生まれたばかりの仔猫は母猫が巣からいなくなると、母猫を呼び戻すために懸命に鳴きます。これは仔猫の生存戦略であり、仔猫は母猫からケアをしてもらうことで、環境に適応しようとします。しかし、離乳期になると母猫は体力を使う授乳や排尿・排便の誘発など以前行っていた仔猫に対するケアを行わないようになります。では、そういった離乳期において、仔猫の鳴き声とその鳴き声に対する母猫の反応はどのように変化するのでしょうか?最新の研究がその詳細の一部について示唆してくれています。
仔猫の鳴き声の変化
コロニーで飼育されている仔猫と母猫を対象にした最新の研究によると、仔猫の鳴き声は出産後徐々に変化していくことがわかりました。例えば、母猫が巣から離れてから鳴くまでの時間は生後8週にかけて長くなり、仔猫が鳴く回数は生後8週にかけて少なくなるということがわかりました。
では、仔猫の鳴き声に対する母猫の反応はどのように変化するのでしょうか?仔猫の鳴き声が変化しても母猫の行動は同じなのでしょうか?
鳴き声に対する母猫の反応の変化
仔猫の鳴き声を録音し、母猫が巣から離れた際に録音した仔猫の鳴き声を定期的に聞かせ、母猫の反応を確かめたところ、出産8週後にかけて巣に戻るまでの時間が延長することがわかりました。また、出産8週後では一部の母猫は巣の付近に帰るもの(8匹中3匹)、巣の中に入るものはいませんでした。では、再び疑問が浮かんできますが、このような母猫の行動の変化は仔猫の鳴き声の変化によるものなのでしょうか?それとも母猫自体が変化しているからなのでしょうか?
この研究では、さらに生後1週目の仔猫の鳴き声を出産後2週、4週、8週目の母猫に聞かせ、母猫の反応も観察しました。その結果、母猫の鳴き声に対する反応性は特に変わらないということが分かりました。このことは、母猫は出産後しばらく経つと仔猫の鳴き声に反応しにくくなり、仔猫の要求に応えようとしないということを示唆しているのかもしれません。
まとめ
上記の結果をまとめると、生後8週にかけて仔猫の鳴き声の質は劇的に変化し、それと同じように、出産後8週にかけて母猫の鳴き声に対する反応も変化するということが分かりました。そして、どうやら仔猫の鳴き声の変化が母猫の行動の変化を引き起こしているのではなく、母猫の中で起こっている変化(ホルモン分泌量の変化などの生理学的変化)が原因であることが考えられます。
一方で、仔猫の鳴き声の変化がなぜ起こるのかについてはこの研究では全くわかりません。この点については仔猫の身体的発達が影響を及ぼしているのか、それとも鳴いても母猫が帰ってこないことを学習したのか、母猫のケアをそこまで必要としなくなったのかなど様々な理由が考えられると思います。
こうして仔猫の鳴き声の変化と母猫の行動の変化がほぼ同時期に起こると、仔猫の独立(離乳など)が円滑に進むと同時に、母猫にかかる負担も少なくなるため、とても効率が良いように思えてきます。
原著論文
Banszegi O, Szenczi P, Urrutia A, Hudson R. Conflict or consensus? Synchronous change in mothereyoung vocal communication across weaning in the cat. Animal Behaviour(2017), 130, 233-240. http://dx.doi.org/10.1016/j.anbehav.2017.06.025.
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