韓国で行われた最新研究によると、猫もローソニア感染症の原因菌の保有宿主になりえることが示されています。
ローソニア感染症
猫の病気に詳しい方でもローソニア感染症については知らない方が多いと思います。ローソニア感染症はLawsonia intracellularisローソニア・ イントラセルラリス と呼ばれるグラム陰性桿菌により引き起こされる感染症であり1)、主に豚や馬において増殖性腸症を引き起こします。増殖性腸症は、ローソニア・ イントラセルラリス が小腸粘膜上皮細胞に感染・増殖し、小腸の粘膜を肥厚させることで起こり、下痢、発熱、低タンパク質血症、浮腫などの症状が観察されます1), 2)。
病原菌は豚や馬以外にも犬や羊、ハムスター、モルモット、ラット、マウス、フェレット、アカゲザル、ニホンザル、ダチョウ、ニワトリなどの広くの恒温動物に感染することが知られています3)。しかし、現在までに猫における感染については世界的にもほとんど報告されていませんでした。しかし、今回韓国の馬牧場で行われた研究により猫もローソニア・ イントラセルラリス に感染し、保有宿主になることが示されました。
猫もローソニア感染症に感染し、保有宿主になりえる
最新の研究はローソニア感染症を発症している当歳馬がいる韓国の牧場8ヶ所にて行われました。それらの牧場にて複数のトラップを仕掛け、野生動物を捕獲し、その動物の便を採取し、遺伝子検査を行いました。ちなみに、ペストなどの病原菌を持っていない動物に関しては、便の採取が終わり次第リリースされています。
その結果、131匹の動物を捕獲することに成功し、捕獲された動物のうち多かったのが、マウスやラット、リス、猫でした。猫は13匹捕獲され、便の遺伝子検査を行ったところ、3匹に陽性反応が観察されました。そのうち1匹の猫には下痢の症状も観察されました。捕獲されたマウスやラットなどにおいても陽性反応が多く観察されましたが、猫は捕獲数が少ないということもあり、その陽性の割合が他の動物と比較して最も高い(23%)という結果になってしまいました。
まとめ
この研究の結果より、猫もローソニア感染症の原因菌であるローソニア・ イントラセルラリス に感染し、保有宿主になりえることが分かりました。しかし、どのようにして猫に感染が起こり、どのような症状が観察されるようになるのかについては不明です。感染が確認された3匹の猫のうち1匹は下痢の症状が観察されましたが、それがローソニア感染症によるものなのかについては断定できていません。
豚や馬においては、原因菌を口から摂取することにより感染が起こると考えられているため、原因菌を保有している猫やラット、マウスなどが排出する便が馬や豚の飲み水や餌を汚染することで、豚や馬に感染が起こることが推測されます。猫においても同じことが言えるとするならば、ローソニア・ イントラセルラリス に感染したラットやマウスを捕食したり、汚染された飲み水を飲んだりすることで猫に感染が起こるのかもしれません。ローソニア感染症の広がりを防ぐためにも、これから様々な研究がおこなわれることと思われます。
今回紹介した原著論文はオープンアクセスであり、誰でも無料で閲覧することができます(クリエティブ・コモンズライセンス)。興味のある方は参照するようにしてください。
原著論文
Hwang J, Seo M, Yeh J. Lawsonia intracellularis in the feces of wild rodents and stray cats captured around equine farms. BMC Veterinary Research(2017). https://doi.org/10.1186/s12917-017-1155-8.
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参考文献
1) 遠藤祥郎, 丹羽秀和, 片山芳也, 村瀬晴崇, 佐藤文夫, 頃末憲治, 石丸睦樹, 末吉益雄:サラブレッド生産牧場で発生した Lawsonia intracellularis 感 染 症. 日獣会誌 68 239 ~ 244(2015).
2) 本多あき, 野波正浩:Lawsonia intracellularis が検出された豚の腸炎の1例. 2017/9/3 accessed
3) 渡邉 弘恭, 佐藤 尚人, 齋藤 豪, 相馬 亜耶, 菅原 健, 森山 泰穂, 渡部 巌, 小笠原 和弘:鶏におけるLawsoniaintracellularisの浸潤状況. 2017/9/3 accessed.
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