近年アレルギーのより詳細な診断が可能になってきました。それはComponent Resolved Diagnosis(日本語訳不明;以下CRD)と呼ばれ、アレルギーの治療に貢献するだけでなく、正確な予後も予測することが可能になりつつあります。
そんなCRDを用いて、猫アレルギーの患者と犬アレルギーの患者計70人を対象にして行った研究を今回紹介します。本研究は2016年12月にAllergy, Asthma & Clinical Immunology誌に掲載されており、無料(Creative Commons license)で閲覧できるため、興味のある方は原著を読むことをお勧めします。
猫アレルギーとは?
アレルギーの正体
そもそもアレルギーというものは、免疫反応を引き起こす「抗原」と呼ばれる物質と、体内の免疫系の一つであるタンパク質「抗体」というものが過剰に反応することで起こります。特にアレルギーの元となる抗原のことをアレルゲンと呼んだりもします。例えば、スギ花粉症の人ではスギ花粉が「抗原(アレルゲン)」になり、「抗体」と反応することでアレルギーが起こっているということになります。
また、抗体にはその作られる場所や構造により複数の種類に分類されます。例えば、有名どころでいけばIgGやIgE、IgMなどです。このIgとは抗体の正式名称である免疫グロブリンの英語Immunoglobulinに由来しています。このうち最も一般的なアレルギーに関与するのがIgEと呼ばれる抗体になります。このIgEと呼ばる抗体の先は抗原により形が異なります。例えば、スギ花粉に反応するIgEとヒノキ花粉に反応するIgEとでは抗体の先端部分の形がわずかに違うのです。
猫アレルギーの抗原と抗体
もちろん猫アレルギーも抗原と抗体による反応になります。猫アレルギーにおいて主な抗原となり得るものにはFel d 1、Fel d 2、Fel d 3、Fel d 4などがあります。どれもタンパク質や糖タンパク質であり、「Fel d」という名称の部分は「Feline Domesicus(イエネコの学名)」を示しており、そのあとの数字は発見された順についてます。そして、抗体の方はやはり、IgEが関わってきます。
Fel d 1とFel d 4
この研究で出てくるのはFel d 1とFel d 2、Fel d 4です。中でも猫アレルギーの主犯格となるのがFel d 1とFel d 4であり、Fel d 1は猫の唾液や皮脂腺、皮膚の鱗屑から産生される糖タンパク質で、その構造はセクレトグロブリン(タンパク質)の仲間であるウテログロビン(タンパク質)に似ています。また、Fel d 4も唾液などに発現しており、その構造を解析するとリポカリンと呼ばれるタンパク質に含まれるということが分かりました(このような場合、リポカリンファミリーに属すると言います)。ちなみに、Fel d 2はアルブミンと呼ばれるタンパク質に似ており、アルブミンファミリーに属します。

多くのブログなどでFel d 1はセクレトグロブリン、Fel d 4はリポカリンから構成されているというように説明していますが、厳密にはそれらのタンパク質のファミリーに含まれるといった方が正しいです。決して同一のものではありません。
Component Resolved Diagnosis; CRDとは
ここからが、論文の話になります。この論文で出てくるCRDとはアレルギー診断の話です。従来のアレルギー診断は大まかに行われてきました。例えば、猫に対してアレルギーがあると猫アレルギーという診断が下されます。しかし、研究が進み猫アレルギーの根本的な原因である抗原の存在が明らかになっていくにつれて、その患者さんに起こっているアレルギー反応はどの抗原と抗体によるものなのか?という話になってきます。
つまり、Fel d 1〜Fel d 4までの抗原のうちどれが原因でアレルギー反応が起こっているのかを正確につきとめる必要性が出てきたわけです。そして、それがわかると、より効果的な治療が行えるとともに、正確な予後予測を行うこともできるようになります。このようなアレルギー反応を誘発している抗原を正確につきとめる診断のことをCRDといいます。
アレルギーの評価方法
過去にペットによるアレルギーと診断された70名の方を対象に、CRDを行いました。今回の研究では、対象者の血液サンプルから猫アレルギーの抗原Fel d 1、Fel d 2、Fel d 4に対する各IgEの割合を定量化しています。それに加えて、犬アレルギーの抗原Can f 1、Can f 2、Can f 3、Can f 5に対するIgEの割合も求めています。両方ともImmunoCap法により行われています(知らない人は無視してください。理解しなくても問題ありません)。得られたデータより70人の対象者がどの抗原に対して反応性を示すのかを調べ、比較していきます。
猫アレルギーと犬アレルギーの共存
性差
男性の方がFel d 1に反応する猫アレルギーを持っている人が有意に多いことがわかりました。ちなみに、先行研究においても、女性よりも男性の方でアレルギー反応が多いことが判明しています。
年齢差
70人の対象者をそれぞれ25歳未満、25歳〜40歳未満、40歳以上の3群に分け、アレルギー反応の違いを比較したところ、25歳未満と40歳以上の群において有意な差が観察されました。結果として、40歳以上の群ではアレルギー反応が起こりやすいという結果になりました。
猫アレルギー反応の共存
70人の対象者のうち、61人(87.1%) がFel d 1に対するアレルギー反応を示しました。そのうち、30人のみが純粋にFel d 1のみに反応する抗体を持っており、その他の人はFel d 2(3人)やFel d 4(18人)、もしくは3つすべての抗原(10人)に反応する抗体を持っていました。つまり、31人はFel d 1のみだけでなくFel d 2やFel d 4によってもアレルギー反応が引き起こされるということになります。
また、Fel d 4にアレルギー反応を持つ対象者が32人いましたが、そのうち純粋にFel d 4のみにアレルギー反応を持つ人はたった1人であり、残りの31人はFel d 1やFel d 2にもアレルギー反応を持っていました。
Fel d 2に関しては16名のうち、全員がFel d 1やFel d 4へのアレルギー反応を持っているという結果になりました。

犬の抗原との交差性
Fel d 4アレルギーの32人の中、20人が犬の抗原であるCan f 1に反応を示しました。また、32人中9人がCan f 2にも反応を示しました。さらにFel d 2アレルギーに限っては、16人中15人がCan f 3にアレルギー反応を示しました。このことは猫アレルギー反応を持つ多くの人が犬アレルギーも持つことを示唆しています。
このようなことが起こる理由としては、Fel d 4と Can f 1、Can f 2が同じリポカリンのファミリーに属するため、構造が似ており交差性反応が起こりやすくなっていることが考えられます。ちなみにFel d 2とCan f 3は両方ともアルブミンに属します。
無論、上記の猫の抗原に反応するIgEと犬の抗原に反応するIgEの量には相関がありません。例えば、Fel d 4に反応するIgEが増えたからといって、Can f 1に反応するIgEの量が増えるといったことはなかったということです。
まとめ
CRDによる診断と治療
CRDを使用することにより、猫アレルギーを詳細に分類することが可能になり、それぞれの型により特徴が異なることが判明しました。例えば、Fel d 4アレルギーの患者さんなどでは高確率でFel d 1アレルギーも発症するということが分かりました。これにより、ある程度Fel d 4アレルギーの人の予後予測を行うことも可能になってきます。
また、このCRDを利用することで、Fel d 1アレルギーの人とFel d 4アレルギーの人で治療を変えることができるため、治療効率を上げることができます。しかし、CRDの問題点は用いる試薬が高価であるということです。検査に用いる試薬が高価すぎて、残念ながらあまり普及していないのが現状です。
猫アレルギーの特徴
- 猫アレルギーの多くはFel d 1アレルギーである
- 男性の方がFel d 1アレルギーにかかりやすい
- 今回の研究では年齢が高い人の方が猫アレルギーにかかりやすい傾向があった(先行研究では逆の傾向が報告されている)
- Fel d 1やFel d 4、Fel d 2アレルギーを持つ人はその他の別の猫アレルギーの抗原にも反応性を示すことが多い(例えば、Fel d 1アレルギーの人がFel d 2アレルギーも持つ)
- Fel d 4アレルギーの人の中には犬のCan f 1やCan f 2に反応するする人もいるため、犬への接触も気をつけなければならない
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Ukleja-Sokołowska N, Gawrońska-Ukleja E, Żbikowska-Gotz M, et al. Analysis of feline and canine allergen components in patients sensitized to pets. Allergy, Asthma, and Clinical Immunology : Official Journal of the Canadian Society of Allergy and Clinical Immunology. 2016;12:61. doi:10.1186/s13223-016-0167-4.
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