オーストラリアとニュージーランドの獣医学部教員が早期避妊・去勢手術(以下EAD)を推奨もしくは教えているのかについて調べた研究が発表されました。驚くことに2008年と比較して2015年におけるEADを推奨する教員数は減少傾向にあることがわかりました。
早期避妊・去勢手術
猫種によっては生後4月齢より性成熟を迎え、妊娠できるものもいます。そのため、従来のように生後6月齢で猫の避妊・去勢手術を行うことは好ましくありません。イギリスやオーストラリアなどでは生後12〜14週齢の時点にて、避妊・去勢手術を行うことが推奨されており(BSAVA, RSPCA)オーストラリアでは、生後8週から(RSPCA)、イギリスではペットの猫では生後16週(BSAVA)、保護猫団体の猫では生後8~12週にて避妊・去勢手術を行う方が良いとされています(BVA)。そして、アメリカでは生後20週齢までに手術を行うことが推奨されています(AVMA)。しかし、それらの早期避妊・去勢手術(生後6月齢になるまで手術を行うこと)を行うにはその知識や技術などを身につける必要があります。そこで、大切になるのが獣医学部における教育であり、新人の獣医師のEADの意思決定に大きな影響を与えます。
最新研究では、獣医学部教員が学生にEADを推奨しているのか?どのような理由でEADを推奨もしくは推奨していないのか?どれぐらいの数の学生が卒業前にEADの教育を受けているのか?について調べています。
EADを推奨する教員は減少傾向にある
対象となった教員はオーストラリアとニュージーランドの大学の獣医学部教員であり、2008年と2015年の段階でそれぞれ質問紙に解答してもらっています。それらの教員の中から、EADについて教えている教員だけを抽出し、研究に参加してもらった結果、2008年には15人の教員が、2015年には25人の教員が研究に参加しました。
2015年の時点において、教員の多くはペットの猫は生後4~5月齢が最もEADに向いており、シェルターなどの猫は生後3月齢までにEADを行うのがベストであると認識していることがわかりました。また、2008年と比較すると、生後5月齢までにEADをするのがベストであると考えている人は減少していることがわかりました。個人的にEADを推奨すると考えている教員数も、2008年(60%)と比較して2015年(32%)では減少する傾向があることがわかりました。
EADを推奨する理由・しない理由と例外
EADを推奨する理由として最も多かったのは猫の数を制御するためというのが最も多い理由であり、これは2つの年において同様でした。一方、手術がやり易い、早期回復が見込める、ポジティブな行動学的変化が認められるなどといった理由については2008年よりも2015年において増加していることがわかりました。
反対に、EADを推奨しない理由として最も多かったのが、麻酔によるリスクでした。しかし、2008年と比較して2015年では麻酔のリスクが問題であると回答した方は減少していることがわかりました。EADを推奨しないと回答している方でも、59%の方はシェルターにおいて譲渡待ちの動物に関しては推奨すると回答していることも明らかになりました。
2015年においてオーストラリアとニュージーランドの8大学にて、学生に具体的な技術的指導を行っているのは3大学しかないことがわかり、そのうち、卒業した学生がEADを行えるのは2大学の学生のみであることがわかりました。さらに、2015年に「ペットの子猫を生後4月齢までにEADを行うことが、シェルターに預けられる子猫の数を減少させると思いますか?」と質問したところ、「いいえ」と答える教員の方が多いことがわかりました。
まとめ
オーストラリアとニュージーランドではEADを推奨する教員数が減少傾向にあることがわかりました。また、シェルターの猫にはEADをした方が良いと考えているものの、ペットの子猫ではあまり積極的にEADを行う必要がないと考えられている可能性が示唆されました。これに対して、研究者らは、シェルターの猫にせよ結局は譲渡されるわけだから、シェルターの猫とペットの子猫で差が出てくるのは全くもって論理的でないと考察しています。おそらく、飼い主がいる猫に万が一があった際には面倒なことになるため、それらを避けるために、ペットの子猫ではEADを行う最適な期間を遅く見積もっているのだと思います。さらに、研究者らは教員側もEADの経験が少ないために積極的に学生にEADを推奨したり、教えたりしないのではないかとも考察しています。
今回紹介した研究論文はオープンアクセスであり、誰でも閲覧することができます。この記事では猫のことにしか扱いませんでしたが、原著では犬についてのことも扱っています。
原著論文:Jupe A, Rand J, Morton J, Fleming S. Attitudes of Veterinary Teaching Staff and Exposure of Veterinary Students to Early-Age Desexing, with Review of Current Early-Age Desexing Literature. Animals 2018, 8(1), 3; doi:10.3390/ani8010003.
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