2007年〜2016年にアメリカ・シカゴのクックカウンティで行われたTNRの効果についてのケーススタディが発表されました。
クックカウンティにおけるTNR活動
クックカウンティでは、2007年にノネコ・野良猫の世話と管理に関する条例、「Managed Care of Feral Cats」条例が制定されて以来、数多くのTNRが行われてきました。この地域におけるTNRは、2004年より開始され、「Cats In My Yard(以下CIMY)」というプログラム名で知られています。CIMYの創設者はSmetkowski氏であり、もともとは彼女の庭に入ってくる野良猫やノネコたちをTNR、もしくは譲渡のために保護施設へ預けるということから始まりました。その後、CIMYは広がりを見せ、近隣の地域にも広がりを見せはじめ、3年後の2007年には多くのコロニーが確立されるようになりました。Smetkowski氏はかなり熱心にプログラムを進めるとともに、各コロニーの猫の数についても、定期的に記録しており、猫の数の変動について可視化することができます。
今回のケーススタディでは、Smetkowski氏のデータやクックカウンティにおけるシェルターや行政機関のデータ(2007年〜2016年)をもとに、クックカウンティにおけるTNRの効果に関する検討が行われています(CIMY以外のTNRプログラムの効果も検討されています)。
CIMY
CIMYでは、10年間で20個も猫コロニーが確立され、195匹の猫がTNRもしくは譲渡されてきました。その甲斐あってか、2016年の段階では、捕獲された195匹の猫のうち44匹(22.6%)しか、コロニーに残っておらず、20個のうち8個のコロニーからは猫がいなくなりました。結果として、各コロニーにおいて、最初の猫の数と比較して、平均して約54%もの猫の数の減少が観察されました。
Smetkowski氏は、TNRを行った猫たちを記録しているため、TNRが行われていない猫に関しては、記録に残されておらず、そのような猫がどれぐらいいるのかは不明です。しかし、これらの結果は、TNRと譲渡により猫の数が減少する可能性を示唆しているものと言えるのではないでしょうか?
その他のTNR活動
クックカウンティではTree House Humane Societyと呼ばれる、シェルターを運営するチャリティ団体も2011年から2015年にかけて、大規模なTNRを行っています。この団体では、特定の郵便番号の地域に狙いを定め、TNRや譲渡を行っています。そして、その結果、4年間通してTNRを行った2つの地域からの、行政機関への猫の搬入が、78.6%(地域1)もしくは62.7%(地域2)も減少しました。
これらの結果は、あくまでも間接的指標によりTNRの効果を見ているものの、その減少幅の大きさを考えると、本当に猫の数が減少していることを示しているのかもしれません。
まとめ
今回のケーススタディの凄いところは、一人の一般市民が収集したデータをもとに構成されているということです。日本でも小さな団体や個人がTNRを行っていますが、その管理を徹底的に行うことで、一人一人が科学者となり、TNRの効果を示すことができます。実際に効果があるということを数字で可視化することができれば、TNRの効果について懐疑的な人たちを説得させるだけでなく、自分たちのモチベーションの維持にもつながってくるのではないでしょうか?
TNRの効果については、この他にもアメリカのマサチューセッツ州・ニューベリーポートにおける事例などがあります。TNRの評価について関心がある方は「TNRにおける目標設定とモニタリングの重要性 ースマートTNR」の記事を参照ください。
今回紹介した研究はオープンアクセスであり、誰でも自由に閲覧することだできます。
原著論文:Spehar DD and Wolf PJ, A Case Study in Citizen Science: The Effectiveness of a Trap-Neuter-Return Program in a Chicago Neighborhood. Animals 2018, 8, 14.
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