一般的に猫がトイレ内で行う行動といえば、「トイレに入る→穴を掘る→座る→排泄→砂をかける→トイレから出る」ぐらいの認識です。しかし、最新の研究によると猫の排泄行動を細かく見ていくと、39個もの行動のバリエーションがあることがわかりました。さらに、快適なトイレと不快なトイレを使用した際にどのような行動の違いが起こるのかを解析した結果、猫がトイレに不満がある際に示す行動の一端が明らかになりました。
では、実際にどのような実験を行なったのか、その概要について紹介していきます。なお、記事の途中で頭の中がごちゃごちゃになるかもしれませんが、最後のまとめのところで、猫が不快なトイレを使用する際に観察される行動について、簡潔にまとめてあるので、最後までお付合いください。
今回紹介する内容は2017年5月15日付でApplied Animal Behaviour Science誌にて発表された研究論文の一部になります。オープンアクセスであり、誰でも無料で読むことができるため、詳細が気になる方は原著論文を読むことをお勧めします。
猫の不適切な排泄行動
猫の飼い主を悩ませる行動の1つが、不適切な排泄です。不適切な排泄はスプレー行動とは異なり、トイレの外でいつも通りの排泄行動を行ってしまうというものです。この不適切な排泄の原因としては病気や他の猫によるストレスやトイレに対する不満など、様々な理由から引き起こされることが知られています。
では、不適切な排泄を飼い主が予期することは不可能なのでしょうか? もし、トイレでの猫の行動変化により、トイレに関する不満などを読み取ることができるのであれば、問題行動に発展する前にいち早く対応することができるのではないでしょうか?
しかし、そのためには猫がトイレ内でそもそもどのような行動をしているのかを知る必要があります。
2種類のトイレ
研究では環境が極端に異なる2種類のトイレを用意し、それぞれのトイレにおける行動を録画し、行動を解析しています。対象となった猫は12匹です。
環境が整ったトイレ Enriched Environment
まず、一つ目の環境は猫にとっては快適な環境と考えられるトイレです。3.65 x 4.26 mの大きな部屋に、89 x 89 x 17 cmのステンレス製のトイレが設置されており、トイレ内には市販の猫砂(土ベース)が5cmの深さになるように敷き詰められています。また、部屋にはキャットステップなどもあり、トイレ以外の環境にも配慮がされています。
病院仕様のトイレ Clinic-like Environment
もう一つは病院で使用されるような環境であり、猫にとっては快適とは言えないような環境です。この記事では猫にとって「不快なトイレ」ということにしておきます。具体的には71 x 61 x 81 cmという小さな部屋に、41x 30 x 10 cmのトイレが設置してあり、355mlのポリプロピレンが敷き詰められているものの、かなり少ない量になります。部屋の中には小さなおもちゃや猫が休めるような棚が付いています。

猫のトイレ行動の解析
それぞれの猫のトイレ行動を録画し、トイレにおける猫の行動を細分化したところ、39個の行動に分けることができました。そして、上記の2つのトイレ環境においての行動の違いを検証したところ次のようなことがわかりました。
不快なトイレでは滞在時間が長くなる
まず、一般的な指標であるトイレに入っている時間を見ました。尿に関しては、不快なトイレ(病院仕様のトイレ)で尿をする時の方が、排尿中と排尿後の処理にかかる時間が長くなるという結果になりました。
また、トイレに行く頻度を見ると排尿時に関しては明らかに不快なトイレの方で排尿に行く回数が少なくなっており、尿を我慢する傾向が見られました。そして、この我慢が排尿時の時間の延長に関連している可能性も考えられます。
一方、便に関しては、不快なトイレで排便をした後の処理にかかる時間が長くかかるということがわかりました。トイレに行く回数に関しては顕著な変化はありませんでした。
不快なトイレでは尻尾が逆U字になる
また、不快なトイレでの排尿は、尻尾が逆U字(尻尾が下向きにカールしている状態)になる時間が長くなりましたが、頻度には違いはありませんでした。
一方、排便時には尻尾が逆U字になる時間に変化は認められませんでしたが、その頻度が高くなりました。
不快なトイレではそわそわする
不快なトイレにおける排尿や排便の前後においては、猫が様々な行動をとることが観察されました。例えば、排泄をする前や後にトイレの中で回転したり、歩いたり、立ってみたり、トイレの壁にもたれかかったりする行動の回数や時間が増加することが観察されました。
不快なトイレをした後では前足をよく使用する
不快なトイレで排泄をした後では、猫砂以外の部分に前足をおき、前後に前足を動かすという行動の頻度と長さが増加しました。この行動は排泄物に猫砂をかぶせるような行動とほぼ同じですが、猫砂がないトイレの壁や地面にて行っているという点では異なります。
不快なトイレをした後ではニオイをよく嗅ぐ
不快なトイレで排泄をした後では、排泄物のニオイを嗅ぐ頻度と長さが増加することがわかりました。
まとめ
少しややこしくなったかもしれないので、今回の記事で紹介した結果を以下にまとめておきます。
猫が不快なトイレで排尿を行う際には…
- 排尿をしている間と排尿をした後の処理時間が長くなる
- トイレに行く回数が減少する傾向が見られる
- 排尿している最中に尻尾が逆U字型にカールする時間が長くなる
- 排尿する前やした後においてそわそわする(トイレ内)
- 排尿をした後に猫砂以外の部分を前足でカキカキする
- 排尿した後には尿のニオイを嗅ぐ回数や時間が増える
猫が不快なトイレで排便を行う際には…
- 排便した後にかかる時間が長くなる
- 排便中に逆U字型にカールする頻度が増える
- 排便する前やした後においてそわそわする(トイレ内)
- 排便をした後に猫砂以外の部分を前足でカキカキする
- 排便した後には尿のニオイを嗅ぐ回数や時間が増える
今回の研究により、猫がトイレする時には39個もの行動を行っており、思った以上に様々な行動を行っているということがわかりました。また、環境的に整っているトイレと整っていないでは猫の行動に様々な違いがあることがわかりました。
今回の研究でわかったような、わずかな行動の変化を飼い主が気づけるようになれば、猫が持っているトイレに対する不満に迅速に対応することができるようになり、問題行動に発展することは少なくなるかもしれません。ただ、わずかな行動の変化に気づくためには、正常な行動を知っておくことが重要であるため、日頃から愛猫の行動を観察し、猫の行動に関する知識を蓄えておくようにすることが大切だと思います。
上記で紹介した内容は論文の結果の一部であり、それ以外にもトイレ行動の性差などの解析も行なっていますので、もっと詳しく知りたいという方は原著論文を読んで頂ければと思います。
原著論文
McGowan R, Ellis J, Bensky M, Martin F, The ins and outs of the litter box: A detailed ethogram of cat elimination behavior in two contrasting environments. Applied Animal Behaviour Science(2017). https://doi.org/10.1016/j.applanim.2017.05.009
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