細菌などの感染が起こった際には抗細菌薬が投与されます。しかし、最近ではそのような薬剤に耐性を持つ薬剤耐性菌が多く発見されています。先日、オランダの研究チームはローキャットフードを与えられている多くの猫の糞便より薬剤耐性を持つ腸内細菌が検出されるということを発見し、ローキャットフードと薬剤耐性菌の関連性について注目が集まっています。
薬剤耐性
最新の研究が特に注目したのは基質特異性拡張型βラクタマーゼ;ESBLという酵素を持つ腸内細菌です。この酵素はペニシリン系の薬剤やセフェム系の薬剤などを分解するように働くため、この酵素を持つ菌類は薬剤に対して耐性を持つようになります。そして、ESBLを産生する薬剤耐性菌はコンパニオンアニマルから人間にも感染することが知られており、猫の飼い主への感染について注意が必要となります。
ローキャットフード
ローキャットフードは、加水分解や加熱処理、加圧処理などが行われていない市販のキャットフードのことです。今回の研究ではローキャットフードを与えられた猫19匹と通常のキャットフードを与えられた17匹の猫が参加しており、それぞれの猫の飼い主には研究開始1週間ごとに糞便を大学まで送ってもらっています。そして、その便の腸内細菌を培養し、PCRで遺伝子解析を行っていき、ESBL産生腸内細菌に関する遺伝型の検出を行っていきました。また、市販のローキャットフード18種類についても遺伝子解析を行い、ESBL産生腸内細菌が含まれているのかについて調べていきました。
ローキャットフードと薬剤耐性菌の関連性
その結果、ローキャットフードを与えられている猫の糞便にはESBLを持つ薬剤耐性腸内細菌が含まれていることが多いということがわかりました(通常のキャットフードを与えられた猫でも3匹だけ一時的に観察されています)。詳細な統計学的解析の結果、ローキャットフードを与えるという事象と、糞便中にESBL産生腸内細菌が含まれているという事象が関連しているということもわかりました。
さらに、市販のローキャットフードを調べた結果、なんと18個のうち14個のキャットフード(77.8%)にESBL産生腸内細菌が含まれていることがわかりました。このことより、ローキャットフードが糞便中に含まれているESBL産生腸内細菌の感染経路になっている可能性が示唆されました。
まとめ
ローキャットフードにはESBL産生腸内細菌が含まれており、猫の糞便中にESBL産生腸内細菌が認められる原因となっている可能性が示唆されました。特に猫の健康に影響があったということはありませんが、飼い主やその家族が、ESBL産生腸内細菌に感染する確率が高まるため注意が必要になります。
ちなみに、ローキャットフードを与えられた猫の糞便中において、よく観察されたESBL産生腸内細菌は CTX-M-1型、CTX-M-15型、 CTX-M-2型、CTX-M-14型、CMY-2型、SHV-12型になります。また、3週間ともに同じ遺伝型を持つ腸内細菌が観察される場合と、異なる遺伝型が観察される場合などがありました。このことは、ローキャットフード以外の要因などもESBL産生腸内細菌と関連している可能性も示唆しているのかもしれません。
今回紹介した研究はオープンアクセスであり、誰でも無料で閲覧することができます。
原著論文:Baede VO, Broens EM, Spaninks MP, Timmerman AJ, Graveland H, Wagenaar JA, Duim B, Hordijk J. (2017) Raw pet food as a risk factor for shedding of extended-spectrum beta-lactamase-producing Enterobacteriaceae in household cats. PLoS ONE 12(11): e0187239.
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