ふに
猫を飼っている方からすると、飼っている猫がかかりやすい病気を知っておきたいと思うのは当然のことです。なぜなら、その病気を知ることにより、予防することが可能であることが多いからです。
また、これから猫を飼おうとしている方も、猫種を選ぶ上で重要な医療費などの情報を知るきっかけになります。
今回はそんな疑問に答えるべく、2016年8月に Frontiers in Veterinary Science誌に掲載されたフィンランドの疫学研究について紹介したいと思います。なお、本論文は無料(Creative Commons license)で閲覧できるため、興味のある方は原著を読むことをお勧めします。
論文:Vapalahti K, Virtala A-M, Joensuu TA, Tiira K, Tähtinen J and Lohi H (2016) Health and Behavioral Survey of over 8000 Finnish Cats. Front. Vet. Sci. 3:70. doi: 10.3389/fvets.2016.00070
目次
研究の流れ
猫の情報集め
この研究ではフィンランド在住の猫の飼い主に質問紙を配り、飼い猫の情報について答えてもらい、そのデータを解析することで、特定の猫種にかかりやすい病気を見つけていきます。データ集めは、Facebookやキャットショー団体や猫種クラブの掲示板などを利用して行い、結果として8,175匹の猫のデータが集まりました。
猫のデータ解析
飼い主に配られた質問紙には、飼っている猫の猫種や年齢、性別、去勢・避妊手術の有無、持病、罹ったことのある病気などの情報が含まれています。中でも気になる病気の情報はそれぞれ19個のカテゴリーに分けられており、さらにその中に特定の病気が細分化されており、全部で227個の病気の情報があります。
この研究では最終的に、このデータを統計学的に解析し、猫種によりかかりやすい病気があるのかを調べています。

除外された猫種とまとめられた猫種
今回の研究では回答数が少なすぎた猫種は除外されています。例えば、日本で馴染みのある猫種であるアメリカン・ショートヘアーやセルカーク・レックス、アメリカン・カールなどです(その他にもいます)。
また、似たような猫種は同じグループにまとめられています。例えば、アビシニアンとオシキャット、ソマリは同じグループとして考えられています。その他にも、「バーミーズ、バーミラ、シンガプーラ」、「キムリック、マンクス」、「シャム、バリニーズ、オリエンタル、セイシェルワ」などのグループがあります。
猫がよく罹りやすい病気
それでは、結果についてみていきます。まず、猫種にかかわらず、全体的に有病率が高い病気についてみたところ、猫が最もかかりやすかった病気は口腔内や歯科疾患でした。続いて、皮膚疾患、泌尿器系疾患、消化器系疾患、生殖器系疾患、筋骨格系疾患の有病率が猫全体で高いことがわかりました。やはり、歯磨きは毎日することが重要なようです。
純血種の猫と混血種の猫が罹りやすい病気の違い
混血種の猫では皮膚疾患、消化器系疾患、泌尿器系疾患、呼吸系疾患、神経系疾患、問題行動、口腔内・歯科疾患で有病率が高くなりました。一方、純血種では生殖器系疾患と循環器・心臓系疾患の有病率が高くなっていました。ちなみに、混血種と純血種では病気のかかりやすさには特に差がないという結果でした(データ分布が特殊なカテゴリーであった寄生虫感染や原虫感染を除いた場合)。
各猫種における有病率の違い
特定の猫種でみてみると、以下の組み合わせてにおいて有病率が高いということがわかりました。
- ペルシャとエキゾチック:眼疾患と生殖器疾患(メス猫)
- コラット:呼吸器系疾患、筋骨格系疾患
- ターキッシュ・バン:腫瘍
- コーニッシュ・レックス:寄生虫・原虫感染
- スフィンクス:心疾患
- 「アビシニアン、 オシキャット、ソマリ」のグループ:泌尿器系疾患
上記の疾患と猫種の関係性については、猫種という要因だけでなく、年齢や性別などの様々な要因が加味された結果です。そのため、純粋に猫種という要因だけを考えた時には結果が異なります。この研究では猫種と罹りやすい病気の関係性を調べるためにさらに詳しい統計学的解析をしました。その結果が以下のとおりです。
以前から知られていて、本研究でも明らかになった遺伝性疾患の例
- ペルシャ、エキゾチック:多発性嚢胞腎
- シャム、バリニーズ、オリエンタル、セイシェルワ:進行性網膜萎縮
- アビシニアンーオシキャット:進行性網膜萎縮
- スフィンクス:肥大型心筋症
- ブリテッシュ(ショートヘアーとロングヘアーを含む):肥大型心筋症
- 混血種:肥大型心筋症
先行研究と一致する猫種特異性疾患の例
ペルシャ、エキゾチック
隔膜分離症、眼瞼内反症、その他の眼科疾患、脂漏症傾向、猫好酸球性肉芽腫症候群、不正咬合、下部尿路結石
メイン・クーン
眼瞼内反症、股関節形成不全、真菌性皮膚疾患、不正咬合、治療が必要な脂漏症、脂漏症傾向、ネコカリシウイルス、口内炎、歯肉炎
バーマン
斜視、眼振、帝王切開(メス)
シャム、バリニーズ、オリエンタル、セイシェルワ
斜視、喘息、帝王切開(メス)、ネコカリシウイルス、口内炎、乳がん(メス)、歯肉炎、キンクテール(曲がった尻尾)、腎不全
ブリテッシュ
股関節形成不全
デボン・レックス
帝王切開(メス)、股関節形成不全
コーニッシュ・レックス
眼振、拘束型心筋症、破歯細胞吸収病変、口内炎、原虫類の感染、脂漏症傾向
ラグドール
眼振
ターキッシュ・バン
猫好酸球性肉芽腫症候群、治療が必要な脂漏症
キムリック、マンクス
真菌性皮膚疾患、てんかん
コラット
喘息、キンクテール(曲がった尻尾)、猫特発性膀胱炎
スフィンクス
喘息、原虫類の感染
ノルウェージャン・フォレスト・キャット
てんかん、歯肉炎
ヨーロピアン(ショートヘアーとロングヘアーを含む)
てんかん、破歯細胞吸収病変、甲状腺機能亢進症
ロシアンブルー
てんかん、下部尿路結石
バーミーズ、バーミラ、シンガプーラ
帝王切開(メス)、死産(メス)、キンクテール(曲がった尻尾)、その他の眼科疾患
アビシニアン、オシキャット、ソマリ
下部尿路結石、破歯細胞吸収病変、原虫類の感染、歯肉炎、膀胱炎、猫特発性膀胱炎、呼吸器感染症、尿路感染症
ベンガル
キンクテール(曲がった尻尾)
サイベリアン
呼吸器感染症
混血種
隔膜分離症、眼瞼内反症、股関節形成不全、眼振、拘束型心筋症、猫好酸球性肉芽腫症候群、真菌性皮膚疾患、喘息、不正咬合、治療が必要な脂漏症、てんかん、下部尿路結石、ネコカリシウイルス、破歯細胞吸収病変、甲状腺機能亢進症、口内炎、臍ヘルニア、原虫類の感染、乳がん(メス)、歯肉炎、キンクテール(曲がった尻尾)、脂漏症傾向、膀胱炎、腎不全、猫特発性膀胱炎、呼吸器感染症、その他の眼科疾患、尿路感染症
初めて明らかになった猫種特異的疾患の例
ペルシャ、エキゾチック
卵巣嚢腫(メス)、不妊症(メス)
メイン・クーン
便秘
バーマン
肛門膿の問題、腸閉塞
シャム、バリニーズ、オリエンタル、セイシェルワ
漏斗胸、創傷、無歯症、歯周炎、猫上気道感染症、便秘、歯石
ブリテッシュ
開脚肢
コーニッシュ・レックス
猫ヘルペスウイルス、無歯症、歯周炎、猫上気道感染症(カリシウイルスもしくはヘルペスウイルスによる)、被毛に関係するその他の病気
ラグドール
嘔吐
ターキッシュ・バン
漏斗胸、外部寄生虫
キムリック、マンクス
内部寄生虫
コラット
肛門膿の問題
スフィンクス
猫ヘルペスウイルス
ノルウェージャン・フォレスト・キャット
創傷、猫上気道感染症(カリシウイルスもしくはヘルペスウイルスによる)
ヨーロピアン(ショートヘアーとロングヘアーを含む)
内部寄生虫
バーミーズ、バーミラ、シンガプーラ
猫上気道感染症(カリシウイルスもしくはヘルペスウイルスによる)、便秘
アビシニアン、オシキャット、ソマリ
捻挫、創傷、無歯症、嘔吐、歯石
混血種
開脚肢、猫ヘルペスウイルス、漏斗胸、内部寄生虫、外部寄生虫、創傷、無歯症、歯周炎、猫上気道感染症(カリシウイルスもしくはヘルペスウイルスによる)、便秘、肛門膿の問題、腸閉塞、嘔吐、歯石
猫種に特異的問題行動
- 活動性の低下:ブリティッシュ、ラグドール、バーマン、メイン・クーン、混血種
- 人との接触を避ける:ブリティッシュ、混血種
- 家族に対する攻撃:ターキッシュ・バン、コラット、混血種
- 見知らぬ人に対する攻撃:ターキッシュ・バン、コラット、混血種
- 他の猫に対する攻撃:ターキッシュ・バン、ベンガル、混血種
- 新規環境への過敏性:ベンガル、ロシアン・ブルー、ターキッシュ・バン、「シャム、バリニーズ、オリエンタル、セイシェルワ」、混血種
- 見知らぬ人に対する過敏性:ロシアン・ブルー、ベンガル、「シャム、バリニーズ、オリエンタル、セイシェルワ」、ターキッシュ・バン、混血種
- 過剰な毛繕い:「バーミーズ、バーミラ、シンガプーラ」、ロシアン・ブルー、「シャム、バリニーズ、オリエンタル、セイシェルワ」、スフィンクス、混血種
まとめ
歯磨きは重要
猫種に関係なく、口腔内や歯科疾患に罹患する猫は多いことが示されています。このことは先行研究でも示されていることなので、やっぱり毎日の歯磨きは欠かせません。
純血種と混血種の違い
混血種(雑種)においてはかなりたくさんの疾患にかかる傾向があると出ていますが、これは混血種のデータ数が多いことや様々な猫種の血統が混ざっていることから仕方がないことだと思います。また、さらに年齢や性別などの要因を加味した時には混血種と純血種で有意な差もないことから、純血種よりも病気に罹りやすいということはいえません。おそらく個体差がかなりあると思います。
あくまでもフィンランドでの結果
この研究はあくまでもフィンランドの猫を対象にした研究であるため、この結果が世界中の猫に当てはまるということではありません。各国のブリーダーや飼い主の飼養環境や交配形態の違いなどにより罹りやすい病気は異なってくるので、この結果はあくまでも参考にする程度にしておきましょう。
この研究では上記で紹介した結果以外にもたくさんの解析を行っているので、実際に原著論文を読んでみることを強くお勧めします。
あわせて読みたい
原著論文
Vapalahti K, Virtala A-M, Joensuu TA, Tiira K, Tähtinen J and Lohi H (2016) Health and Behavioral Survey of over 8000 Finnish Cats. Front. Vet. Sci. 3:70. doi: 10.3389/fvets.2016.00070
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