岩手大学とルイジアナ州大学の研究チームは猫の尿抽出物を作製し、その効果についての探索を行いました。その結果、猫の尿抽出物には猫を惹きつける効果があるとともに、糞尿を防止する効果があることが示唆されました。この記事ではこの研究の概要について少しだけ紹介していきます。
猫の尿抽出物の作製
研究ではまず、猫の尿から特に猫が興味を示すような尿抽出物の作製を行いました。未去勢の2~3歳のオス猫6匹より集めた尿を有機溶媒を用いて水層と有機溶媒層に分離し、猫に提示したところ、有機溶媒層においてフレーメン反応の頻度が高くなることがわかりました。このことより、猫は猫の尿の中でも水層よりも有機溶媒層により興味を示すということが示唆されました。この研究ではこの有機溶媒層を尿抽出物として以降の実験で使用しています。
猫は尿抽出物に誘引される
次に、実験室の猫や屋外の野良猫に尿抽出物とクロロホルムの2つの刺激を提示し、その反応を観察したところ、猫はクロロホルム(コントロール刺激)よりも尿抽出物に惹きつけられることがわかりました。ちなみに、このイエネコの尿抽出物の誘引効果は保護目的で飼養されているボブキャットでも観察されました。
猫は尿抽出物の近くでは排泄をしない?
研究者らは、前述した実験を行った際に、猫が尿抽出物を嗅いだ後に排尿や排便を行わずにその場を立ち去ることに気づきました。そのため、尿抽出物に糞尿防止効果があるのかを調べるために、野良猫がほぼ毎日排便を行う場所に猫の尿抽出物を置き、野良猫の行動を観察しました。
その結果、尿抽出物を置いた際には野良猫は排便や排尿をせずに立ち去るということがわかりました。面白いことに、野良猫は尿抽出物を嗅いだ後にも度々同じ場所に現れる様子が観察されており、尿抽出物がそこまで縄張りに影響を与えるものではないことも示唆されました。
まとめ
最新の研究により猫の尿の有機溶媒層に含まれる成分には猫を誘引したり、糞尿防止効果があるということが示唆されました。糞尿防止効果については、研究者らはその他の猫の尿を提示された猫はその尿の主がその近くにいると考え、糞尿などをせずに立ち去ると推測しているようです(日本の研究.com)。
この尿抽出物の誘引の効果を利用すれば、野良猫やノネコの数を把握したりすることができると思います。また、この誘引の効果はボブキャットなどの他のネコ科動物でも観察されることも分かったため、絶滅危惧種のネコ科動物の個体数の把握などにも貢献する可能性もあります。
一方で、糞尿防止効果については、野良猫やノネコの糞尿被害の防止する上で重要になると考えられています。しかし、その効果の詳細についてはもう少し研究が必要です。また、現状のままでは尿抽出物の中には猫の尿が発する不快なニオイが含まれているため、糞尿被害の防止のために、自ら人工の臭い尿を設置するという羽目になってしまいます。そのため、尿抽出物の中から猫にとって本当に意味のある化学物質などが解明され、その化学物質が分離されると実用的になるのではないかと感じました。
研究とは関係ありませんが、野良猫やノネコの糞尿被害を一箇所で防止しても、猫たちは別の場所で糞尿を行います。糞尿被害を防止することも重要ですが、野良猫やノネコが糞尿しやすい場所を地域ごとに複数作製し、その場所を地域の人や猫団体などで管理することも重要な気もします。
なお、より詳しい内容について知りたい方はこちらのページより原著論文を読むことができます(オープンアクセスではないため、読めなくなっている可能性もあります)。また、こちらのページでは一般の方向けのプレスリリースを読むことができます。
原著論文
Miyazaki M, Nishimura T, Hojo W, Miyazaki T, Laine RA, Yamashita T. Potential use of domestic cat (Felis catus) urinary extracts for manipulating the behavior of free-roaming cats and wild small felids. Applied Animal Behaviour Science(2017), http://dx.doi.org/10.1016/j.applanim.2017.07.003
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