猫が自然保護に与える影響が、生物学者や自然保護活動家などによって近年多く指摘されていきました。すなわち、猫が生態系を壊したり、絶滅危惧種のような生物種を絶滅の危機に追いやっていると言った話です。野鳥の数の減少など、皆さんも少しは聞いたことのある話題なのではないでしょうか?
しかし、実際のところ家猫がどんな種類の獲物をどれだけ捕獲しているのか、そしてそれが猫の住む環境によって異なるのかなどは詳しく調べられていませんでした。今回は、これらにトピックに関して行われたポーランドの研究を紹介したいと思います。
なお、今回の記事は2016年12月28日にUrban Ecosystems (Springer)に掲載された論文を参照しています。誰でも無料で読めますので、興味のある方は原著論文を読むことをお勧めします。
この記事でわかること
- ポーランドの猫はげっ歯類(ネズミ)を狩ることが多い
- ポーランドの都会に住む猫は鳥類、郊外に住む猫は哺乳類を狩ることが多い
- 寒い時期において、ポーランドの猫は爬虫類を狩ることが多い
調査地域:ポーランド
調査が行われたのはポーランドの中心部で、西ヨーロッパの海洋気候と東ヨーロッパの乾燥した大陸気候の影響を受ける地域です。農作物の成長に適した時期は年間のうちおよそ210日で、年間降水量は600mmと日本と比べるとかなり少ないです。研究の対象となった地域は大きく分けて次の2つです。
・郊外(田舎)地域
耕作地が60~90%、森林が6~30%を占める地域。
・都市部地域
建物が50%以上を占める地域。
猫が捕獲してきた獲物を調査
郊外地域に住む飼い主16人と、都市部地域に住む飼い主に飼われている猫の採ってきた獲物を2002年10月〜2007年の12月にかけて調査しました。もちろん、これらの猫は室外に自由に行けるような環境で飼われている猫です。飼い主は、猫が家に持って帰ってきた獲物の種類や数を記録し、猫が採ってきた獲物はさらなる解析のために凍結保存、もしくは写真撮影をするように指導しました。獲物のカテゴリーは次の5つです。
- げっ歯類
- トガリネズミ目 (モグラなど)
- 鳥類
- 爬虫類
- その他の脊椎動物
やはりげっ歯類が多い
合計して1348の獲物が猫によって捕獲されました。げっ歯類が最も多く836、ついで鳥類が209、爬虫類が131、そしてその他の脊椎動物が116でした。
郊外(田舎)地域では、哺乳類が占める割合が76.8%で、鳥類は9.9%、爬虫類は11.4%でした。対して都市部地域では、哺乳類が占める割合がおよそ半分で、ついで鳥類が36.5%でした。
郊外地域と都会地域での違い
郊外地域では獲物となるのは哺乳類が多く、都会地域では鳥類が大きな割合を占めるということがわかりました。都会地域の獲物の中で特に多かったのはスズメとハトで、過去の研究では都会地域の方が郊外地域よりも生息密度が高いとの報告もあり、純粋にこのような個体数が結果に反映されたことが考えられます。
季節変動
また、当たり前のようですが季節ごとに捕獲された獲物の種類や数が変動するというデータが得られました。猫が捕まえてきた脊椎動物の数は、9月が最も多く、1月に最も少なくなりました。それと比例して、獲物となったげっ歯類は9月に最も多く、モグラや鳥類に関しては6月頃に多くなり、その他の獲物が不活発になる寒い時期〜春頃では爬虫類が多くなりました。
獲物の構成の変動
郊外地域では都市部地域と比較すると獲物の構成が季節によって大きく変わり、対して都市部地域では比較的その割合は一定していました。単純に、郊外地域にいる猫の対象となる獲物は、より自然に近い形で生息しているわけですから、季節の影響を受けやすいのは納得の事項でしょう。
まとめ
貴重な野鳥を猫が捕獲し、その数を減少させてしまうことがよく懸念されているかと思いますが、今回の研究では野鳥が豊富であろう郊外地域においても、獲物の対象はほとんどが、げっ歯類やモグラなどの哺乳類でした。単純にこれらの動物の方が、1回の狩りで得られるエネルギー量が多く、加えて地面にいるのでより捕まえやすいのでしょう。
猫の数が爆発的に増えない限りは、鳥類をはじめとした生態系に与える影響は少ないと言えます。加えて、今回の研究で得られた獲物となる動物種の季節変動のデータをもとに、保護したい対象に合わせて介入時期を変えて効率よく対処することも、今後はできるようになるのではないでしょうか?
この調査の限界
今回の調査は、あくまでポーランドで行われたものであり、他の地域では結果が異なることも予測されます。また、猫は捕まえた獲物を全て持って帰ってくるとも限りませんから、正確に獲物の数が反映されているかは正直なところ定かではないと思います。しかし、以前にこのような研究は試みられていませんから、貴重なデータであることは間違いありません。
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原著論文
Annual variation in prey composition of domestic cats in rural and urban environment. Urban Ecosyst. DOI 10.1007/s11252-016-0634-1
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