ペットショップに行くとマタタビやキャットニップが売られており、それらを飼い猫に試したことがある方は多いのではないでしょうか。しかし、それらの興奮誘発物質がどのような成分を含み、どのようにして猫に作用するかについてはあまり明らかにはなっていません。
2017年3月2日にBMC Veterinary Research誌で発表された研究において、猫の興奮誘発物質に対してどの程度の猫が、どのような反応性を示すのかについて詳しく調べられ、猫と興奮誘発物質の実態が少しだけ明らかになりました。それでは、どのようなことが明らかになったのでしょうか?
なおこの論文は無料で読めるため、興味のある方は原著論文を読むことをお勧めします。
この記事でわかること
- マタタビやキャットニップだけでなく、アルタイヒョウタンボクやセイヨウカノコソウも興奮誘発物質である
- 94%の猫は4つの興奮誘発剤のうちどれか1つにでも反応する
- マタタビにおいては通常の生果よりも虫癭果(ちゅうえいか)の方が効果がある
- トラには効果がないが、ボブキャットには猫と同様の効果がある
猫の興奮誘発物質
猫の興奮誘発物質には様々なものがあります。その中でも日本で簡単に手に入れることができるのはマタタビとキャットニップだと思います。しかし、世界にはその他にもアルタイヒョウタンボクLonicera tatarica や セイヨウカノコソウ Valeriana officinalis などが存在しています。
さらに、この興奮誘発物質はイエネコだけでなくライオンやジャガーなどの大型のネコ科動物においても同様の反応が引き起こされます。
興奮誘発剤の作用機序
興奮誘発物質には様々な化学物質が含まれており、それらが猫の嗅覚系に作用することによって、猫は一種の恍惚感に浸ると考えられています。
そして、その最大の特徴は副作用などが観察されないということです。そのため、マタタビやキャットニップなどの興奮誘発物質を使用することで、副作用などの心配をせずに、猫の不安を和らげたり、運動を促進したり、また嗅覚的なエンリッチメントか可能になるのではと期待されています。
効果の個体差
しかし、問題が一つあります。それは、すべての猫に同じように作用するのではないということです。一部の猫は興奮誘発剤に対してかなり敏感に反応しますが、その他のものはマイルドにしか反応しなかったり、全くもって反応しなかったりします。そのため、興奮誘発剤が効かない猫に使用してもエンリッチメントを実現できるわけではありません。
反応する猫の割合
今回発表された研究では、100匹の猫に、マタタビやキャットニップ、アルタイヒョウタンボク、セイヨウカノコソウを別々に提示し、その反応性を見ました。その結果、79%の猫がマタタビに反応し、68%の猫がキャットニップに反応しました。そして、アルタイヒョウタンボクには53%、セイヨウカノコソウには47%の猫が反応しました。
以前からキャットニップに反応しない猫は1/3程度いるということがいわれていましたが、この結果とほぼ一致しますよね。
さらに、その4つの興奮誘発剤物質のうち少なくとも1つ以上に反応する猫は94%にも上るということがわかりました。つまり、ほとんどの猫は興奮誘発剤物質による嗅覚的なエンリッチメントを適用できる可能性があるということにです。素晴らしい発見のような気がします。
ちなみに、24%の猫が4つすべての興奮誘発物質に反応したそうです。
猫の反応の仕方
興奮誘発物質を使用すると、まず猫はニオイを嗅ぎ、舐めたりします。そして、頭を振ったり、興奮誘発物質に頬や顎を擦りつけたります。さらに加熱していくと、ゴロンと仰向けになり、くねくねしたり、興奮誘発物質が付いているものけってみたり、ヨダレを垂らしたりするようになります。
これらの反応を猫の性格などで違いがあるのかを見たところ、特に差はなかったようです。しかし、年齢においては生後10か月〜4歳の猫よりも4歳以上の猫において強い反応を見せる個体が多かったという結果でした。
マタタビへの反応性
この研究では、マタタビのどの部分に猫がよく反応するのかについても調べています。結果から言うと、猫はマタタビの生果よりも虫癭果(ちゅうえいか)によく反応するようです。
虫癭果とはマタタビの生果にできた虫こぶのことです。この虫こぶはマタタビノアブラムシやマタタビミタマバエなどが産卵したり、寄生することによりできるものです。考えたら少し気持ち悪いですが、それらの虫こぶの部分を潰したマタタビの方が効果的だということです。
トラとボブキャットも反応する?
最後に、トラとボブキャットにもマタタビやキャットニップは効果があるのかを見たところ、トラに関しては全くもって興味を示さなかったようです。一方で、ボブキャットの方はイエネコと同じように反応したそうです。
以前から、トラに関してはマタタビが効かないということが言われていたので、それらと一致していますね。
まとめ
今回の研究結果より、多くの猫(94%)がマタタビ、キャットニップ、アルタイヒョウタンボク、セイヨウカノコソウのどれか1つには必ず反応するということがわかりました。
嗅覚のエンリッチメントって意外と忘れがちですが、猫は主に化学的信号によりコミュニケーションを行っているということを考えると、ものすごく重要だと思います。もし、飼い猫があまり遊ばなくなったり、不安傾向が高かったりする場合には積極的に上記の興奮誘発物質を使用していくべきです。
少し論理が飛躍しすぎているとは思いますが、もしかするとClassic Feliway クラシック・フェリウェイ(F3の人工フェロモン)などが効かないような猫に使用するとそれなりの効果が出るかもしれませんよね。今後の研究に期待しましょう。
この研究ではその他にも興奮誘発物質の成分解析なども行っているため、気になる方は原著論文を読んでみて下さい。
原著論文
Bol S, Caspers J, Buckingham L, Anderson-Shelton GD , Ridgway C, Buffington CAT, Schulz S, Bunnik EM. Responsiveness of cats (Felidae) to silver vine (Actinidia polygama), Tatarian honeysuckle (Lonicera tatarica), valerian (Valeriana officinalis) and catnip (Nepeta cataria). BMC Veterinary Research, 2017, 13:70 DOI: 10.1186/s12917-017-0987-6.
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