スペインの首都マドリードには、多くの野良猫がいるそうです。市の報告によれば、そのコロニーの数は400個もあり、野良猫の総数は10万匹にものぼるとも言われています。
恥ずかしながら、筆者はマドリードがそんなに猫の多い街だとは知りませんでした。そんなマドリードでは、先月から100人以上を公式の猫の世話人として登録し、ライセンスを与えるという革新的な試みを始めました。
なぜこのような試みを始めたのか?
猫がいること自体を不快に思う人は余程の猫嫌いの人でない限り、そういないと思います。しかし野良猫が増え過ぎると、住んでいる地域の家や道路を汚したり、集団でいることによる喧嘩で騒音を出したり、家の庭を荒らしたりなどの迷惑な行為が頻繁に見られるようになってしまいます。不衛生な状態や騒音などが自分の住む周辺の環境で見られたら、嫌だなぁと思うのは当然でしょう。
まさにマドリードはそんな状況だったようです。
以上のような状況を何とかしようと、市の健康政策部門が主導して始めたのがこのプロジェクトです。その目的は「野良猫の数を減らし、近隣住民にトラブルを生じさせることなく野良猫が共存できる」ようにすることです。
かつてマドリードでは、野良猫の数をコントロールするために、野良猫を捕まえてきては殺処分するということをしていました。しかし、もちろん現在ではそのようなことは行っておらず、野良猫を捕獲して、不妊手術を施すことで野良猫が増えすぎないようにしようと取り組んでいます。
ボランティアにライセンスを
そして今回のプロジェクトでは、新しい試みとしてボランティアにライセンスを与えることにしました。これらのライセンスを持っている方達は皆、ボランティアでこれまで街の野良猫に自費で餌を与えたり、時には獣医に診てもらったりなどの世話をしてきた方達です。
コーディネーターと世話人
このプロジェクトにおけるボランティアは大きく2つに分けられます。一つはコーディネーター、もう一つは世話人です。コーディネーターは政府や市と動物愛護団体との間に入って、両者が連携しやすいように仲を取り持ちます。対して、世話人はエサをあげたり、野良猫が住処にしている道路を掃除したり、TNR(捕獲して、不妊・去勢手術を施して元の場所に戻すという取り組み)を行うなどより実地的な役割を担います。
ライセンスの権限と取得方法
なお、このボランティアの方たちにライセンスが与えられるのは、400以上ある猫のコロニーのうち特定の1つのコロニー(場所)に対してだけです。つまりA地区の集団に対するライセンスを持っていても、B地区やC地区で同じような活動はできないということです。その地域専属になるということですね。
この新しい野良猫に関するライセンスを取得するには、オンラインで申し込みを行い、加えて必ず市の指定する研修を受けなければなりません。ただし、1日で終わる研修のようなので、猫に関する専門知識などそれほど難しいことが指導されるわけではないと思います。
なぜライセンスを?
野良猫に迷惑していた住民との対立
以前までは猫を気の毒に思ってエサを与えている人に、「そうやってエサをやるから猫が集まってくるんだ!」「また猫が増える。迷惑なんだよこっちは!!」といった辛辣な言葉や冷たい視線が浴びせられることも珍しいことではなかったそうです。つまり肩身の狭い思いをしてきたわけです。
確かにむやみやたらとエサをやっているだけでは、結局は猫ちゃんのためにもなりませんし、文句を言う人の気持ちも分かります。エサをあげていた人はきっと心の優しい人だと思うのですが、より望ましい対処の仕方を知らない人が多かったのだと思います。
ライセンスによる権利と責任
今回のプロジェクトにより、400もあるコロニー1つ1つに世話役としてライセンスを与えることで、より目が行き届くようになり、野良猫の数がコントロールしやすくなると言えます。ライセンスにより権利を得るとともに、責任も発生します。
したがって、その地域のライセンス保持者は、ただ猫を可愛がるだけでなく、その野良猫たちのいる地域の衛生状態を悪化させたり、迷惑のかかるような問題が起こったりすることが無いように責任を持って取り組んでくれるわけです。これによって、近隣住民への迷惑も軽減され、理解が得られることも期待されます。
また、市の公認の世話人という立場であれば、堂々と野良猫にエサを与えることができます。今までのように、野良猫にエサを与えいると悪いことをしているような目で見られることも少なくなるでしょう。
まとめ
日本でも「野良猫にエサを与える人が近所にいて、そのせいで野良猫がたくさん集まってきて迷惑している」などのご近所トラブルがよくニュースなどで取り上げられていますよね。
猫ちゃんそれ自体は、本当に可愛い存在だと思います。しかし、その数が増えすぎてしまうと、誰かに迷惑がかかってしまうのも事実です。マドリードのプロジェクトはまだ始まったばかりですので、今後街がどのようになっていくかが楽しみですね。
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参照サイト
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