加水分解加工が施されたタンパク質が使用されている低分子キャットフードは1型のアレルギー反応を抑制すると考えられています。アレルギー反応は原因となるタンパク質とそれに対応する抗体が結合することで引き起こされます。しかし、加水分解により原因となるタンパク質が小さくなると、抗体が結合しにくくなりアレルギー反応が起こりにくくなります。これが低分子キャットフードの強みになります。
では、本当に低分子キャットフードはアレルギー反応を抑制するのでしょうか?犬の研究では低分子ドッグフードを用いたとしても、約1/5の犬には効果がなかったことが報告されており、タンパク質を低分子にしたからといってアレルギー反応が起こらないとは言い切れません。最新の研究は市販の低分子キャットフードを用いて、低分子キャットフードの効果について探索しています。
市販の低分子キャットフード
今回の研究では健常な猫9匹(1〜1.5歳)を対象にしており、すべての猫において、ソイベースとチキンベースのキャットフードが基本食として、実験前に与えられています。その後、市販されている3つの低分子キャットフードを6週間与えていき、その前後における各キャットフードに対する反応性について各猫の血液を用いて検査していきました。実際に使用されたキャットフードは以下のとおりです(括弧内は対象となった猫の数を示す)。
- ヒルズ療法食z/dドライ:チキンベース(3匹)
- ロイヤルカナン療法食:ソイベース(3匹)
- ピュリナ療法食HAドライ:ソイ&チキンベース(3匹)
各群3匹ずつであり、かなりサンプル数が少なくなっており、あくまでもパイロット研究であることがわかります。
基本食に対する反応
まず、各猫の血液サンプルに基本食を入れていきその反応性をみたところ、インターロイキン10(以下;IL-10)と呼ばれる物質の増加が多くの猫に観察されました。低分子キャットフードを与える前には9匹中5匹の猫にIL-10が検出され、6週間後には7匹の猫にIL-10が検出されました。
IL-10は免疫反応の抑制などにかかわっており、アレルギー反応に耐性がある人では、IL-10の値が高くなるということが示唆されていますが、猫においても同様のことが言えるのかについては明らかではありません。しかし、IL-10が検出されるということは少なからず、何かしらの免疫反応がそこに起こっており、それを抑制しようという機構が働いていることを示しています。
低分子キャットフードに対する反応
次に猫の血液サンプルに低分子キャットフードを加え、その反応性をみていきました。サンプルに加える低分子キャットフードは、それぞれの猫が6週間与えられたものであり、例えば、チキンベースが与えられた猫では、検査時にもチキンベースのキャットフードが加えられていきます。
その結果、実験前後においてIL-10の値が高くなる個体がいるということがわかりました。低分子キャットフードを与える前では9匹中2匹の猫(チキンベースの群、ソイベースの群から1匹ずつ)にIL-10の濃度が高くなり、6週間後には9匹中3匹の猫(チキンベースの群から1匹、ソイベースの群から2匹)にIL-10の濃度が高くなることが観察されました。
このことは一部の猫では低分子キャットフードを6週間与えたからといって、免疫反応が抑制されるわけではなく、基本食と同じような反応を示すことを示唆しています。つまり、低分子キャットフードについて効果がない猫もいるという可能性があるということです。
まとめ
最新の研究により低分子キャットフードの効果については個体差がある可能性が示唆されました。今回の研究あくまでもパイロット研究であり、サンプル数、対象猫のパラメーター、数値の正規化、交絡因子など不十分な点がたくさんあります。そのため、低分子キャットフードの効果についての検討は今後も盛んに行っていくべきだと思います。
個人的に面白いと感じたのは、ソイ&チキンベースの低分子キャットフードを与えた猫では特にIL-10などの反応が観察されなかった点です。実は、3種類の低分子キャットフードの中で最もタンパク質が大きいのが、このキャットフードなのです。タンパク質が小さければ、小さいほど効果があると信じられていますが、タンパク質の大きさ以外の要素も関連している可能性があるのかもしれません。
加水分解された低分子キャットフードはアレルギー検査にも使用されることがあります。どのように使用されるかについては「猫の食物アレルギー検査4種とその精度」の記事を参照ください。
今回紹介した研究はオープンアクセスであり、誰でも無料で閲覧することができます。
原著論文
Kathrani A, Larsen JA, Cortopassi G, Datta S, Fascetti AJ. A descriptive pilot study of cytokine production following stimulation of ex-vivo whole blood with commercial therapeutic feline hydrolyzed diets in individual healthy immunotolerant cats. BMC Veterinary Research (2017) 13:297 DOI 10.1186/s12917-017-1219-9
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