保護猫施設において保護した猫の社会化の有無を見分けることは健康状態を把握するのと同じぐらい重要であり、その結果に応じて対応が異なります。もし、十分な社会化がなされている捨て猫や野良猫であれば、すぐにでも譲渡が可能ですが、あまり社会化がなされていない野良猫の場合には人間や家庭の環境に慣れてもらう必要があるため、時間をかけて譲渡などを検討していかなければなりません。一方、社会化がほとんどなされていない野良猫やノネコの場合には譲渡を行わずに、去勢・避妊手術を行いリターンを行うという選択を取らなければなりません。
では、保護した猫の社会化の有無をどのように見分ければ良いのでしょうか?この記事では社会化の有無を見極める3つの方法について紹介していきます。
Ally Cat Alliesによる見分け方
まず、最初に紹介するのは1990年に設立され、アメリカのメリーランド州に拠点を置く保護猫団体Ally Cat Alliesが提唱している見分け方であり、このような感じになります。
社会化の有無 | 有 | 無 |
触ることができるか | 落ち着いた状態であれば、触ることが可能 | 基本的には触ることができない |
ケージ内での行動 | ケージの扉付近によくやってくる。ケージに体をこすりつけるような仕草を見せる | ケージの奥にいることが多く、できるだけ扉から遠ざかるようにしている |
リラックスの度合い | 時間が経過するとともにリラックスする時間が長くなる | ほとんどの時間、緊張が高く、リラックスした様子はない |
反応性 | ケージの近くに置かれたおもちゃや食べ物に興味を示す | 人やおもちゃ、食べ物を無視する。生活音に対して興味を示さない |
恐怖や反応 | うずくまって静かに唸るような鳴き声を出して、恐怖や不安を示す | 恐怖や不安を感じると怒り、多くは耳が後ろを向き、目が見開き、立ち上がる。 |
この方法の欠点は、明確な基準がなく、上記の行動のうちどの行動がいくつ観察されれば、社会化がなされていると判断すれば良いのかがわからない点にあります。全体的にボヤッとしている感じを受けるとおもいます。
ASPCAによる見分け方
一方、アメリカ動物虐待防止協会;ASPCAによる見分け方はより具体的です。この方法はASPCAが2013年に発表した研究1)をベースとしており、現在のところはこの方法が最も信頼性が高いと言えます。ASPCAの方法では、保護猫施設に猫が入ってきから、以下の6つの課題を3日間行い、猫に特定の行動が観察されるかを見極めていきます。
挨拶課題
ケージの30cm手前で猫の方に向いて立ち、手掌を上に向けた状態で、猫に優しい声で15秒話しかけます。その後、ケージ内の様子を観察し(トイレの状態やケージの散らかり具合、餌や水の量など)、終了します。
ケージ開閉課題
ケージの30cm手前で立ち、手をケージの扉部分に置き、30秒間その状態を維持します。その後、ケージの扉を3秒間開け(2cm程度)、すぐに閉じ、終了します。
新奇課題
サングラス、綺麗な猫砂用スコップ、赤いプラスチックコップのうちどれか1つをケージの前にぶら下げます。評価者はケージの60cm手前かつケージに向かって45度の地点に立ち、猫の方を向いたり、猫と視線を合わせないようにします。30秒間猫の様子を観察し、終了します。
遊び課題
ケージの30cm手前に立ち、猫の方を向いたり、猫と視線を合わせたりしないようにします。ケージの扉は閉めた状態で、紐がついた棒をケージ内に入れ、30秒間猫と遊ぶようにします。
棒の課題
30cm手前に立ち、猫の方を向いた状態で、ゆっくりと全長1mほどの棒をケージの中に入れます。棒の先には先が尖ったゴムを装着させておき、その先の部分を猫の顔2.5cm手前まで持って行き、5秒間その場所で維持し、猫にニオイを嗅がせます。その後、棒の先で猫の頬や首の部分を10秒間撫で、再び猫の顔2.5cm手前まで持って行き、5秒間保持します。再び、10秒間撫でます。もし、猫が撫でられるのを嫌がったとしても、必ず1度は10秒間撫でる必要があります。最後に、棒の先を猫の肩の部分を10秒間押し続けて終了となります。もし押されるのが嫌がるようであればすぐに終了するようにしてください。
食事の課題
この評価は2日目より行い、評価をする4時間前より絶食状態にしておく必要があります。ケージの中にドライキャットフード、ウェットキャットフード、セミウェットのおやつを静かに入れ、猫の様子を最大10分間観察します。この間、ケージの1m手前に立ち、猫の方を向いたり、視線を合わせたりしないようにします。
観察すべき行動
上記の6つの課題を行った際に、次のような行動が1つでも観察された場合には、高い確率で社会化が行われた可能性があると考えていきます。
- ニャッと短く鳴く(ニャーではない)
- 体をこすりつける
- フミフミする
- 課題に用いた物などに触れてくる
- 遊ぶ
- いつでもケージの前方部分にいる
また、次のような行動が4つ以上観察された場合にも、その猫が高い確率で社会化を経ている可能性があるとしています。
- ニオイを嗅ぐ
- 転がる
- 手を伸ばす
- ケージの前方部分に出てくる(わずかでも良い)
- あくびをする
- グルーミングをする
- 立ち上がっている
- 動いている
- 課題が終わるまでずっと動いている
上記の行動は猫が保護施設に来てからの時間が経つに連れて観察されることが多くなるため、最低でも3日間は上記の課題を行う必要があり、24時間で判断することは避けなければなりません。たとえ、十分な社会化が行なわれている猫であっても、保護施設などに来てからの1~2日間は見知らぬ環境に圧倒されるために、恐怖や不安行動を表出してしまいます。できるだけ早く判断をしたいのはわかりますが、焦らずにじっくりと観察するようにしてください。
簡易的な見分け方
最後に紹介するのは2017年の研究で用いられた方法であり、より簡易的に見分ける方法になります2)。以下の8つの行動の有無を評価していきます。
- 人間に近づき、人間からの注意を引いたり、遊ぶことや撫でることを人間に促すことがある。
- 人間がいる日中に餌を食べる。
- 人間の手から餌を食べる。
- 人間がいる状況で喉をゴロゴロ鳴らす。
- 人間がいる状況でフミフミする。
- 人間に対して瞬きをしたり、唇を舐める行動をとる
- 人間に対して威嚇の鳴き声を発しない。
- 人間がいる日中にもトイレを使用する。
8点満点から減点していく方式で評価がされます。そのため、「はい」の個数が多いほど、0に近くなり、0が最も社会化がなされていることを示します。1〜2がほぼ社会化がなされていることを示し、3〜4がニュートラル、5〜6が社会化がほとんどされていない、7〜8は完璧に社会化がなされていないということを示しています。あくまでも簡易的な見分け方であり、最終評価の基準などが少し理解できない部分もあります。また、この方法の精度については科学的に証明されていないため、参考程度に留めておく方が良いのかもしれません。
まとめ
社会化の有無を見分ける方法について3つ紹介してきましたが、ASPCAが提唱する見分け方が最も精度が高く、科学的にも証明されています。そのため、手間がかかるかもしれませんが、保護猫施設などにおいてはASPCAの方法を採用することが望ましいと思われます。保護猫施設を運営している方は参考にしてみてください。
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参考文献
1) Slater M, Garrison L, Miller K, Weiss E, Makolinski K, Drain N, Mirontshuk A. Practical Physical and Behavioral Measures to Assess the Socialization Spectrum of Cats in a Shelter-Like Setting during a Three Day Period. Animals (2013). 3(4):1162-93. doi: 10.3390/ani3041162.
2) Owens JL, Olsen M, Fontaine A, Kloth C, Kershenbaum A, Waller S. Visual classification of feral cat Felis silvestris catus vocalizations. Current Zoology(2017), 1–9 doi: 10.1093/cz/zox013.
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