皆さん自分の血圧がどのくらいか把握しているでしょうか? 「毎日チェックしてるよ!」という方から「健康診断の時だけかなぁ」なんて方も多いと思います。特に年齢とともに気になってくるのは高血圧ですよね。日本人は、味噌や醤油などの伝統的な調味料に含まれる塩分濃度が高いため、高血圧になりやすいとも言われます。高血圧は色んな病気とも関連するため、定期的に血圧をチェックして、高血圧にならないように気をつけたいものです。
猫にも高血圧は当然生じますので、食生活や運動など飼い主が気をつけてあげなければなりません。それでは、猫の正常血圧はどのくらいかはご存知でしょうか?今回は、そんな猫の正常血圧についての調査を報告した論文を紹介したいと思います。
なお、この論文はJournal of Veterinary Internal Medicineに2016年12月1日付で発表された論文を基にしています。この論文は無料(Creative Commons license)で閲覧できるため、興味のある方は原著を読むことをお勧めします。
この記事で分かること
- 猫の収縮期血圧は、『間接法』で測定するとばらつきが大きい。
- 『直接法』で測定するよりも、『間接法』で測定した場合の方が収縮期血圧(最高血圧)が低く出る可能性が高い。
- 血圧の評価には猫の気質や不妊手術の有無、野良猫であったかなどを考慮に入れる必要性がある。
直接法と間接法
まず、血圧の測定には大きく分けて、「直接法」と「間接法」の2種類の方法があります。
直接法
血管内に直接、カニューレを挿入して測定するので、正確かつ経時的に血圧を測定することができます。しかし、この方法は血管にカニューレを挿入する必要があることからも分かるように侵襲性が高いので、手術や精密検査など本当に正確な情報が必要な時に行われます。
間接法
皆さんが血圧測定と言って思い浮かべる、あの腕にカフを巻きつけて圧を加えて測る方法が、間接法です。橈骨動脈の触診や上腕動脈のコロトコフ音と呼ばれる音を聴診することで、血圧を測定します。気軽に測ることができますが、直接法と同じ数値が得られにくい(正確性に劣る)と言われます。
健康な猫の血圧
特に持病などを持っておらず元気に日常生活を送ることのできている、いわゆる”健康”な猫の収縮期血圧(最高血圧)は、直接法で測定した場合平均しておよそ125mmHgであると報告されています。一方で、間接法で測定するとその平均の数値のばらつきがかなり大きくなることが知られています。述べたように、日常的に測定する時に用いられるのは「間接法」です。この数値のばらつきが大きいと、正常なのか高血圧なのかを判断することが難しくなると言えます。
健康な猫の収縮期血圧のデータを収集
したがって、今回の実験では健康な猫の「間接法」を用いて測定した血圧、そしてそれらに関連した疫学的な要素を調べるために、大規模な調査そしてデータ収集を行いました。
対象の猫と調査の方法
今回、研究の対象となったのは何らかの理由によりシェルターに保護され、里親に引き渡すために心雑音や心臓病の検査を受けた780匹の猫です。対象となった猫は、これらの検査の結果や既往歴をもとに、健康であると獣医から診断を受けています。
それらの猫の収縮期血圧をドプラ測定法と呼ばれる間接法で測定し比較を行いました。ちなみにこの測定方法は、アメリカ獣医内科学学会(ACVIM)が推奨している方法です。
猫の気質や歴史により血圧が異なる
その結果、収縮期血圧(最高血圧)の中央値は120.6 mmHgであり、最も低い個体で110.4mmHg、最も高い個体で132.4mmHgでした。
また人と同様に、神経質な性格ほど、そして年齢が上がるほど血圧は高くなり、オスの方が血圧が高い傾向にありました。
加えて、不妊手術を受けている猫や野良猫の経験がある猫も比較的高い数値を示しました(正常の範囲)。この研究では、健康な猫の 収縮期血圧(最高血圧)において、29.2% のばらつきがあるという結果となりました。
まとめ
間接法の測定には測定者の技量も関わってくるので、多少のばらつきが出るのは仕方がないかと思います。しかし、一般的に言われいてる猫の平均的な収縮期血圧(最高血圧)125mgよりも、低い数値120.6 mmHgが中央値という結果になったことから、従来よりも高血圧の基準を厳しく見た方が良いかもしれません。
また、血圧を評価する際は年齢や性別は今までも考慮されていたかもしれませんが、その猫の気質や不妊手術の有無、野良猫であったかなどの背景も考慮に入れる必要がありそうです。
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原著論文
Blood Pressure Measurements in 780 Apparently Healthy Cats. J.R. Payne, D.C. Brodbelt, V. Luis Fuentes. DOI: 10.1111/jvim.14625
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