猫好きであれば、「ネコリパブリック」という名前を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?
知らない人のために端的に紹介するとネコリパブリックとは 全国5都道府県に7店舗(2017年1月現在)存在する保護猫カフェになります。
そんなネコリパブリックを運営する河瀬麻花さんが書いた書籍「ネコリパブリック式楽しい猫助け」を今回レビューしていきます。
ネコリパブリック
ネコリパブリックは普通の猫カフェでありません。お店の中にいる猫のほとんどが野良猫や多頭飼育崩壊により行き場をなくした猫なのです。最近そういった保護猫カフェが増えてきています。そんな保護猫カフェのカリスマ的な存在がネコリパブリックであり、メディアへの露出度も高いです。
この本にも書いてあるようにネコリパブリックは 「自走型保護猫カフェ」という特徴もあります。つまり、保護猫活動(保護猫カフェの運営)に必要な経費など得られた利益で賄おうとしているということです。多くの保護猫団体では寄付などに頼らざる得ないことが多いのですが、ネコリパブリックでは安定した保護猫活動を行うために「自走型」にこだわっているようです。
「ネコリパブリック式楽しい猫助け」の基本情報
この本は2016年12月30日に初版が河出書房新社から発売されています。全182ページで構成されており、価格は紙媒体で税込1,512円、電子書籍で税込1,210円になります。この本の帯には「中川翔子さん推薦!」といったことや、当然のことながら「この本の印税はすべて保護猫たちの医療費・ご飯代に使われます」といったことが記載されています。
内容としては、当然ながら一般書ということもあり、難しい内容は一切ありません。そこまで長くもなく、随所に写真があるため、早い人であれば1~2時間で読破することができます。
「ネコリパブリック式楽しい猫助け」の内容
ネコリパブリックの説明
当然のことながら「ネコリパブリック」の歴史や思想などが記載されています。具体的には先ほどのべた「自走型」であったり、どういった猫がネコリパブリックに保護されるのかであったり、ネコリパブリックができた経緯などが紹介されています。また、ネコリパブリックでは人間よりも猫が偉いというコンセプト(思想に近い)が語られており、ネコリパブリックのプロデュースがしっかりとされていることが理解できました。
河瀬麻花さんの歴史
ネコリパブリックを立ち上げ、この本の著者でもある河瀬麻花さんの歴史についても結構なページ数が割かれていました。おそらくこの本の2/5ほどは彼女の歴史のような気がします…
例えば、河瀬麻花さんが猫好きであった小さい頃の話やインドの話、ベーグル屋の話、ネコリパブリックを立ち上げようとした話などです。

筆者は一度も河瀬麻花さんにお会いしたことはありませんが、この本を読んで感じた彼女の性格はとても明るくて、活発で、行動的であるという印象を受けました。一言で言うとバイタリティーの溢れる人でしょうか。そういった人だからこそ様々な人を巻き込んで現在の「ネコリパブリック」を作ることができたのでしょう。
ただし、少しこの歴史の部分にページ数を割き過ぎのような気がします。ネコリパブリックの設定では猫が最も偉くて猫が主人公なはずなんですが…
猫の殺処分
現在の日本において殺処分される猫がどの程度いて、その多くがどのような猫かについての話やそれに絡めた猫の保護の必要性なども軽く説明されています。ネコリパブリックでは2022年2月22日に日本において猫の殺処分ゼロを目指しているようです。
保護猫の話
やはり一番気になるのは保護猫の話ですよね。今までネコリパブリックで保護された猫の具体的な話がちらほら出てきたり、ネコリパブリックの譲渡システムの話なども軽くですが述べられています。さらに、成猫や猫後天性免疫不全症候群(FIV)、猫白血病(FeLV)を発症している猫の譲渡を促進するために、年齢や病気がいかに問題がないかという話などが記載されています。
ちなみにネコリパブリックではそういった病気を発症している猫に「りんご猫(FIVの猫)」「レモン猫(FeLVの猫)」という名前をつけており、すごく良い発想だと感心しました。ただ、この保護猫に関する話は軽くしか書かれておらず、少し残念でした。ネコリパブリックでは猫が主体なはずなんですが…
クラウドファンディング
ネコリパブリックでは様々な保護猫活動にクラウドファンディングを多用しています。そのため、クラウドファンディングを始めたきっかけの話やその事例、クラウドファンディングの重要性などについて述べられています。ここの部分が意外と長いです。
保護猫活動では多くの方の協力が絶対的に必要になってくるため、SNSやクラウドファンディングを利用する方法はまさしく理にかなっていると感じました。次世代の保護猫活動の形を垣間見たような気がしました。
良かった点
- 読みやすい
- ネコリパブリックについて知ることができる
- 河瀬麻花さんの人柄と人を巻き込む力の強さがわかる
- 保護猫活動においてクラウドファンディングやSNSを利用することの重要性がわかる
- 「りんご猫」と「レモン猫」の発想
- この本の印税はすべてネコリパブリックの保護猫にいくこと
悪かった点
- 河瀬麻花さんの歴史に割かれているページ数が多い
- 保護猫に関する内容が少なく、その内容も浅い
- ネコリパブリックにおける猫の福祉についての配慮が全く記載されていない
- 保護猫活動に関する助言などが少ない
まとめ
この本はざっくり言うとネコリパブリックはこういうもので、こういった経緯で作られ、今までこのようなことをしてきて、今後はこのようなことをしていきますよ、ということが書かれた本です。
そのため、保護猫活動をしている人に対する助言などは載っていません。ただ、おそらくですが、「この本に載っているようなネコリパブリックの例を参考にして、沢山の人をまきこみ、クラウドファンディングやSNSなどを利用して様々な保護猫活動をしていくことが重要なんですよ」と言っているのでしょう。
保護猫活動をしている人、保護猫活動に興味がある人、保護猫活動をしようとしている人、そんな人達がひとつの保護猫活動のモデルとして参考にするのは良いかもしれません。ただし、実際に保護猫活動をする際は猫の福祉に関してしっかりと勉強してから始めてくださいね。
もし、猫の福祉の観点からのレビューに興味がある方は下のおまけも読んでください。
おまけ
猫の福祉
「ネコリパブリック式楽しい猫助け」では猫の福祉については全くもって記載がありません。「この本はそういうことを述べる本ではないのですよ。」と言われそうですが、ネコリパブリックが保護猫活動や保護猫カフェの経営、譲渡活動などを行っている以上はどのような猫の福祉が提供されているのかを少しでも良いので提示する必要があったのではないでしょうか?
猫の人慣れについて
猫の福祉に関して、とても気になる点がありました。それは本の中にあった次のような記載です。
人馴れしていない猫は一生人慣れすることはないのでしょうか?実はそんなことはありません。もちろん100%ではないですが、時間をかければ少しずつ猫と人との距離を縮めることは可能です。(ネコリパブリック式楽しい猫助け)
一度も人と接したことのない成猫や、あまり人に接したことのない成猫にとっては、人に馴れようとすることはすごくストレスです。特にその過程ではものすごいストレスが猫にかかります。
また、人に馴れたかのように見えても猫はストレスを感じていることが多いと言われています。そのため、海外のシェルターなどでは人に対して慣れていないノネコや野良猫にはTNR(Trap-Neuter-Return)やTNRe(Trap-Neuter-Release)を行うことが基本になっています。
ふくちゃん
「ネコリパブリック式楽しい猫助け」において「ふくちゃん」と呼ばれる猫の話があります。ふくちゃんはネコリパブリックで初めて亡くなった猫です。ふくちゃんは人馴れしておらず、ネコリパブリックにて人馴れを地道におこない、順調に人馴れがしてきたと思われた矢先、ある日突然「胸膜炎」で亡くなります。
胸膜炎の原因としてこの本では風邪に伴う肺炎が原因と記載されていました。そして、ふくちゃんがもっと人馴れしていれば、スタッフがその異常に気づけたのではないかと反省し、猫が人馴れすることの重要性などを語っています。
ストレス
筆者はふくちゃんの命を奪った根本的な原因は慢性的なストレスだと考えています。詳しいストレスの機序については割愛しますが、慢性ストレスにより免疫系の機能が低下して風邪を引き、肺炎が起こり、胸膜炎へとつながったのではないかということです。あくまでも推論であるため、実際のところは違う可能性も十分にありますが、少なからずストレスの影響はあるでしょう。
では、この慢性的なストレスがどこからきたかというと、ネコリパブリックの環境だということになります。人馴れを積極的に促したとしても、それは猫にとってはストレスであり余計なお世話なのかもしれません。ましてや複数の人間に馴れることはストレスがさらにかかります。
対応の仕方
ふくちゃんの場合は室内野良猫ということもあり、ReturnやReleaseすることができないため対応が難しいのも事実です。私の場合であれば、ふくちゃんのような猫に対しては積極的に人馴れなどの介入はしません。ましてや、大勢の人間とは接触させません。
当然のことながら、健康状態を見極め、環境に慣れさせ、猫の気質や行動の評価します。そして、素早くふくちゃんのような猫を欲しがっている里親さんを見つけ、その里親さんと猫の関係構築を手助けしていきます。この過程で重要なのは特定の1人や2人ぐらいの人間のみがこの猫とふれあうことができるという環境を作るということです。社会化がなされていない猫は特定の人(かなり少数)にならばストレスが少ない状態で馴れることができますが、複数の人間に馴れることはストレスになります。
猫の福祉を考えて!
猫が幸せになるには人馴れをしなければならないという発想は人間側の勝手な解釈だと思います。少し長々と書いてしまいましたが、ネコリパブリックのみならず日本のシェルターなどは「猫を救い、殺処分される猫の数を減らそう。」という気持ちが先行し過ぎており、「猫の幸せ(猫の福祉)」については後回しのような気がします。両方を先行して行うのが理想だと考えています。
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