猫カリシウイルス感染症は猫の風邪などとも呼ばれ、猫においては頻度が高い感染症になります。猫カリシウイルス感染症が発症すると口腔内の潰瘍、唾液、歯肉炎、口内炎、結膜炎、くしゃみ、鼻水などの症状が観察されるようになります。その他にも発熱や抑うつ、体重減少、無気力、皮膚の潰瘍などの症状を呈することがあります。
そんな猫カリシウイルス感染症を予防するためのワクチンには様々な種類のものがあります。最新の研究は生ワクチンと不活性化ワクチンの効果について比較・検討しています。
生ワクチンと不活性化ワクチン
猫カリシウイルスのワクチンには生ワクチンと不活性化ワクチンがあります。生ワクチンは弱毒化された生きたウイルスを利用する方法であり、一方で不活性化ワクチンは増殖性を欠失させたウイルスを利用する方法になります。研究で使用されたワクチンは以下の2つのワクチンです。右のFCV-xxxはワクチンに含まれる猫カリシウイルスの株(種類)を示しています。
- Leucofeligen® FeLV/RCP:FCV-F9(生ワクチン)
- Purevax™ RCP FeLV:FCV-431, G1(不活性化ワクチン)
生ワクチンと不活性化ワクチンの他にも、ウイルス株の種類やその数が異なります。例えば、Purevax™の方には2種類のウイルス株が含まれています。ちなみに、この研究を行っているのは1番目の薬剤を開発しているVirbec社であり、研究の解釈には注意が必要です。
ワクチン投与
生後9週の子猫30匹を「Leucofeligen®投与群」、「Purevax™投与群」、「ワクチン非接種群」の3群にランダムに振り分けていき、実験開始日と21日目にワクチン接種を行っていきます(ワクチン2回接種)。そして、49日目に全ての猫にFCV-FR4_01というウイルス株を鼻腔経路で感染させていきました。このウイルス株とワクチンで使用されているウイルス株の相同性は70%前後であり、どちらかのワクチンが有利に働くということはありません。
ワクチン接種後の抗体の濃度やウイルス感染後の症状やウイルス濃度について調べていき、ワクチンの効能について比較していきました。
生ワクチンの方が効果があるかも?
生ワクチンと不活性化ワクチンに関わらず、ワクチン接種後の抗体(IgG)の数は有意に増加しました。しかし、不活性化ワクチンについては生ワクチンよりも抗体の数が増加するまで時間を費やし、明らかに生ワクチンの方が抗体が増加する速度が速いことがわかりました。
ウイルス感染後の猫の状態を観察していくと、ワクチン接種群では非接種群と比較して体重減少が起こりにくく、体温上昇も起こりにくいということがわかりました。体温上昇に関しては、生ワクチンの方が体温上昇が抑制される期間がありました。加えて、ワクチン接種群では非接種群と比較して臨床症状を示しにくいという結果になりました。
鼻腔のウイルスの濃度について調べたところ、生ワクチン群は不活性化ワクチン群や非接種群よりもウイルス濃度が低下するという結果になりました。
上記の結果は、ワクチン接種により猫カリシウイルス感染症の予防を行えることを示しています。また、生ワクチンの方が、不活性化ワクチンよりも迅速かつ強力な免疫系を構築できる可能性を示唆しています。
まとめ
最新研究により猫カリシウイルスの生ワクチンと不活性化ワクチンの比較が行われ、生ワクチンの方が効能がある可能性が示唆されました。ただし、生ワクチンと不活性化ワクチンの他にも、ワクチンに使用されているウイルス株の種類やその数が異なっているため、その他の要因が関与している可能性があります。また、繰り返しますがこの研究はVirbec社が行っているものであり、自社製品の効果を悪く言えないということは気をつけなければなりません。
研究とは関係ありませんが、ワクチンなどの研究には、その効果を調べるために、ワクチン接種後に人為的に猫にウイルスを投与するという実験を行います。このような研究はかなり慎重に行うべきであり、猫に極力負担がかからない方法を模索して欲しいと思います。猫は人間に対して実験に参加したいという意思表示なんてできませんからね。
今回紹介した論文はオープンアクセスであり、誰でも読むことができます。
原著論文
Slmeras T, Schreiber P, Fournel S, Martin V, Nicolas CS, Fontaine C, Lesbros C, Gueguen S. Comparative efficacy of the LeucofeligenTM FeLV/RCP and PurevaxTM RCP FeLV vaccines against infection with circulating feline Calicivirus. BMC Veterinary Research (2017) 13:300 DOI 10.1186/s12917-017-1217-y
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