肥満や肥満関連疾患は、人間と同様に、動物医学においても非常に深刻な脅威になっています。人間では、肥満のリスク要因や肥満に関連する疾患の複雑な病理が探索されて様々な知見が得られており、加えて肥満がいかに生命を脅かすかということについても報告がされています。
今回は、肥満は肥満でも「猫」の肥満に関わる診断基準について、日本の研究チームが行った研究を紹介したいと思います。この研究はFrontiers in Veterinary Scienceに2017年2月14日付で発表されています。誰でも無料で読めるので、もっと詳しく知りたい方は原著論文を読むことをお勧めします。
この記事でわかること
- 猫においてのメタボ診断の基準は曖昧である
- アディポネクチンというタンパク質はメタボを改善する効果がある
- アディポネクチンは脂肪細胞から分泌される
- 内臓脂肪組織量とアディポネクチンの評価を行うことでメタボ診断が行える可能性がある
メタボリックシンドローム
人においては、”メタボリックシンドローム”は、心疾患の発症などにつながる様々な代謝性リスク要因を呈した状態の総称です。代謝性リスク要因とは具体的に言うと、糖尿病や肥満、高血圧やそれに付随する症状のことであり、これらは医療費の増大の大きな原因で、これは猫においても同様であると言えます。
このような背景もあり、早期の診断と進行を防ぐ意味での早期介入の必要性が年々高まってきています。
人では国際糖尿病連合(International Diabetes Federation, IDF)の新しいメタボリックシンドロームの定義が、臨床場面において容易に用いることのできる広く受け入れられた診断ツールとなっていますが、猫においては妥当な診断基準が確立しているとは言えないようです。
猫のメタボリックシンドロームの診断基準を
猫においては、アディポネクチン(adiponectin :ADN)の調節異常や脂肪毒性、慢性の炎症などの人と類似した病態生理学的な進行と疾患の症状の発症過程が認められることが予測されます。
今回の研究は、 より早期にメタボリックシンドロームの適正な診断をするために、上記の点に着目して、まず猫の肥満の病理をより詳しく明らかにすることを目的に研究が行われました。対象となったのは臨床的に健康である14匹の猫で、体重は様々です。
アディポネクチンとは?
アディポネクチンは近年注目を集めているタンパク質であり、テレビや新聞などで目にしたことがある方も多いと思います。1996年に大阪大学の松澤教授により発見され、この発見は瞬く間に世界に広がりました。何故注目されているのかというと、アディポネクチンはメタボリックシンドロームやがんの予防・改善の効果が認められているからです。
また、長寿の人はそうでない人と比べて、アディポネクチンの分泌が多いことから長生きの鍵ではないかとも考えられています。そして、意外なことにこのアディポネクチンは脂肪細胞から分泌されるホルモンなのです。じゃあ、肥満の人は脂肪がたくさんあるから、多く分泌されるので健康に良いのでは?と思いますよね。しかし、実はそうではないのです。
脂肪が多すぎても少なすぎても・・・
肥満の人は脂肪細胞が肥大しており、そのような肥大した脂肪ではかえって分泌量は減ってしまいます。逆に悪玉の生理活性物質の分泌量が増えてしまうので、健康には逆効果といえるでしょう。ちなみに、痩せ過ぎで脂肪が極端に少ない場合でも正常に分泌がされません。
つまり、アディポネクチンは適正な脂肪状態の時に最もよく分泌され、肥満(もしくは過剰に痩せた状態)の時には分泌量が減るということになります。アディポネクチンの分泌が減れば、自ずと動脈硬化、糖尿病、高血圧、がんになる可能性が高くなります。
猫のメタボ診断
この研究では、 異なるBody Condition Scores(BCSについてはこちらの記事をご参照ください)の猫における内臓脂肪の蓄積をそれぞれ、コンピュータ断層撮影法と腹腔鏡検査により評価しました。 また、その脂肪細胞の種類や大きさについても組織学的に評価しました。
それと同時に、アディポネクチンなどのメタボローム(生体内の細胞や組織における、 たんぱく質や酵素の作りだす代謝物質の総称)マーカー や炎症性サイトカイン(炎症を引き起こす化学物質)についても計測を行いました。
その結果、アディポネクチンと内臓脂肪組織の相互に拮抗した変化を捉えること、つまりアディポネクチンの分泌低下と内臓脂肪の蓄積増加を確認することで、グルコースや肝臓値、脂肪マーカーなどの一般的な生化学的マーカーよりも、早くメタボリックシンドロームの診断を確定することができるということが分かりました。
まとめ
以上の結果より、従来使われていた「人」のメタボリックシンドロームの診断基準に加えて、猫の肥満やメタボリックシンドロームの診断には、内臓脂肪組織量とアディポネクチン評価を行うことが、治療介入の面において有効であるのではないかと研究者たちは提案しています。
近い未来に猫メタボの早期診断が可能になると良いですよね。これからの研究に期待しましょう。
原著論文
Yuki Okada, Motoo Kobayashi, Masaki Sawamura and Toshiro Arai. Comparison of Visceral Fat Accumulation and Metabolome Markers among Cats of Varying BCS and Novel Classification of Feline Obesity and Metabolic Syndrome. Front. Vet. Sci., 14 February 2017
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