先日、当サイトの編集者の一人が猫用首輪の販売を開始したのですが、全く売れないと嘆いていました。そして、彼が複数のクライアントに猫の首輪を勧めたところ、「猫に首輪をする意味がわからない!うちの子は完全室内飼いだから必要ない!」と一蹴されたそうです。
私は正直その話を聞いて、「やっぱりな。」と思いました。なぜなら、猫の首輪の重要性を知っている人は意外と少ないため、いくらその編集者の方が「機能的に優れたおしゃれな首輪」を販売したところで、買ってくれる人は少ないからです。ちなみに下のものが問題の首輪です。笑
それと同時に、猫の首輪の重要性というものをほとんどの方が認識していないということについて、少し危機感も抱きました。そのため、この記事では完全室内飼いの猫に首輪をつける重要性について考え、一人でも多くの方が猫の首輪に興味を持っていただけたらと思います。
家までの切符
シンプルな理由ですが、飼い猫が脱走した時などに飼い主の元に猫が帰ってくる確率を上げてくれるのが首輪になります。野良猫が保護された時に、IDがつけてある首輪であればすぐに飼い主の元へと連絡が行きますし、連絡先が首輪に記載されていなかったとしても、マイクロチップの確認などもスムーズに行われます。人様に迷惑をかけるのですから、少しはその人たちの時間を節約するためにも重要になります。
猫の確認作業完全室内飼いで猫を飼っている人は、「まず脱走とかしないから」と考えていると思います。おそらく、猫が外に行かなように完璧な対策を行っており、いかなる場合であっても完全室内飼いの猫は家の外に出ることはないという自信があるのだと思います。
2007年にオハイオ大学で行われた電話調査によると、アメリカ・オハイオ州モントゴメリー地域において迷子になった138匹の猫のうち、41%の猫が完全室内飼いの猫であったということを報告しています (Lord et al., 2007)。さらに、その138匹の中で首輪などのIDタグをつけていたのは19%の猫だけだったとしています。その19%の中には首輪だけでなくマイクロチップなども含まれているため、首輪を実際につけている方はかなり少ないと考えられます。
当然ですが、この研究結果が世界中のあらゆる地域に当てはまるわけではありません。しかし、この研究結果をみると、少なくとも完全室内飼いの猫が脱走しないという自信は揺らいでくるのではないでしょうか?
では、どのような状況で猫が脱走するのでしょうか? 少し考えてみました。
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脱走の仕方
外の世界を知っている猫
外の世界で育ち、外の世界を知っている猫は隙あらば、外に出ようとします。これは、屋外の環境の方が刺激的であることを知っているということや、屋内で暮らしている時に見つけた他の野良猫などから縄張りを維持したいという理由からだと推測されます。また、去勢・避妊手術をされていない猫の場合は異性の猫を探しに行くために外に出ようとすることもあります。
好奇心が強すぎる猫
好奇心が強い猫の場合は気になるところ常に探索しようとします。そのため、ちょっとした隙間などが開いていたりすると、その隙間から外に出て行きます。
動物病院に行く時
動物病院に行くのを嫌がる猫は多いです。そのため、動物病院に行く道中や動物病院の待合室などで、外に逃げることもありえます。
空き巣
空き巣被害にあった時に猫が外に脱走してしまったというのを掲示板で読んだことがあります。
自然災害
日本では比較的多いのが自然災害です。台風、土砂災害、地震、噴火など様々な自然災害が日本にはあります。中でも地震や台風に関しては定期的に大きな被害をもたらす自然災害になります。それらの自然災害が発生した際に猫が外に出る確率はかなり高くなります。
また、災害時の避難所においても脱走する危険性が高くなります。
首輪をつけない理由
2012年の研究では猫の飼い主65人のうち約80%の方が少なくとも猫の首輪などIDタグの重要性を理解しているとしていますが、その65人のうち常に猫の首輪を装着しているのはたった20%の人でした(Slater et al., 2012)。
猫に首輪などのIDを装着していない理由として最も多かったのは前述したように「室内飼いだから」という理由であり、その次に多かったのが「首輪は猫にとって不快だと思うから」という理由でした。では、本当に猫は首輪のことを不快と考えているのでしょうか?
猫は首輪が嫌い?
2010年に行われた研究によると、研究に参加した538匹の猫のうち約70%のもの猫が手渡された首輪を6カ月装着することができたということを報告しています。そして、538匹のうち約5%の猫のみに、首輪を引っ掻いたりという首輪を嫌がる行動が観察されたとしています(Lord et al., 2010)。
もちろん、猫はポーカーフェイスであるため、この研究結果だけでは首輪を不快に思っていないと結論づけることはできません。しかし、研究に参加した猫の飼い主のうち約58%の飼い主が「思っていたよりも猫が首輪に対して嫌がらなかった」と回答しています。さらに、この研究終了後には、約90%の方が引き続き猫に首輪を装着したいと回答しています。
そのため、多くの飼い主の観察によるとそこまで猫が首輪を嫌がるということはないのかもしれません。
飼い主の中には首輪にものが引っかかった時に危険だと指摘する方もいますが、最近の首輪は外れやすいように出来ていますし、首輪による事故よりも猫が脱走する確率の方が圧倒的に高いと言われています。
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猫の首輪の代わりにマイクロチップは?
完全室内飼いの猫に首輪をつけない飼い主の中には「マイクロチップを装着しているから大丈夫」という方がいます。しかし、先ほど紹介した研究によると、0.2%の確率でマイクロチップが壊れている可能性があるとのことです(Lord et al., 2010)。
また、シェルターなどの保護施設において猫のマイクロチップをスキャンする確率は63.5%だったとも報告されており、マイクロチップのみに頼るのは危険である可能性があります。
ただし、アメリカと日本では環境が異なるため、上記の確率がそのまま日本でも当てはまるわけではありません。
まとめ
完全室内飼いの猫だからといって、猫に首輪をつけないで良いと思うのは軽率です。明らかに、猫に首輪をつけることよりも、猫に首輪をつけないことの方がデメリットが大きくなるということを理解していただけたでしょうか?
もし、納得いかない場合はそれでも良いと思います。人間は身をもって体験する方が学習すると思いますし、猫が迷子になってから猫の首輪の重要性を学習したら良いと思います。愛猫と再会できるかについては保証できませんが…
私としては、動物病院においても獣医師の先生方が首輪の重要性について、飼い主の方に説明してほしいと思います。
参考文献
Lord, L.K., Wittum, T.E., Ferketich, A.K., Funk, J.A., Rajala-Schultz, P.J. (2007) Search and identification methods that owners use to find a lost cat. J Am Vet Med Assoc,230, 217– 220. doi: 10.2460/javma.230.2.217
Slater, M.R., Weiss, E., & Lord, L.K. (2012) Current use of and attitudes towards identification on cats and dogs in veterinary clinics in Oklahoma City. Animal Welfare, 21: 51– 57. ISSN 0962-7286
Lord, L.K., Griffin, B., Slater, M.R., Levy, J.K. (2010) Evaluation of collars and microchips for visual and permanent identification of pet cats. J Am Vet Med Assoc, 237, 387– 394. doi: 10.2460/javma.237.4.387.
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