猫の感染症の中でも猫白血病ウイルス感染症FeLVは有名です。そのFeLVを引き起こしているのが、猫白血病ウイルスFeLVsであり、いくつかの種類に分けることができます。そして、一部のFeLVsは、人獣共通感染症(ズーノーシス)の原因となってもおかしくないと言われています。しかし、人間が猫白血病ウイルスに感染した猫と一緒に過ごしていても、特に猫白血病ウイルス感染症が発症することはありません。ではなぜ、人間は猫白血病ウイルスに強いのでしょうか?
FeLV-Bへの感受性の探索
猫白血病ウイルスにも様々な種類のものがおり、その中で最も人獣共通感染症(ズーノーシス)の危険性があるものはFeLV-Bという種類のウイルスです。そして最新の研究はこのFeLV-Bに対して人間の細胞がどのような反応を示すのかについて探索しました。その結果、FeLV-Bに対する反応は細胞の種類により異なるということがわかりました。また、人間の細胞がFeLVに対してとる防御機構の一部が明らかになりました。
これらの結果は2017年3月付のJournal of Virologyに掲載されており、誰でも無料で読むことができます。興味のある方は原著論文を読むことをお勧めいたします。
細胞内でのウイルス複製
まず、いくつかのヒト由来の細胞を用意し、FeLV-Bを感染させ、感染した細胞にどの程度のウイルスの複製が起こっているかを調べたところ、細胞の種類により複製の程度が異なるということがわかりました。ちなみに、ウイルスは細胞に感染し、その細胞にウイルスのDNAを組み込み、ウイルスの子孫を作らせ(複製)、どんどんウイルスを増殖させていきます。
ここでは詳しい細胞の種類については述べませんが、ガン由来の細胞、そして変異の起こっていないケラチノサイト(表皮角化細胞)と肺の繊維芽細胞ではウイルスのDNAが細胞のDNAに組み込まれ、ウイルスの複製が多く観察されました。これに対して、末梢血単核細胞*(PBMC)では、ウイルスが細胞に感染しているにも関わらず、DNAの組み込みやウイルスの複製が中程度〜ほとんど検出されないという結果になりました。
*末梢血単核細胞:免疫系の細胞のほとんどを含む。例えば、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、単球など。
なぜウイルスの複製が起こりにくい?
次に、なぜ末梢血単核細胞などではウイルスの複製が起こりにくいかについて調べたところ、防御機構の一部が明らかになりました。
複製されたウイルスに仕掛けを行う
中程度のウイルスの複製が起こっているような細胞では、細胞内で新たに複製されたウイルスにAPOBEC3(酵素)を組み入れ、ウイルスが別の細胞に感染することを防いでいる可能性があることがわかりました。簡単に解説すると、APOBEC3という酵素がウイルスの子孫に組み込まれると、この子孫ウイルスが別の細胞に感染した際に、APOBEC3が機能し、ウイルスの複製能力を抑制するといった感じです。
一方、あまりウイルスの複製が行われていないような細胞では異なる防御機構が働いているということがわかりました。
不明な防御機構
あまりウイルスの複製が起こらない細胞でも、ウイルスのDNAが細胞内に取り込まれているようなのですが、ウイルスの複製は抑制されています。その抑制方法が気になるところですが、その機構については明らかにできませんでした。一つ言えることは、前述したAPOBEC3とは関係のない独立した防御機構が機能しているということです。今後、さらなる研究が望まれます。
まとめ
猫白血病ウイルスFeLVの中でも、FeLV-Bは人間の細胞に感染することが分かりました。人間の血液に存在する免疫系の細胞においては、FeLV-Bの増殖を抑制する防御機構が複数存在しており、それらが猫白血病ウイルス感染症が人間に発症しない理由なのかもしれません。考えたくはありませんが、今後、FeLV-Bに突然変異が起こり、それらの防御機構が破られた場合には人間にも発症する可能性がないとは言い切れないと思います。
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原著論文
Terry A, Kilbey A, Naseer A, Levy LS, Ahmad S, Watts C, Mackay N, Cameron E, Wilson S, Neil JC. 2017. Barriers to infection of human cells by feline leukemia virus: insights into resistance to zoonosis. J Virol 91:e02119-16. https://doi.org/10.1128/JVI.02119-16.
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