高齢の患者の死期を予測することは、経験を積んだ医師であっても、正確に言いあてることは難しいでしょう。しかし、特別養護老人ホームで暮らす猫のオスカーは、そこで生活している高齢者がこの世から旅立つ時を、第六感のようなもので感じ取ることができるようなのです。オスカーのおかげで、スタッフたちは死期の近いと思われる患者の家族に連絡をすることができ、最後のお別れをさせてあげることができたと言います。
最期の時が分かる?
オスカーは死期が近いと感じ取ると、その高齢者が生活している部屋に行き、ベッドに上がって、高齢者の寝ている側に寄り添って横たわり、ゴロゴロと喉を鳴らします。この光景を見たスタッフは、家族に連絡をしたり、夜中もずっと付き添ったりして、高齢者を見守ります。オスカーは、家族がいない、またはまだ到着していない時には、その高齢者の側にぴったりとくっついて離れません。まるで、家族の代わりを務めているかのようだと言います。間も無くして、その高齢者は家族やスタッフに囲まれて息を引き取ります。
今までに、オスカーはアメリカ合衆国ロードアイランド州にある Steere House Nursing and Rehabilitation Centerに暮らす25人以上の居住者の最期を見守ってきました。
医学界でも話題に
老年医学専門医であり、医学博士であるDavid M. Dosaは、最初にこのオスカーの話を聞いた時にはあり得ないと思ったそうです。
ふと思いたって、彼はオスカーについてのエッセイを書き、それを猫の行動ではなく化学療法や薬物反応、感染、心疾患などに関する報告で知られるThe New England Journal of Medicine(超一流の医学誌)に投稿しました。すると、なんとオスカーについて書いたエッセイがアクセプトされたのです。これには、Dosa氏も驚きを隠せなかったようです。オスカーについてのエッセイは、オスカーの写真とともに、2007年7月26日発行のジャーナル(A Day in the Life of Oscar the Cat)に掲載されました。
オスカーってどんな猫なの??
オスカーは、Steere Houseのスタッフが近くのシェルターから引き取ってきた猫で、仔猫の頃からこの施設で暮らしています。このことが話題になった当時(2007年)の年齢は2歳です。
「私はオスカーの話を、ここで働く看護師から聞きました」とDosa氏は語ります。「話を聞いていると、どうやらオスカーは患者の最期が近づいてくると、その患者と一緒に過ごすようになるということが分かりました。」
Dosa氏は、患者がまさに死に近づいていることを感じ取ると、オスカーは注意をその患者に一心に注ぐようだと言います。エッセイでは、次のようなエピソードが書かれています。
オスカーが突然ある女性の部屋にやってきて、1時間以上彼女によりそって、ゴロゴロと喉を鳴らし始めました。家族がやってきて、間もなく彼女が息を引き取り、牧師が臨終の儀式を終えると、オスカーはそっと静かに彼女の部屋から出て行ったのです。
偶然なのか・・・??
最初は偶然かと思われていましたが、患者を看取った後に看護師同士の会話で「オスカーはいた?」という質問が出ると、その答えは決まって「はい」でした。重度の認知症を有した患者も多く、ターミナルケアを行うこの施設では、患者が死ぬことは珍しいことではありませんでしたが、オスカーがいつも死期の近い患者の部屋に現れることは、偶然とは思えなかったようでです。
愛する人たちに囲まれて
オスカーは大抵、患者が息を引き取る数時間前にベッドに上がってきて寄り添います。時には、半日前の時もあったようです。オスカーのおかげで、看護師は患者の家族に死期が迫っているかもしれないと伝えることができ、またスタッフたちのケアの充実も測ることができたと言います。
最期の瞬間を、一人ではなく、愛する家族やスタッフに囲まれて迎えることができたという点では、オスカーは患者の幸福な最期に大いに貢献しているといえるでしょう。
どうやって死期を知っているのか?
オスカーがどうやって、患者たちの死期を読み取っているのかについては、謎のままです。科学的な根拠はないものの、Dosa氏は次のようにその方法を予測しています。
「私たち医者も死期が迫っていることを、幾つかの所見から分かることがあります。例えば、非常に重篤な患者であれば、自発呼吸が難しくなってきます。このような状態になったら、我々は家族に最期が近いことを知らせます。」
「しかし、オスカーの場合は臨終の数時間も前からそれを察知しています。おそらく、死期が近い患者から出る独特の匂いを感じ取っているのでしょう」この考えに関しては、Dosa氏だけでなく、その他の多くの医師も支持しています。
「人が死の間際にいる時、何らかの化学物質(おそらくケトン)が放出されているのでしょう。したがって、オスカーはそれを嗅ぎ取っているのだと思います。」とブラウン大学の教授で、医学博士のJoan Teno氏も語っています。
動物学者はどう考える?
しかしながら、Dosa氏やTeno氏は動物に関する専門家ではありません。動物の専門家はどう考えているのでしょうか?そこで、3人の動物行動学者にオスカーの死期を予測する能力についての意見を聞いてみると、Dosa氏やTeno氏の説明に大方納得しているようです。
優れた嗅覚
全米猫獣医協会AAFP(American Associat Feline Practitioners)のトップであり、獣医師であるMargie Scherk氏も、Dosa氏やTeno氏と同様に、猫の優れた嗅覚が、死期の近い人から放出される、独特の匂いを捉えているのだろうと言います。「猫は私たちが感じることができない、多くの匂いを感じることができます。そして、確かに猫は”病気”を感じ取ることができます。」とScherk氏は語っています。
経験と学習
さらに、カルフォルニアの認定動物行動学者であるJill Goldman氏は次のように付け加えます。「猫は非常に優れた嗅覚も持っています。猫は賢いですし、特にオスカーは小さな頃からこの環境で育ってきたため、その”匂い”と”死”を結びつけるのは容易だったでしょう。また、そう言った死期が近い人には家族がやってきて、賑やかになることも学習しており、そのため、家族がやってこない人には自分がその仲間になってあげようとしているのかもしれません。」
卓越した観察眼
コロラド州の認定動物行動学者であるDaniel Estep氏は、匂い以外の説も挙げています。「純粋に体の動きが極端に少なくなったのを察知したのかもしれません。看護師は患者のことを四六時中見ている訳ではありませんから、その点オスカーはその変化に敏感に気がついているのかもしれませんね。猫は対象物の行動の変化に敏感ですから、普段と違う様子であれば、違和感をもっても不思議ではありません。」
まとめ
いかがでしたか?オスカーの能力の真偽は分かりませんが、最期の時を一人ではなく、家族などに囲まれて迎えることができるのは大変幸せなことでしょう。皆さんは飼っている猫ちゃんに、何か不思議な力を感じることがあるでしょうか??猫ちゃんは、まだまだ不思議がいっぱいです。
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