Benjamin L. Hart ベンジャミン・L・ハートとDr. Lynette A. Hart リネット・A・ハートのご夫婦になります。夫妻は動物全般の行動学や動物介在教育などの幅広い分野で講演をしており、猫だけでなく犬やその他のコンパニオンアニマルの行動などに精通しています。
実は奥さんのリネット博士は日本の大学の客員講師も務めていたこともあり、日本との交流も深いようです。度々日本に招かれて講演もしているようです。
ハート夫妻は特に猫の行動を専門にしているわけではありませんので、どこまで猫の行動を理解しているかは分かりません。しかし、本を読んでいる限りではしっかりと先行研究を読み、エビデンスに基づいて説明などを行っているため、述べていることには信憑性があります。

どのような本なのか?
この本は初めて猫を飼う方、すでに猫を飼っていて新たに猫を飼う予定の方などを対象にしています。また、この本は猫を見た目で選び伴侶とするのではなく、猫は「行動や性格」で選ぶべきだという信念に基づいて記載されています。そのため、タイトルにもあるように特に性別や各猫種の行動や性格特性に重点が置かれています。
ペットとしての犬と猫の違い
印象に残った箇所として以下のようなところがありました(一部を抜粋して意訳しています)。
犬を選ぶときには、シェルターから引き取る時でさえその犬の犬種を考えますよね。なぜなら、犬種によりその行動(犬の役割・仕事)や性格が変わってくるからです。例えば、ゴールデンレトリバーはハスキーよりも愛情深くで人懐っこいということはほとんどの人が理解しています。しかし、猫はどうでしょうか? アビシニアンがバーミーズよりも活発であることなどを知っている人は少ないでしょう。
その通りですよね。日本でも猫を飼うときに猫の種類を行動を基に選択する人はかなり少ないのが現状です。せいぜい気にしたとしても鳴き声程度でしょう。このような現状が猫の終生飼養の妨げや猫と飼い主のQOL(生活の質)の低下を引き起こしていると個人的には思います。

猫の行動と猫の福祉
日本でも猫ブームに伴い、猫を家族として迎えようとする人が多くなっています。しかし、それらの人の多くは衝動的に猫を迎えることが多いのも現状です。それはペットショップで猫を迎えるにしろ、シェルターから猫を迎えるにせよ一緒です。結果として、猫のことを深く考えずに見た目や感情(可愛い、可哀想などを含む)などで猫を飼ってしまい、飼い猫の福祉が尊重されないことが多いのです。
猫の福祉の向上において重要になってくるのは飼い猫と飼い主との関係性になってきます。その関係性を良く保つには飼い主にストレスが溜まらないことが一番です。なぜなら、飼い主にストレスがたまり負の感情が湧き出ると、それは容易に飼い猫へと移っていき関係性が悪化してしまうからです。
ストレスを減らすには、猫の行動に悩まされないようにしなければなりません。言い換えると飼い主が理想とする猫像に近い猫を飼わなければいけないのです。そのために、最初にできることは、各猫種(雑種を含む)の「行動や性格」の特性を理解して猫種(雑種)を選ぶことなのです。
少し熱く語ってしまいましたが、猫を飼うときに猫の行動で猫を選ぶことの重要性を分かって頂けましたでしょうか?

本の内容
構成
この本は前文やエピローグ、参考文献などを除くと全134ページから成る極めて短い本です。章は全8章で構成されており、メインの内容は6~7章であり、各猫種における行動や性格の傾向について詳しく記載されています。その他の章では猫の家畜化などの歴史や問題行動に対する対処法などについて各章10ページ程度で軽く記載されています。
本のタイトルにあるように、性別による行動の違いなども記載されてはいますが、その内容はさらっとしています。それでも十分に有意義な内容ですが…
まとめ方
この本のメインの内容である性別や各猫種における行動や性格の違い(6~7章)については執筆者夫妻が行った1つの研究の結果をもとに記載されています。そのため、研究方法や統計処理方法なども多少詳しく記載されている部分があり、初心者の人にとっては読みにくいところもあります。したがって、あまり学術論文などを読んだことがない人にとってはとっつきにくい箇所もありますが、その辺りは飛ばしても全く問題がありません。
一方で、結果については、棒グラフで視覚的に分かりやすく提示してあるため、英文の解説を読まずとも理解することができます。この点は英語嫌いな人にとっては有難いのではないでしょうか。
猫種による行動や性格の違い
7章では17種の猫種の性格や行動について取り扱っています。評価している項目としては、「家族への愛情深さ」「家族への攻撃性」「他の猫に対する攻撃性」「活動レベル」「鳴き声」「遊び好きの度合い」「友好度合い」「恐怖の感じやすさ」「トイレの使い方」「スプレー行動」「家具への爪とぎ」「捕食行動」です。各項目ごとに10点満点で得点をつけています。得点の算出はアンケートのデータと統計学的解析に基づいているため執筆者の主観は一切入っていません。
7章ではそれ以外にも、猫種の歴史や罹りやすい病気などが記載されています。実は、この歴史の中で語られる猫種の伝説がたいへん面白くて勉強になります。

良かった点
- 性別・猫種による性格や行動の違いが視覚的に簡単にわかる(英語に自信がない人でもわかる)
- 各猫種にまつわる伝説が面白い
- 8章に書かれている豆知識的な部分が意外にも面白い
- 英語が比較的簡単
- 重要なところは英語ができなくてもわかる
- 少しだけ図が入る
- 参考文献がしっかりと記載されている
悪かった点
- すべての猫種の性格や行動が記載されているわけではない(雑種を含む17種のみ記載)
- 去勢・避妊手術をした猫を対象としているため、未手術の猫の行動については分からない
- 1, 2, 4, 5章の内容が少し薄っぺらい(正直いらないかもしれない)
- もう少しボリュームが欲しい
英語に関して
この本で使用されている英語はさほど難しいものではありません。専門用語などの使用も控えているため(統計の説明の部分を除く)、一般の人でも読みやすいです。これは執筆者も公言しており、この本は極力知識の無い一般の人でも読めるようにしてあるとのことです。
本文も短いため、英語ができる人では約3時間〜4時間程度で読むことができます(ネイティヴで平均2時間)。英語に自信がない人は電子書籍版を購入すると効率よく読めます。
極端な話、英語が全くできない人でも5章の性別と6~7章の猫種のところは理解することができます(結果が棒グラフであるため)。

意外な面白さ
この本のメインの内容とは異なる雑学的な内容が8章に記載されています。ほんの10ページ程度の内容ですが、これが意外にも面白いんです。面白かったトピックとしては、「なぜ猫は雑草を食べるのか?」「なぜ猫はあくびをするのか?」「なぜ猫はキャットニップに反応するのか?」でした。
おそらく多くの方が「猫が雑草を食べるのは食物繊維を摂取したいからだ」、「猫があくびをするのは酸素が足りないからだ、緊張を緩和するためだ」と考えますよね?でも実はそうではないかもしれないんですよ!(あくまでも仮説の話ですが…)。キャットニップに関してはある面白い仮説が出てきます。
この雑学的な部分は「さすが、猫だけでなくその他の動物の行動にも精通しているだけあるな〜」と筆者を称賛したくなるほどです。
総評
この本は英語が苦手な方でも読みやすくなっており、高校程度の英語力があれば大まかな内容は理解することができます。本の内容はとても面白く、特に性別や猫種に関する行動や性格の違いについては分かりやすく解説されています。また、それ以外でも雑学が大変面白く、猫好きにとっては勉強になることばかりです。
筆者はこの本を読んで、日本で人気があるベンガルは「やっぱり難があるな〜」っと改めて思いました。笑 そこらへんは猫に何を求めるかによって判断が変わってきますけどね。
結論としては猫をこれから飼おうとする人だけでなく、誰かに猫のアドバイスをしようとする人はマストで読まなければならない本といえるでしょう。
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