猫ブームと相まって、多頭飼育崩壊についての認知度が高まりつつあります。猫の福祉を考えると、多頭飼育崩壊を起こすような数の猫の飼育は最悪の状況であり、猫にとっては極めてストレスフルな環境といえます。
野良猫が可哀想だからという理由で、猫を保護しているうちに、多頭飼育崩壊の一歩手前まで状況が深刻化していることもあるそうなので、保護猫活動をしている方も気をつけたいところでもあります。
そんな多頭飼育崩壊について考えるときに、いつも考えるのが、多頭飼育崩壊に至る方々に何かしら共通点や傾向はないのか?ということです。つい最近ネット見つけた論文がメンタルヘルスの観点から共通点や傾向を調べていたので、少し紹介しつつ、多頭飼育崩壊について解説していきたいと思います。
この記事でわかること
- 多頭飼育崩壊はアニマル・ホーディングと呼ばれる
- アニマル・ホーディングの定義
- 多頭飼育崩壊予備軍(アニマル・ホーディング予備軍)は猫に対する愛着形成が強い
- 多頭飼育崩壊予備軍では、ホーディングの傾向と不安や抑うつ傾向が正の相関を示す
- 適切な飼い方をすれば、猫は抑うつに対して効果的である
目次
多頭飼育崩壊
日本ではメディアの影響もあり、多頭飼育崩壊という言葉が浸透しつつありますが、実際にはアニマル・ホーディング Animal Hoardingといいます。さらに、そういったアニマル・ホーディングを行っている方のことをアニマル・ホーダー Animal Hoarderと呼びます。略してホーダーと呼ぶことが多いです。
アニマル・ホーディングは様々なペット種で起こりますが、中でも多いのが猫と犬になり、どちらかといえば猫の方が多いようです。
ではどう言った方がアニマル・ホーダーとして認識されるのでしょうか?
アニマル・ホーダーの定義
多頭飼育崩壊まで至るようなアニマル・ホーダーは次のように定義されています(the Hoarding of Animals Research Consortium)。ここでは猫に変換して解説します。
- 猫を無数に飼う
- 猫を飼う際に最低限の栄養管理や衛生管理、医療管理を行わない
- 猫や飼い主、その他の住民に対して悪影響はないと認識している
- 猫を集めることや飼いならす(現実は飼いならせていない)ことに固執している
精神疾患としてのアニマル・ホーダー
実は、病名としてホーディング障害 Hoarding Disorder というものがあります。Mayo Clinic によると、ホーディング障害の方は対象物を救わなければならないと考えているようです。さらに、それらの対象物を捨てることにものすごく抵抗を感じるため、どんどん物が溢れていってしまうのです。これはれっきとした精神疾患であるため、精神科医による診断が行われます。
対象がペットではなくモノの場合には強迫観念(OCD)が強い方において起こりやすいと言われており、その関連性が示唆されています。しかし、猫などのペット動物のホーダーにはそういった強迫観念の傾向はあまり認められないとされています(Nathnson, 2009.)。
予備軍におけるメンタルヘルス
私が今回読んだ論文では、そういったアニマル・ホーダーのメンタルヘルスを探るのではなく、アニマル・ホーダー予備軍(多頭飼育崩壊予備軍)と考えられる飼い主が対象になっています。そのため、多頭飼育崩壊に至る可能性のある方のメンタルヘルスを探っているという訳です。
ちなみに、予備軍の方々は研究を行った時点で、猫に対して最低限のケアは行っており、アニマル・ホーダーの定義からは少しはずれているという特徴があります。
心理学的評価
この研究では猫を① 1~2匹飼っている飼い主(健常群)と、② 20匹以上猫を飼っている飼い主(予備軍)の2群に群わけし、その群の間に何か違いがあるのかを調査しています。対象者には以下の3つの評価を行い、①の群と②の群の違いを見ています。
- Saving Inventory Revised(SI-R):ホーディングの程度を評価するスケール。もともとはモノのホーディングが対象ですが、猫に適応できるように改変されています。
- Lexington Attachment to Pets Scale(LAPS):飼い主が猫に対してどの程度愛着形成をしているのかを評価するスケール。
- The Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS):不安と抑うつ傾向について評価するスケール。
多頭飼育崩壊予備軍は愛着形成が強い
まず、多頭飼育崩壊予備軍においては、健常群よりも猫に対する愛着形成が強いということがわかりました。
多頭飼育崩壊予備軍は不安・抑うつ傾向が高い
また、予備軍においてはホーディングの程度(SI-Rによる評価)と不安と抑うつ傾向との間に正の相関が観察されており、ホーディングの程度が高くなればなるほど、不安と抑うつ傾向が高まるということがわかりました。
健常群においては、愛着形成の程度が高くなればなるほど、抑うつの傾向が少なくなるという結果が観察されており、適切な飼い方をすれば猫がもたらす精神的メリットは大きいということになります。
まとめ
多頭飼育崩壊予備軍(アニマル・ホーディング予備軍)であればあるほど、不安や抑うつ傾向が高いということが今回紹介した論文で示唆されました。しかし、この研究はブラジルで行われたものであり、その結果をそのまま日本にも適応することができるのかは不明です。
また、予備軍においては愛着形成が強くなるという結果が出ているにもかかわらず、ホーディング傾向と愛着形成との間に関係性が観察されていません。そのため、この研究で調べた要因だけではなく、さらに多くの要因が多頭飼育崩壊予備軍に影響を与えているのではないかと思います。おそらく、ホーディングには、より複雑な心理学的な側面が関連していると思われます。
最後に最も気になったのは、結局この予備軍の方々は研究後、アニマル・ホーディング状態になったのでしょうか?それが確認できないと予備軍とは言い切れないような気もします。この辺は色々と議論がありそうな部分ですね。
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原著論文
Ramos, D., da Cruz, N.O., Ellis, S.L.H., Hernandez, J.A.E., & Reche-Junior, A. Early stage animal hoarders: Are these owners of large numbers of adequately cared-for cats? Human-Animal Interaction Bulletin,(2013), 1 (1), 55-69.
参考文献
Nathanson, J. N. Animal Hoarding: Slipping into the darkness of co-morbid animal and self-neglect. Journal of Elder Abuse and Neglect, (2009) 21, 307-324. DOI: 10.1080/08946560903004839
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