猫慢性腎不全は高齢の猫の15-30%が発症するものです。そして、さらにその慢性腎不全を発症した猫のうち30%-65%の猫に貧血の症状がでます。ヒトに関してはこの腎不全と貧血の関係性についてはよく研究されているのですが、猫ではあまり研究されていませんでした。その点に着目した最新の論文を少し紹介していきます。
なお、この記事は2017年1月31日付でJournal of Internal Veterinary Internal Medicine誌発表された論文を基にしています。この論文は無料(Creative Commons license)で閲覧できるため、興味のある方は原著を読むことをお勧めします。
この記事でわかること
- 慢性腎不全の猫では血液内の炎症関連物質が増加する
- 慢性腎不全の猫では血液内の鉄とそれらを調節する物質の量が変化する
- 貧血を呈する猫は機能性貧血であるため、鉄のサプリメントを与えても意味がない
- 複雑な要因が絡み合い貧血を起こしている可能性がある
目次
慢性腎不全
慢性腎不全とは、何らかの原因により慢性的に腎臓の機能が低下するような状態の総称です。したがって、さらに細かな病名に分類することができます。今回の研究では慢性腎不全の猫(38匹)と健常の猫(18匹)に血液検査を行い、慢性腎不全の際にどのようなことが起こっているのかを調べています。
慢性腎不全の猫では炎症が起こっている
慢性腎不全の猫の血液中では血清クレアチニンと血清アミロイドAの増加、総鉄結合能の低下が観察されました。これらの値は変化は身体のどこかで炎症が起こっている可能性を示唆するものです。慢性腎不全では腎臓で炎症が起こることが知られているので、これらの炎症は腎臓に起因している可能性があります。
そして、この炎症がヘプシジンと呼ばれるホルモンの分泌増加と関連しているということも知られています。ヘプシジンについては次に詳しく説明します。
慢性腎不全の猫では鉄の欠乏が起こっている
慢性腎不全の猫の血液中では鉄の濃度の低下とヘプシジンと呼ばれるホルモンの増加が観察されました。ヘプシジンは鉄代謝ホルモンとして近年発見されたタンパク質で、ヘプシジンが増加すると体内の鉄が欠乏するということがわかっています。そのため、慢性腎不全の猫では鉄が欠乏しているということがわかります。
貧血が起こっている猫では機能性貧血(腎性貧血)が起こっている
鉄欠乏性貧血
貧血には様々な種類のものがあります。一つ目は誰もが想像する純粋に血液中の鉄が不足するという鉄欠乏性貧血です。鉄分が欠乏すると赤血球と呼ばれる酸素を運ぶ細胞が作れなくなるので貧血になるというわけです。
機能性貧血
そして、その他の貧血として機能性貧血があり、これは総称になります。その中に特に有名なものとして腎性貧血があります。これは腎臓から分泌されるエリスロポエチンと呼ばれるホルモンの分泌減少によって起こる貧血です。
エリスロポエチンは赤血球を作ることを促進するため、エリスロポエチンが低下してしまうと貧血になるということです。この貧血は鉄欠乏性貧血とは異なり、血中の鉄濃度などは関係がありません。
貧血を患っている慢性腎不全の猫
貧血を患う慢性腎不全の猫とそうでない慢性腎不全の猫を比較してみると、貧血がある猫ではエリスロポエチンの値や総鉄結合能(TIBC)の低下が観察されました。また先ほどと同様に炎症の指標である血清クレアチニンと血清アミロイドAが増加していました。このことは貧血をもつ慢性腎不全の猫では機能性貧血(腎性貧血)が起こっていることを示しています。
こういった猫の場合、サプリメントととして鉄を処方しても意味がありません。なぜなら、鉄の不足よりも鉄を利用する過程が障害されているからです。
慢性腎不全の際におこる貧血のシナリオ?
この結果より次のようなことが推測できるのかもしれません(かなり端的です)。
まず、慢性腎不全により腎臓に炎症が起こります。そして、その炎症によりヘプシジンと呼ばれる鉄代謝ホルモンの分泌が増加します。このヘプシジンが体内で増加すると鉄が欠乏する傾向にあります。
また、慢性腎不全の猫の中でも特に炎症が強く起こっている猫では腎臓の機能が著しく損なわれているため、腎臓からエリスロポエチンと呼ばれるホルモンの分泌が低下します。そのためエリスロポエチンの作用が少なくなり、赤血球があまり作られずに貧血がおこるのかもしれません。何度も言いますがあくまでも推測です。
まとめ
慢性腎不全の猫では様々な炎症関連物質の血液濃度が高くなります。また、血液内の鉄そのものや鉄に関する物質の濃度も変化します。様々な複雑な変化が起こり、絡み合うことで貧血というひとつの症状が起こってくることがわかりました。
複雑ですよね。
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原著論文
Javard, R., Grimes, C., Bau-Gaudreault, L. and Dunn, M. (2017), Acute-Phase Proteins and Iron Status in Cats with Chronic Kidney Disease. J Vet Intern Med. doi:10.1111/jvim.14661
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