保護猫施設において適切な保護猫の数やケージ数を見極めることは重要です。最新研究ではキャパオーバーになっているシェルターに適切な数の保護猫の飼養を促すことで、譲渡率の向上や殺処分率の低下が観察されています。しかし、どのようにして適切な保護猫の数やケージ数を算出すれば良いのでしょうか?
海外では保護猫施設において適切な保護猫の数やケージ数を見極め、それを実践するCapacity for Care;C4Cという取り組みが行われています。その取り組みの中では、毎月の適切な保護猫数、ケージ数を算出する「Magic Number Calculator」を使用します。これはExcelのファイルであり、毎月、簡単な数値を入力するだけで、その月における適切な保護猫数、ケージ数を算出することを可能にしています。先日、「Magic Number Calculator」を使用する機会があったので、少し使い方をメモしておきたいと思います。
目次
Magic Number Calculatorのダウンロード
Capacity for Careのための「Magic Number Calculator」こちらのサイトからダウンロードすることができます。以下の画像の赤丸の部分をクリックするとダウンロードが始まります。ダウンロードが完了したら、Excelで開いてください。なお、画像の青丸の部分をクリックすると、C4Cの概念やMagic Number Calculatorの使い方などについて学習することができます。英語ですが、一読するようにしてください。
保護猫の数を入力
ファイルをExcelで開けると、一番上にその月「Month」とシェルターの名前「Shelter name」を書く場所があるので、月とシェルター名を記載しておきましょう。このMagic Number Calculatorはあくまでも月ごとの適切な保護猫、ケージの数を算出するものであるため、毎月計算する必要があります。では、早速入力していきます。
まずは左上の「Intake(収容)」の部分に入力をしていきます。ここでは過去2年の同じ月のデータを振り返り、実際に保護した猫の数を「Adults(成猫)」と「Kittens(子猫)」に分けて入力していきます。気をつけたいのは、同じ月のデータを入力するということです。例えば、今年の5月の適切な数値を算出したいのであれば、過去2年の5月に保護した猫の数を入力するということになります。
また、今年の予想収容数について入力していきます。この数値が今後の計算に使用されるため、過去2年間のデータをもとに慎重に入力するようにしてください。もし、過去2年のデータがない場合には予測収容数のみを入力するだけでも構いません。しかし、その場合はかなり慎重に数を決めてください。
横にあるMDAとは「Mean Daily Average」の略であり、1日あたりに保護する猫の数を示しており、成猫と仔猫において自動で算出されます。
保護施設にて譲渡できた猫の数を入力
続いては、「On-site adoptions」の表の入力を行います。ここでは、施設内で譲渡できた猫の数を過去2年間入力し、さらに今年の予測数についても入力していきます。原理については、先ほどの「Intake(収容)」の表と同様です。MDAは1日あたりに譲渡できた猫の数を示しており、成猫と仔猫において自動で算出されます。気をつけたいのは、あくまでも保護猫施設において譲渡できた数であり、一時預かりなどの数はここには含めないということです。
一方で、「On-site adoptions」の下にある、「Total outcomes(including foster care)」の表については一時預かりを含めた、結果として施設より排出できた猫の数を入力していきます。ここでは、MDAの算出はありません。
滞在日数の設定
ここまで来ると、次はExcelのシートを変更します。下の画像の赤い丸の部分をクリックし、シートを変更すると、保護猫施設における保護猫の滞在日数を設定していきます。ここで入力する数値については、すべて保護猫施設が期待もしくは理想とする現実的な数値を入力していきます。もし、それらの数値がわからない場合には、過去のデータの平均値などを持ってきても良いと思います。なお、保護猫施設において受け入れる猫の数などが劇的に変わらない限りは、ここの設定を変更する必要はないため、1度設定するだけで十分です。
譲渡部屋に行くまでの日数
まず、左上の「Pre-adoption/Hold LOS adults」の表に入力を行っていきます。ここでは保護施設に『成猫』の保護猫が来てから、譲渡部屋に行くまでにかかる期間について入力していきます。それぞれ、施設に入ってきた理由ごとに具体的な数値を「#」の部分に入力していきます。海外では人を噛んだ猫などは数日間、検疫として保護しなくてはならないという規則があるため、そういった設定なども存在しています。
そして、「Hold time(滞在日数)」の部分に理想となる滞在日数を設定していきます。この理想となる滞在日数については、それぞれの保護猫施設により異なるため、一概には設定することが難しいですが、去勢・避妊手術をするために必要な日数や施設に落ち着かせるための日数、猫の性格などを評価する日数などを考慮して慎重に決定する必要があります。ちなみに、C4Cでは健康であり、すぐにでも譲渡できるような猫に関しては譲渡されるまでの期間を7~21日にすることが望ましいとしており、さらにそのうち、3~10日は譲渡部屋に滞在するための日数であるとしています。参考にしてみてください。
一番右の「Weighted Average」はパーセンテージと「Hold time」をかけたものであり、重み付けを行った平均的な滞在日数を各項目ごとに算出しており、これらを足し合わせることで、平均的な譲渡部屋に行くまでの日数(緑色のセル)が算出されます。
同様のことをその下にある『仔猫』の部分でも行っていきます。
譲渡部屋にいる日数
次に設定するのが譲渡部屋に移行してから譲渡部屋に滞在する日数になります。真ん中にある「Fast/Slow track average weighter」について入力していきますが、上が成猫用、下が仔猫用になっています。
譲渡部屋において、素早く譲渡される猫と譲渡までに時間がかかる猫がいると思います。ここでは、素早く譲渡される猫を「Fast track」とし、一方で、譲渡に時間がかかる猫のことを「Slow track」としてます。「Fast track」の黄色いセルにどれぐらいの割合の猫が素早く譲渡されるのかを入力すると、自動的に「Slow track」の方も算出されます。そして、その横にある「Hold time」の黄色セルの部分に理想とする滞在日数を入力していきます。これについても、過去のデータなどを参考にしても良いと思います。
結果的に、右下の部分に譲渡部屋にいる平均的な日数が算出されます。算出の原理については譲渡部屋に行くまでの日数のところで述べた「weighted average」と同様です。横にある「Daily Population Predictor」は毎日、譲渡部屋にいる「Fast track」と「Slow track」の猫の割合を示しています。
それでは、最後の仕上げです。もう一度最初のExcelシートを選択し、元のシートに戻ってください。
その他の変数の設定
最後にシートの左下の部分に「Parameters(パラメーター)」の表があります。ここでは細かな変数の設定を行っていきます。
LOS in pre-adoption/hold
「LOS in pre-adoption/hold」には成猫と仔猫の譲渡部屋に入るまでにかかる日数を入れていきます。つまり、2枚目のシートで算出した譲渡部屋に行くまでの日数の表の「緑色のセル」の部分の数値を入力していくことになります。四捨五入して入力する方が良いでしょう。
LOS in adoption
「LOS in adoption」には成猫と仔猫が譲渡部屋で過ごす日数を入れていきます。こちらも、2枚目のシートで算出した譲渡部屋にいる平均日数(全体)を四捨五入して入力していきます。
# of cats/housing unit pre-adoption
「# of cats/housing unit pre-adoption」には譲渡部屋以外の部屋において、1ケージあたりに飼養されている猫の数を、成猫と仔猫に分けて入力していきます。
# of cats/housing unit adoption
同様に、「# of cats/housing unit adoption」には譲渡部屋において、1ケージあたりに飼養されている猫の数を、成猫と仔猫に分けて入力していきます。最初の設定で、成猫の部分が「Assume 1(おそらく1)」となっているのは、多くの譲渡施設では譲渡部屋においては1匹で飼養されることが多く、それが望ましいということを反映しています。
Minutes of time for daily care per animal
1匹の猫のケアを行うのに、どれぐらいの時間を費やすのかを入力していきます。単位は「分」です。最後の「On-site adoption rate」は施設内で実際に譲渡される猫の数を示しており、これは自動で計算されます。
理想の保護猫数とケージ数を読み取る
変数を入力し終わると、右の部分にある「Capacity recommendations based on expected parameters」の表をみてください。その月において、理想とする保護猫の数とケージの数の結果がここに算出されてることと思います。
譲渡部屋に移動する前の理想の数値
特に重要なのが濃い緑色のセルになります。まず、最も上の濃い緑の部分には譲渡部屋に移動する前における理想の数値がずらっと並んでいます。左側の3つの数値は理想の保護猫の数について、左より成猫、仔猫、総数(成猫と仔猫を足し合わせたもの)の順で示されています。そして、右側の3つの数値は理想のケージ数について、左側より成猫、仔猫、総数の順で示されています。
なお、濃い緑色のセルの上にある「On-site adoption track holding」は譲渡施設において譲渡予定の猫を施設内において飼養するための理想の数値が並んでおり、「Other outcome holding」にはそれ以外の猫を飼養するための理想の数値が並んでいます。繰り返しますが、両方とも譲渡部屋に移動する前の理想値になります。
黄色のセルが2つありますが、ここには実際に現在入っている成猫や仔猫の数を入力することができます。そうすることで、理想の値と実際の値を差し引きして、赤色のセルの部分に過不足を示してくれます。理想の値よりも施設にいる猫の数やケージの数が多い場合にはプラスの値で示され、少ない場合にはマイナスの値で示されます。
譲渡部屋における理想の数値
真ん中にある濃い緑のセル「Adoption on site C4C」は譲渡部屋における理想の保護猫数やケージ数が算出されています。先ほどと同じく、左側の3つの数値は理想の保護猫の数について、左より成猫、仔猫、総数の順で示されています。また、右側の3つの数値は理想のケージ数について、左側より成猫、仔猫、総数の順で示されています。
黄色のセルと赤色のセルについても先ほどと同様の意味を持ちます。
トータルの理想の数値
最後の濃い緑のセルの部分「Total moving towards outcome C4C」は譲渡部屋に移動する前の理想の数値と譲渡部屋における理想の数値を足し合わせたものです。その下にある「Total moving towards outcome inventory」は先ほど入力した黄色のセルの値をもとに、現在の施設における収容数とケージ数の合計について示してくれています(譲渡部屋に入る前と入った後の数値が合算されています)。
1日に必要とする時間
一番右下の部分には「Total needed for daily care」という表があります。この表では1日に施設内で保護猫をケアするのにかかる時間について示しており、「Actual」の部分には現状について示されており、「If at C4C」の部分には理想の数値を厳守した時にかかる時間が示されています。ここでの単位は分ではなく「時」になります。
まとめ
Magic Number Calculatorを使用すると保護猫施設における適切な保護猫の数やケージ数が簡単にわかります。また、1日に保護猫をケアするのに必要とする時間などが可視化できる部分も利点であり、この数値を参考にボランティアの人数を決めることもできます。
毎月、このMagic Number Calculatorを使用して、算出する必要がありますが、ここまで簡単だとそこまで苦痛ではないと思いますし、施設として施設に入ってくる保護猫の数や譲渡数などのデータを保管する上でも良いことだと思います。過去のデータがない施設においては少し、数値を設定するのに苦労するかもしれませんが、1匹の猫が必要とするスペースが「1.67m2(グループで収容する場合)もしくは0.81m2(1匹で収容する場合)以上」とされていることを参考に具体的な数値を算出していくことも可能です。滞在日数に関しては他の保護猫施設の人の意見などを参考にしてみても良いと思います。
やみくもに多くの猫を保護するのではなく、適切な猫の数を保護することで、猫のQOLや譲渡率が向上するということを忘れないでおきましょう。
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