冬になるとノロウイルスが猛威を奮い、多くの人が下痢と嘔吐に悩まされます。筆者も感染経験がありますが、辛い思いをした覚えしかありません。
猫の飼い主としては「飼い主のノロウイルスが猫に移るのか」ということを心配してしまいます。今回はそんな疑問に答えるべく猫とノロウイルスの関係性について調べてみました。
ノロウイルス
ノロウイルスはカリシウイルス科に属するウイルスになります。また、ノロウイルスと言ってもその中に含まれているRNAの配列(遺伝子型)によって様々な種類に分類されます。その中でも特に構造蛋白質1(VP1)における遺伝子型を特定することでノロウイルスをサブグループに分類していきます。
そのサブグループの中にはGⅠ〜GⅤまでの5つのグループがあります(近年ではGⅦまでが提唱されようとされています)。
その中で人間に感染し、牙をむくのはGⅡになります。その他にもGⅡはブタ、GⅢは反芻動物、GⅣはライオン、GⅤはマウスに感染することが報告されています。この時点で「ライオンが感染するなら猫も感染するのでは?」と思う人がいるかと思います。実はその通りです。
猫にも感染する
猫に感染するノロウイルスはGⅣであり、Feline Norovirus 猫ノロウイルスと呼ばれます。実はこの猫ノロウイルス、かなり多くの猫の便に含まれていることが報告されています。アメリカの研究によると、なんと約40%の仔猫(8~12週)の便にノロウイルスが検出されたとしています。一方で成猫では検出されていません。
また日本では、2015年に猫ノロウイルスが初めて検出されており、それもGⅣであることが報告されています。
症状は?
実は、猫ノロウイルスが便の中に検出されたからといって必ずしも下痢などの症状が出るとは限らないようです。というよりも、今までの研究により下痢と猫ノロウイルスの因果関係を説明することができていないのが現状ということになります。

ズーノーシスの可能性は?
人間と動物が共通して感染する病気のことを「ズーノーシス」と言います。ノロウイルスはズーノーシスに含まれるのでしょうか? 現状ではズーノーシスになり得る可能性があるとしか言うことができません。
なぜなら、人間と猫では感染するノロウイルスの種類が異なるからです。猫がGⅣの猫ノロウイルスに感染するのに対して、人間は主にGⅡのノロウイルスに感染します。そして今のところ猫の便から人間に感染するGⅡは検出されていません。
油断は禁物
しかし、気をつけなければいけないことがあります。実は最近の研究で人間においてGⅣのノロウイルスが検出されているのです。そのため、猫ノロウイルスに感染した猫の便などを触ることでノロウイルスが人間に感染する可能性があるということになります。
そもそも、ウイルスは突然変異を起こしやすく、度々変わるため、今まで猫に感染しなかったウイルスがいつの間にか感染するようになっていたりするのです。鳥インフルエンザなどがその例でしょう。そのため、人間と猫の両方に感染するようなノロウイルスが新たに出てくるのは時間の問題ということになるでしょう。常に猫ノロウイルスについての情報にアンテナをはっておきましょう。
ノロウイルス対策
結論としては、飼い主にノロウイルスが発症したからといって、猫を違う部屋に隔離したりする必要はありません。現状では人間のノロウイルスが猫に感染するというエビデンスはないからです。もしかすると起こるかもしれませんがその確率は今のところかなり低いといえるでしょう。
そのため、もし飼い主がノロウイルスに苦しんでいる時に、猫にも嘔吐や下痢が認められたからといって、飼い主と同じノロウイルスに猫が感染したということは考えにくいのが現状です。その時は偶然異なる病気が発症したと考え、動物病院へと連れて行くことをお勧めします。この時、二次感染を予防するためノロウイルスを発症していない人が動物病院へと連れて行くようにしましょう。

個人的な意見としては人間のノロウイルスが猫に感染する可能性よりも、猫が免疫系を駆使して体内に入ってきた人間のノロウイルスを撃退する確率の方が高いような気がします。したがって、猫に質の良い栄養バランスが取れた餌を毎日与えることが重要であり、猫の免疫系を高めることがノロウイルス対策につながると信じています。
まとめ
現状では飼い主が感染したノロウイルスが飼い猫に感染する可能性はかなり低いといえるため、特に猫を隔離したりする必要はありません。飼い主的には、むしろ、ノロウイルスに苦しんでいる時こそ、猫が少し近い距離にいてくれると心が安らぎ、早く治るような気がします。
しかし、弱い猫アレルギーのある方が家族におり、その方がノロウイルスを発症した場合には猫が近くにいると回復の妨げになるため、猫をその方より遠ざけるようにしましょう。
また、そもそもノロウイルスに感染しないように「うがい手洗い」を徹底して行いましょう。
あわせて読みたい
【論文レビュー】キャットフードの表示が適切かどうか、抜き打ちチェック
参考文献
Pinto, P et al (2012) Discovery and Genomic Characterization of Noroviruses from a Gastroenteritis Outbreak in Domestic Cats in the US. PLoS One 7(2):e32739
Soma, T., Nakagomi, O., Nakagomi, T. and Mochizuki, M. (2015), Detection of Norovirus and Sapovirus from diarrheic dogs and cats in Japan. Microbiol Immunol, 59: 123–128. doi:10.1111/1348-0421.12223
コメントを残す