コペンハーゲン大学の研究者らは、最新研究において血清対称性ジメチルアルギニン値SDMAが慢性腎不全の猫で高くなり、糖尿病の猫で低くなるということを報告しています。
目次
対称性ジメチルアルギニン
対称性ジメチルアルギニンSDMAは慢性腎不全の診断に関わる血清マーカーです。血清SDMA値は糸球体濾過量GFRが減少すると増加し、血清クレアチニン濃度よりも17か月も前に高くなることが示唆されており、慢性腎不全の早期診断という観点から近年注目を集めています。
しかし、血清SDMA値は慢性腎不全だけでなく、肥大型心筋症(ヒトの研究)や糖尿病においても変化することが知られています。そのため、血清SDMAの値の変化が純粋に慢性腎不全に起因するのかはあまり明らかではありません。今回の研究では、慢性腎不全、肥大型心筋症、糖尿病の猫を別々に解析することで、それぞれの疾患における血清SDMA値の変化について観察していきました。
血清SDMA値は慢性腎不全で高くなり、糖尿病で低くなる
17匹の猫が慢性腎不全群、40匹の猫が肥大型心筋症群、17匹の猫が糖尿病群、20匹の猫が健康なコントロール群に割り振られていき、それぞれの血清SDMA値について解析されました。
その結果、先行研究の通り、慢性腎不全の猫では他の3つの群と比較して血清SDMA値が有意に高くなることがわかりました。一方で、糖尿病の猫ではその他の3つの群と比較して血清SDMA値が有意に低くなることがわかりました。肥大型心筋症の猫の血清SDMA値はコントロール群と比較して変化がありませんでした。
糖尿病の猫において血清SDMA値が低くなるのはなぜ?
糖尿病の猫において血清SDMA値が低下する理由としては、インスリン抵抗性の増加により、SDMAの細胞内への取り込みの増加、腎臓における濾過量の増加、肝臓におけるSDMAの代謝の増加が起こっている可能性が考察されています。
血清SDMA値は慢性腎不全の指標として使用しても良い?
今回の研究において、慢性腎不全と糖尿病を併発しているために解析から除去された猫の血清SDMA値は正常の値になることもわかりました。また、慢性腎不全の猫(17匹)のうち、5匹には血清SDMA値の上昇は観察されませんでした。さらに、コントロール群の猫(20匹)のうち1匹には血清SDMA値の上昇が観察されました。いずれも原因は不明です。
これらの結果は、慢性腎不全を診断する際に、血清SDMA値のみに頼ることはできず、その他の検査値や症状などを踏まえて診断する必要があることを示唆しています。
まとめ
先行研究と同じように慢性腎不全の猫においては、血清SDMA値が増加することがわかりました。一方で、ヒトの研究とは異なり、肥大型心筋症の猫では特に変化が観察されませんでした。そして、糖尿病の猫においては血清SDMA値が低下することがわかりました。血清SDMA値のみで慢性腎不全の早期診断を行うことは難しく、さらにそれが糖尿病を併発している場合にはなおさらのようです。そのため、血清SDMA値はあくまでも慢性腎不全の早期診断を行うための一つの指標として考える方が良いのかもしれません。
今回紹介した研究はオープンアクセスであり、誰でも無料で閲覧することができます。
原著論文:Langhorn R, Kieler IN, Koch J, Christiansen LB, Jessen LR. Symmetric Dimethylarginine in Cats with Hypertrophic Cardiomyopathy and Diabetes Mellitus. J Vet Intern Med(2017), doi: 10.1111/jvim.14902.
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