猫の飼い主は飼い猫の首のあたりに1ヶ月に一度ノミ対策の薬を投与していると思います。ただ、猫によっては薬の「におい」が気になったりして、毎回過剰なグルーミングをしてしまい、毛玉を吐いてしまうなど、意外と煩わしいのが現状です。
そんな中、すでに犬で使用されているフルララネルfluralanerと呼ばれる化学物質を主成分としたノミ予防薬が猫にも適応できるという研究結果が報告されました。
この記事で紹介する論文は2017年1月19日にParasites & Vectors誌に掲載されたものです。原著論文はCreative Commonsライセンスであり、無料であるため気になる方は原著を読むことをお勧めします。
この記事を読んでわかること
- ネコノミの概要
- フルララネルを1度使用することで、その効果が12週間続く
- フルララネルは従来の薬品と比較して「下痢」や「食欲不振」といった副作用がある
- フルララネルはフィラリア症や内部寄生虫の対策には効果がない
- この研究はフルララネルを含む薬を製造しているメルク社が行っている
猫に感染するネコノミ
ネコノミは外部寄生虫であり、ネコノミの感染は紅斑(毛細血管の拡張による赤い斑点)や搔痒(かゆみ)などを引き起こし、猫がその部分を舐めたり、掻いたりすることで皮膚が傷つき問題になります。猫に感染するネコノミの多くの寿命は約12~14日と短命ですが、メスのノミは1日に50個も卵を産みます。そのため、人力でノミとその卵を取り除くのは不可能に近いです。
ネコノミ駆虫薬・予防薬
そういった猫に感染したノミを駆虫したり、ノミが寄生しないように予防する薬があります。そのような薬は1ヶ月に一度猫の首の後ろにたらします。しかし、こういった薬は意外と猫にとってはストレスです。例えば、薬のにおいなどにより過剰にグルーミングをすることがあります。
犬では「フルララネル」と呼ばれる成分を含んでいる薬が使用されることが多く、その効果は約12週間続くとされています。このフルララネルと呼ばれる有効成分は「イソオキサゾリン」と呼ばれる化学物質であり、これがノミだけでなくダニにも効きます。ちなみに犬での製品名は「ブラベクト」です。
猫に対するフルララネルの効果
猫に対してフルララネルを使用し、その効果と安全性について詳しく研究したのが今回紹介する研究になります。この研究ではフルララネルと比較するために従来より使用されているフィプロニルと(S)-メトプレンと呼ばれる有効成分を含む薬も使用しています。
フルララネルの効果
224匹の猫にフルララネルが使用されました。フルララネルは従来の薬と同様、猫の首の後ろにたらされていますが、研究開始日に1度だけの使用です。そして、その効果について、4週間ごとに評価していき、これを12週間続けています。
その結果、フルララネル使用前と比較して4週間で99.1%、8週間で99.5%、12週間で99.0%のノミが駆除されていました。また、90%以上のノミの減少が確認された猫の割合は4週間で93.9%、 8週間で96.2%、12週間で93.3%でした。
フィプロニル/(S)-メトプレンの効果
87匹の猫には従来の薬品であるフィプロニル/(S)-メトプレン(製品名:フロントラインプラス)が使用されました。それらの猫では28日ごとに猫の首の後ろに使用され、4週間ごとに評価し、12週間続けられました。
その結果、研究開始後4週間で46.5%、8週間で66.6%、12週間で75.8%のノミが駆虫されていました(使用前との比較)。また、90%以上の減少が観察された猫の割合は全体のうち4週間で10.0%、 8週間で31.6%、12週間で38.2%でした。
フルララネルの安全性
フルララネルを12週間使用された個体では、その後さらに3週間プラスしてフルララネルを使用し、安全性を確かめました。つまり、研究開始日より15週間後に安全性の確認を行ったということになります。
副作用
その結果、観察された副作用としては、嘔吐、下痢、食欲不振、搔痒、脱毛症、無力感、かさぶた/潰瘍などでした。
フルララネルとフィプロニル / (S)-メトプレンの副作用を比較した際に、フルララネルを使用した猫の多くで観察された副作用は下痢(全体の4.9%)と食欲不振(全体の3.6%)でした。一方、搔痒(かゆみ)については圧倒的に従来の薬であるフィプロニル / (S)-メトプレンの方で観察されました(全体の11.5%)。
その他の副作用は両方の治療群で同様の割合で観察されました。血液検査や尿検査では病的な値は確かめられませんでした。
まとめ
フルララネルは猫の首の後ろにたらして使用し、1度の使用で3ヶ月間(12週間)は効果が続くようで、その効果は従来の薬よりも効果があるようです。しかし、次のような問題点があります。
研究を行っているのが「メルク社」
実はこの研究を行っているのはアメリカのメルク社の社員になります。そして何を隠そうこのメルク社がフルララネルを製品化しており、犬用の「ブラベクト」を生産・販売しているのです。いくら、研究においてバイアス(偏り)が起こらないような配慮をしたとしても従来の薬よりも効果があるデータを出すのは当たり前です。
また、従来の薬としてあげた「フィプロニル / (S)-メトプレン(製品名:フロントラインプラス)」の実際の効果が低すぎます。明らかに「フロントラインプラス」の製造会社の数値(外部リンク)と違います。これについてはフロントライン側に問題があるのかもしれないのでなんとも言えませんが…
フィラリア症などには効果がない
現在、多くの動物病院で処方されているノミ・ダニ対策の薬の多くにはフィラリア症や内部寄生虫対策に関わる成分も含まれています。具体的な製品名をあげると、「レボリューション」や「アドボケート」です。今回の研究で使用されたフルララネル(製品名:フロントラインプラス)はあくまでもノミやダニのみに効果があり、フィラリア症や内部寄生虫には効果がありません。
そのため、現在「レボリューション」や「アドボケート」を使用されている方がフルララネルを含む薬へと切り替えることはできません。使用する場合にはフィラリア症などに対する薬品を別に使用することになります。
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原著論文
Cheyney Meadows, Frank Guerino, Fangshi Sun. A randomized, blinded, controlled USA field study to assess the use of fluralaner topical solution in controlling feline flea infestations. Parasites & Vetors (2017) 10:36, DOI: 10.1186/s13071-017-1971-5.
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