ペット先進国のイギリスにて2017年度の猫統計がPDSAより公開されました。PDSAはイギリスを代表する獣医師チャリティ団体であり、正式名称は”The People’s Dispensary for Sick Animals”になります。
PDSAが発足されたのは第一次世界大戦時の1917年であり、そこから現在に至るまで動物の福祉を考え続けた活動を行っています。現在では、イギリスに48の動物病院を有し、380以上の動物病院と連携をしています。PDSAは毎年ペットの福祉に関する統計Animal Wellbeing (PAW) Reportを発表しており、その内容はThe British Small Animal Veterinary Association(英国小動物獣医師会)などと共有されるほど、重要な意味合いを持ちます。
もちろん、この統計は日本の状況とは異なりますが、十分に参考になると思うので、2017年度の報告において重要な猫統計のみを紹介していきたいと思います。なお、この調査はイギリス在住の2,076人の猫の飼い主を対象に行われています。
5つの自由を理解している割合
「5つの自由」は猫を幸せを考える上で根本をなす概念になります。この5つの自由について、そこそこ理解していると答えた猫の飼い主は76%でした。しかし、十分に理解している飼い主の割合は25%と低いことがわかりました。
76%はかなり高い数値であり、さすがイギリスだと思います。日本では絶対こんなに高い数値にはならないと思います。しかし、イギリスでさえ5つの自由を十分に理解している方は1/4という低い結果になっているのは少し残念です。
猫を飼う前のリサーチ
猫を飼う前に猫のことを調べなかった飼い主は24%に上りましました。さらに、猫を飼う際に動物病院に相談する飼い主はたったの4%という結果でした。
猫は衝動的に買われることが多いため約1/4が全くリサーチなしに飼われるのは納得できるような気がします。また、猫を飼う前に動物病院で相談する人は少ないのも納得できます。私が猫を飼う時でも、そんな発想は全くありませんでした。事前に獣医師や動物看護師に相談することは、すごく大事なことはわかるのですが、そもそも潜在的な猫の飼い主にどのように働きかければ良いかを模索する必要があると思います。
肥満
50%もの猫の飼い主が愛猫が5段階のボディ・コンディショニング・スコア(BCS)において4~5にあたると回答しています。しかし、驚くべきことに17%の飼い主しか愛猫が肥満気味もしくは肥満であるということを認識していませんでした。
おそらく、多くの猫の飼い主はBCSを理解していないために、愛猫が肥満傾向や肥満にあることを認識していないのだと思います。確かに、BCSの知識などは動物病院で教わったり、猫関連の書物を積極的に読まない限ぎりは学ばないですから、仕方ないのかもしれません。
ワクチン接種
もっともショッキングだった統計がワクチン接種に関するものです。なんと35%もの飼い主がコアワクチン接種を行っていないということがわかりました。これは去年に比べて17%も増加しており、この統計をイギリスで飼養されている猫人口に当てはめると、なんと360万匹もの猫にワクチン接種が行われていないことになります。

信じられない統計ですよね。ワクチン接種を行わない人を対象にその理由を調べてみると、他の動物と触れ合うことがないから(24%)、ワクチンが必要ないと認識しているから(22%)、ワクチン接種が高額だから(20%)という理由が多かったようです。このデータを見る限り、ワクチン接種がなぜ重要なのかということを飼い主にしっかりと知ってもらう必要があるようです。日本でもそうですが、ワクチン接種が高額なのは納得できます。
多頭飼い飼育
全体のうち42%もの猫が多頭飼いをされているということがわかりました。さらに、全体の20%もの猫が同居する猫とうまくいっていないということもわかりました。
PDSAとしては、この原因の一つとして飼い主が十分なリソースを猫に提供していないことを指摘しています。これは、34%もの飼い主が猫に猫用ベッドを愛猫に用意しておらず、さらに同じ数の飼い主が爪とぎを愛猫に用意していないということが、この調査で分かっているためです。

環境を整えることは猫同士のテンションを軽減することにはつながりますが、完全に解消することはできないと思います。猫の社会化期における適切な社会化やそれ以降の社会化学習、訓練などを併用する必要があると思います。
問題行動
62%もの飼い主が愛猫に変えて欲しい行動が少なくとも一つ以上あると回答しています。そして、40%のもの飼い主がそれらの問題行動に対して動物病院にアドバイスを求め、45%もの飼い主がインターネットにアドバイスを求めるという結果になりました。
かなり多くの飼い主が問題行動に悩まされていることがわかります。動物病院にアドバイスを求めない理由は定かではありませんが、動物病院の範疇ではないと考えていたり、面倒ということがあるのかもしれません。私の場合、日本の動物病院に猫の行動に関するアドバイスを求めても、一般書に記載されているような内容しか返答が返ってこなかった経験しかないので、動物病院のスタッフも猫の行動について詳しくなる必要があると思います。
まとめ
PDSAの2017年度の猫統計を見ると、ペット先進国のイギリスでさえ不十分な点が多々あるということがわかりました。獣医師や動物看護師などが協力して、飼い主に教育することが猫の福祉を向上する上で重要だと思います。しかし、動物病院のスタッフは多忙であるため、行政やその他の団体などが啓発運動や教育活動などを積極的に行っていくことも重要であると思います。
このPWA reportでは猫だけでなく犬やウサギの飼い主についても統計をとっているため、動物病院や動物愛護団体などで働いている方は目を通してもらえると嬉しいです。こちらよりアクセスできます。
参照サイト
あわせて読みたい
英国獣医師と動物看護師が訴えるペットの飼い主に知ってほしい5つのこと
コメントを残す