蚊が活動する季節ではフィラリアが心配ですが、フィラリアは予防を行うことで発症を防ぐことができます。一方で、フィラリアを治療するのは難しいのが現状です。そんな中、フィラリアに感染した猫の大腿動脈から外科的にフィラリアを取り除くという手術が世界で初めて行われました。
フィラリア症とその治療法
フィラリア症は犬糸状虫と呼ばれる寄生虫により引き起こされ、主に蚊などにより媒介されます。寄生虫が大きくなり成虫になった時には、猫の肺動脈などに居座ります。その結果、フィラリア症に感染した猫では咳が起こったり、喘鳴が見られたり、嘔吐などが引き起こされたりします。
猫の体内は犬と違い、犬糸状虫にとっては適した環境ではないため、猫の免疫力を高めることで自然と治癒することがあります。しかし、一部の猫では治癒せずに成虫となった犬糸状虫が悪さをすることもあります。猫にフィラリア症の治療を行う際に、犬に使用されるフィラリア治療薬を猫に適用することもできません。犬では寄生虫が大きくなり、多数いる場合には薬物療法は用いずに、外科的に取り除く方法が採用されることもありますが、その方法が体の小さい猫に適応されることはかなり稀でした。一応、日本でも2008年に行われていますが1)、大腿動脈からフィラリアを取り除く試みは今まで行われたことはありません。
世界初となる猫のフィラリア外科手術
2017年7月3日、カリフォルニア大学デービス校(以下UC Davis)は世界で初めてとなる猫のフィラリア症外科手術が成功したことを発表しました。UC Davisは世界獣医学部ランキングのトップに君臨する超有名大学です。
世界屈指のUC Davisの獣医療チームは1歳の頃にフィラリアに感染した4歳のシャム猫 Stormieちゃんの手術を行いました。彼女は右足が脱力し、動かない状態であったため、動物病院に連れて行かれ、フィラリア症と診断され、UC Davisの獣医師へと紹介されました。
UC Davisにて詳細な検査が行われたところ、肺動脈に存在するフィラリアが腹大動脈を下行し、右大腿動脈の部分まで到達していることがわかりました。つまり、右大腿動脈にいるフィラリアが右足への血液供給を妨害しているために、Stormieちゃんの右足の組織が正常に機能せずに、脱力状態になっているということがわかったということです。もちろん、それ以上放っておくと、右足への虚血状態が続き、右足を切断しなければならなくなります。その状況を避けるために、UC Davisの獣医療チームは右大腿動脈からフィラリアを取り除く手術を行いました。
実際の動画がこれです(削除されていたらすいません)。血が苦手な人はご覧にならないようにしてください。
手術は無事成功したようで、取り除かれたフィラリアの体長は約13cmだったとのことです。動画を見てわかると思いますが、フィラリアって本当にパスタみたいですよね。
まとめ
フィラリアは取り除かれても小さい断片に別れ、体内に残っているため、しばらくの間は抗生物質などを使用し、Stormieちゃんの体内に残っているフィラリアを治療する必要があります。また、小さなフィラリアが血栓(血の塊)を作り、血管内を詰まらせるといけないので、それを予防する薬も使用される必要があります。
今後、1ヶ月ほどの回復期間を経て、右足の様子を伺い、筋肉や神経が正常の機能を取り戻した場合には、右足を切断する必要はないようです。しかし、もし右足の機能が回復しない場合には切断の選択肢がまた浮上してきます。今回手術を行ったUC DavisのOldach博士は、この結果を論文としてまとめるという意思表示をしているため、もしStrormieちゃんが何事もなく回復すれば、今後、猫におけるフィラリア症の外科手術も普及していくのかもしれません。
どれだけ難しい手術かわかりませんが、手の器用な日本人にとってはさほど問題ないような気がするのですがどうでしょう。
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参照サイト
UC Davis Veterinarians Remove Heartworm from Cat’s Femoral ArteryーUC Davis
UC Davis veterinarians remove heartworm from cat’s femoral arteryーDVM360
参考文献
1) Iizuka T, Hoshi K, Ishida Y, Sakata I. Right atriotomy using total venous inflow occlusion for removal of heartworms in a cat(2009). J Vet Med Sci. 71(4):489-91.
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