毎年、2月の最終火曜日は「世界不妊手術の日」であり、不妊手術をする重要性を訴える日でもあります。ちなみに、2017年は2月28日がその日でした。
2017年の「世界不妊手術の日」は終わってしまいましたが、少し飼い猫に不妊手術をする必要性について考えてみたいと思います。
不妊手術
不妊手術とはオス猫の場合は去勢手術のことを指し、メス猫の場合は避妊手術のことを指します。
環境省によると平成23年の時点で飼い猫に対してそれらの不妊手術をしていない飼い主の方が少なくとも約20%はいるということが報告されています。また、その理由の多くは「手術をする必要がないと考えるから」というものでした。
去勢手術
オス猫の場合は精巣を取りのぞくことで去勢手術が完了します。では、去勢手術をすることでどのような恩恵を受けることができるのでしょうか?
行動圏が小さくなる
去勢手術をしていないオス猫の場合、行動圏の範囲が極めて広くなります。行動圏とは縄張りを含めた猫がウロウロする全体の範囲のことです。この行動圏が去勢手術をされた猫では小さくなります。そのため、猫が自由に外に行くことのできる環境では、去勢手術をすることで事故に遭う危険性などが低くなります。
完全室内飼いだから関係ないと思うかもしれませんが、去勢手術をしていないオス猫では常に脱走するリスクがあります。なぜなら、オス猫の行動圏はメス猫が発情期を迎える時期などにおいて広くなることも知られており、この時期においてはオス猫はメス猫を探して脱走しようとするからです。
攻撃性の低下と感染症対策
去勢手術をされていないオス猫は他のオス猫とメス猫や縄張りをめぐって喧嘩をすることが多くなり、傷口などから感染が起こりFIV(猫免疫不全ウイルス感染症)やFeLV(猫白血病ウイルス感染症)などの感染症にかかるリスクが高くなります(International Cat Care)。一方、去勢手術を行うと喧嘩をする頻度が低くなるため、感染症に対するリスクが低くなります。
また、多頭飼いの環境下においても猫同士の喧嘩が起こる確率が少なくなるため、多頭飼いにおけるストレスを緩和することができます。
スプレー行動が少なくなる
スプレー行動は室内でも屋外でも観察されます。しかし、去勢手術を行ったオス猫ではスプレー行動を行う確率が低くなります。ただし、スプレー行動が完全になくなるわけではありませんので勘違いはしてはいけません。
スプレー行動などの猫の排泄物に関する問題行動は飼い主が猫を捨ててしまう理由の一つです。そのため、これ以上捨て猫を増やさないためにも去勢手術を行うことは重要です。今はスプレー行動をしていなくても環境が変わることで出現することもあります。
また、屋外に出られる環境にあるオス猫の場合は、近所の家の敷地内などにスプレー行動を行い、ご近所トラブルの元にもなります。
疾病の予防
オス猫に去勢手術を行うことで潜在精巣などの一部の病気を予防することができます。潜在精巣とは停留精巣とも呼ばれ、本来であれば陰嚢と呼ばれる場所にある精巣が腹腔などの違うところに位置してしまう病気です。比較的稀な疾病になります。
避妊手術
メス猫の場合は卵巣を取りのぞくことで避妊手術が完了します。その際、子宮も一緒に取りのぞくかどうかを選択することになります。避妊手術による受けられる恩恵は次のようです。
オス猫を呼ばなくなる
避妊手術をすることにより発情期がこなくなるため、オス猫を呼ばなくなります。
発情期におけるメス猫の声はうるさく近所迷惑になることがほとんどです。また、メス猫を求めて多くのオス猫がやってくるため、家の周りでオス猫によるスプレー行動などが多くなります。そういったことも避妊手術により防ぐことができます。
スプレー行動が少なくなる
オス猫だけでなくメス猫もスプレー行動を行います。メス猫の場合、スプレー行動を行うことでオス猫に自身が発情期にあることを知らせ、オス猫を惹きつけようとします。避妊手術をすることでそういった行為は減少します。しかし、完全になくなるわけではありません。
野生動物保護
避妊手術をせずに子猫を産んだメス猫は、子猫を養うためにより活発に狩りを行います。そのため、いつもより多くの野生動物が捕食されてしまいます。避妊手術を行うことは野生動物にも優しいということになります。
攻撃性の低下
妊娠中や子育て中のメス猫は子猫を守るために神経質になるため、オス猫や人間に対して攻撃的になることが知られています(Beaver, 1987)。そういった行動は飼い主を悩ませることもあるため、避妊手術を行うことが重要です。
また、妊娠中でなくとも多頭飼いの環境において避妊手術を行ったメス猫では他の猫に対して攻撃性が低くなることが示されています(Finkler & Terkel, 2010)。
疾病の予防
メス猫に避妊手術を行うことにより、子宮蓄膿症や子宮内膜炎、乳がん、卵巣がんなどを予防することができます。ちなみに卵巣を切除する場合に子宮を残していると子宮蓄膿症や子宮内膜炎は起こることがあります。
去勢・避妊手術に共通したメリット
去勢・避妊手術に共通したメリットは殺処分の数が減少することです。猫の繁殖力は強く、交尾を行うとほぼ100%妊娠し、3~6匹ほどの子猫を生みます。そのため、飼い主が意図せずに爆発的に飼い猫の数が増えたり、飼い主の知らないところで野良猫やノネコがどんどん増えていきます。そうなると、保健所などに預けられる猫の数が増え、殺処分される猫が増えることにつながっていきます。望まれない子猫を増やさないためにも不妊手術は重要です。
また、日本は災害が多い国でもあるため、災害時に猫が逸走してしまい、妊娠してしまうこともあります。そのため、完全室内飼いだから大丈夫という考えは持たない方が良いです。
不妊手術を行うタイミング
2004年の研究(Spain et al)では生後5.5ヶ月以前に去勢手術を行ったオス猫では獣医師による攻撃性やスプレー行動が減少したことが報告されています。また、International Cat Careによると、生後6か月になると初めての発情期を迎える猫もいるため性成熟を迎える生後4か月に不妊手術を行うのがベストだとしています。
不妊手術のデメリット
肥満
よく様々なサイトで不妊手術を行うと猫が太りやすくなるということが載っています。それは事実ですが、適切な量の食事を与えていれば全くもって肥満の心配はありません。もし、心配になるようであれば、獣医師に相談し摂取カロリーの相談や特定のキャットフードを紹介してもらうと良いでしょう。
猫下部尿路疾患FLUTD
肥満と同様に、不妊手術を行った猫では猫下部尿路疾患と呼ばれる病気になりやすくなることが報告されています(McKenzie, 2010)。ちなみに、生後間もなく不妊手術を行う事で猫下部尿路疾患になりやすくなるかについては議論がなされており、一定の見解は得られていません。しかしながら、不妊手術を行った猫では猫下部尿路疾患が起こりやすくなるということはきちんと報告されています(McKenzie, 2010)。
この猫下部尿路疾患についても普段の食生活や環境に気をつけることで発症するリスクを低くすることができますので、不妊手術をしたから必ず発症するという認識は間違いでしょう。
完全室内飼いだから大丈夫という誤認
よく完全室内飼いだから、去勢・避妊手術をしなくても大丈夫という認識を持っている人がいます。しかし、不妊手術をすることでスプレー行動や攻撃性を低くすることができます。スプレー行動や攻撃性が現在認められなくとも、今後出現する可能性はあります。そうなった時に飼い猫を手放さない自信はありますか?
また、先ほども述べたように日本は災害大国です。そのため、いつ何時非常事態が起き、猫が逸走するということが起きてもおかしくないはずです。常に最悪の事態を予想してその対策をとることが、飼い猫、ひいては飼い主のためになるということを忘れないでください。
まとめ
いかがでしたでしょうか? 飼い猫に去勢・避妊手術を行う重要性が少しは理解して頂けたでしょうか? 少しでも多くの猫の飼い主がこう言った正しい知識を身につけ、不妊手術の大切さを様々な人に発信してもらえると幸いです。
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参考文献
Beaver BV. Female feline sexual behavior. Feline behavior: a guide for veterinarians. Elsevier Science; 2003, pp.164-181.
Finkler H, Terkel J. Cortisol levels and aggression in neutered and intact free-roaming female cats living in urban social groups. Physiol Behav. 2010. (3):343-7. doi: 10.1016/j.physbeh.2009.11.014.
Spain CV, Scarlett JM, Houpt KA. Long-term risks and benefits of early-age gonadectomy in cats. J Am Vet Med Assoc. 2004, 224(3):372-9.
McKenzie B. Evaluating the benefits and risks of neutering dogs and cats. CAB Reviews: Perspectives in Agriculture, Veterinary Science, Nutrition and Natural Resources 2010, 5(045), 1-18.
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