猫の歯肉口内炎は歯肉や口の粘膜に慢性的かつ重度の炎症が起こる疾患です。現在のところ慢性歯肉口内炎が発症する機序などについては明らかになっていませんが、口腔内の細菌叢の変化や免疫系の反応が大きく関連しているのではないかと考えられています。そんな慢性歯肉口内炎ですが、ギリシャのテッサロニキ・アリストテレス大学の研究チームが行った最新研究によると、高い確率で食道炎も併発する可能性が示されています。
慢性歯肉口内炎の猫では高い確率で食道炎が併発している
研究チームは58匹の慢性歯肉口内炎を発症している猫を対象に、口腔内の検査や上部内視鏡検査を行い、口腔内の症状や食道炎の有無などについて調べていきました。
その結果、なんと98%の猫では食道の近位部(口に近い部分)、中間部、遠位部(胃に近い部分)のいずれかに重症度1度以上の食道炎が観察されることがわかりました。中でも、遠位部では91%、近位部では76%の猫に1度以上の食道炎が観察されました。
慢性歯肉口内炎の症状が和らいだ2匹の猫に再検査を行ったところ、食道炎も治っていることがわかりました。また、繰り返し慢性歯肉口内炎を発症していた猫では食道炎に対する適切な治療にもかかわらず、食道炎が治らないといったことが観察されました。サンプル数が少ないので、特に何もいうことはできませんが、もしかすると慢性歯肉口内炎と食道炎は密接に関連しているのかもしれません。
慢性歯肉口内炎の猫の食道は変化する
上部内視鏡検査の際に、食道の組織の一部を切除し、剖検が行われました。しかし、染色が難しいため、食道の組織を検査できたのは19匹の猫から得られた25個のサンプルのみでした。
結果として、様々な食道組織の変化が観察されましたが、最も多かった変化が食道の上皮細胞の円柱上皮化であり、5つのサンプルにて観察することができました。食道を構成する上皮細胞は本来であれば扁平上皮細胞という細胞ですが、その細胞が何らかの刺激により円柱上皮細胞に変わってしまったということです。
なぜ慢性歯肉口内炎に食道炎が併発するの?
研究チームは得られた結果をもとに、慢性歯肉口内炎に食道炎が併発する理由についても考察しています。ここでは主なものを紹介していきます。
食道近位部の炎症について
慢性歯肉口内炎により口腔内の細菌叢が変化することが知られています(例えば、グラム陰性菌の増加など)。また、炎症により過剰に唾液が分泌されます。そのため、猫が食べ物などを飲み込む際に、菌を含む大量の唾液が食道の近位部に接触し、異なる細菌叢が食道近位部に滞在することになります。これは結果として、食道における免疫反応を誘発し、食道炎となると考えられています。
しかし、今回の研究において唾液の分泌量と食道炎の相関性はないことが示されており、この仮説は十分に証明されているわけではありません。
食道遠位部の炎症について
一方、遠位部の食道における食道炎は、グラム陰性菌が一酸化窒素合成酵素を活性化することにより、食道の胃移行部に存在する括約筋を弛緩させます。括約筋の弛緩は、胃から食道への胃酸の逆流を引き起こすと考えられています。そして、胃酸の逆流は食道の上皮細胞を刺激し、様々な炎症に関連する化学物質の放出や免疫系細胞の活性化を促進するため、食道の上皮細胞が傷つき炎症が起こると考えられています。
さらに、食道近位部と同じように食道とは異なる細菌叢が食道遠位部においても免疫反応を引き起こし、炎症を誘発しているということも考えられています。
まとめ
今回の研究では猫の慢性歯肉口内炎に食道炎が併発する理由について明らかにすることはできませんでした。しかし、慢性歯肉口内炎にかなり高い確率で食道炎が併発していることが考えられました。この結果を受けて研究者らは慢性歯肉口内炎の猫には上部内視鏡の検査を行うことを推奨しており、食道炎に対してもその重症度に合わせた治療が行われるべきであると述べています。
今回紹介した研究はオープンアクセスであり、無料で閲覧することができます。興味のある方は原著論文を参照ください。
原著論文
Kouki, M.I., Papadimitriou, S.A., Psalla, D., Kolokotronis, A. and Rallis, T.S. Chronic Gingivostomatitis with Esophagitis in Cats. J Vet Intern Med(2017). doi:10.1111/jvim.14850
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