人間と同じように猫も大きな口を開けてあくびをします。一昔前までは、二酸化炭素が脳内に蓄積すると酸素を取り込むためにあくびをすると言われていました。しかし、現在ではその考え方はほぼ完全に否定されています。
では、猫があくびをすることにはどのような意味があるのでしょうか? なお、猫に関するあくびの研究についてはほぼ行われていないため、この記事では哺乳類に基づく研究をもとに考えています。
この記事でわかること
- あくびは酸素を供給するために行うものではなく、脳の温度調節を行うためという仮説が有力
- あくびをすることで警戒心を維持しようとしている
- 猫にあくびが移るかどうかは定かではない
- 猫はストレスを感じた時にも転移行動としてあくびをする
一昔前の仮説
おそらく、誰もが思いつくあくびの機能は脳に酸素を供給することではないでしょうか?
眠たくなったり、退屈した時などに脳の血流が少なくなることによって、脳内に二酸化炭素がたまり、その二酸化炭素を排出し、酸素を取り込むためにあくびを行うという考え方ですよね。
しかし、あくびをしたからといって脳内の酸素量が増えるということはないということが分かっており、この仮説は正しくないようです(America Scientist)。
有力な仮説
いくつものあくびの仮説がある中で最も有力なものとして、温度調節に関する仮説があります。
これは2007年にGalloup博士らによって提唱された仮説になります(Gallup, 2007)。この仮説によると、あくびにより脳内に入る血液の量が変化し、その血液が脳を冷やしてくれるというものになります。
脳は臓器の中でも比較的多くのエネルギーを消費するため、血流が豊富になっています。そのため、退屈や眠気を感じている時など脳がボーっとしている時にはその血流が脳に滞留し、脳が熱を帯びている状況になります。つまり、脳がオーバーヒート気味になっているということです。
あくびは頭や首、顔あたりの血液量、心拍数などを増加させることが知られています(Zajonc, 1985., Heusner, 1946.)。そのため、あくびは頭の中に入ってくる冷たい血流を増やし、オーバーヒート状態の脳を冷やしていると考えられているのです。
この、温度調節の仮説を裏付けるものとして、深い鼻呼吸があります。あくびをしそうになった時に深い鼻呼吸をするとあくびがおさまったという経験がありますよね? 実は深い鼻呼吸は頭の血流を増加させ脳の温度を低下させるということも知られており、そのためにあくびが収まるのではないかと言われているのです(Mariak et al., 1999)。つまり、あくびをしなくても脳の温度を低下できるためにあくびをしなくなるということです。
警戒
では、なぜ猫はうとうとしている時などによくあくびをするのでしょうか?
猫も他の動物と同じように、眠くなると脳内の血流が多くなり、脳の温度が高くまります。そのような状況では、脳が余計にボーっとしてしまうため、刺激に対する反応が遅くなってしまいます。
言い換えると、もし猫が天敵に襲われそうになった際や目の前に獲物や他の猫が横切った際に、脳がオーバーヒートしてボーっとしていると、すぐさま反応できなくなるというわけです。そのため、あくびをすることによって脳の温度を低下させ、刺激に対する反応性を維持しようとするわけです。
猫のあくびは移る?
猫のあくびが人間に移ったり、逆に人間のあくびが猫に移ったりすることはあるのでしょうか? これに関しては全くもって科学的な研究がなされていないのが現状です。
しかし、犬においては人間のあくびが犬に移ることが科学的に証明されており(Shepherd, 2008)、もしかすると猫においてもそのようなことがあるのかもしれません。個人的な経験談では、私があくびをすると飼い猫があくびをすることが結構あるので、猫においてもあくびが移ることがあるのではないかと思っています。
霊長類であるヒヒを用いた研究では親密な者どうしにおいて高確率であくびが移ることが知られています(Palagi, 2009)。また、人間のあくびが移る犬は人間の気持ちを読み取ることに長けていることから、相手との関係性が強い場合にあくびが移るのではないかと考えられています。
この事はあくびが移るのは相手の気持ちに対して共感しているため、もしくはその社会的集団全体において共通の警戒心を維持するためだと考えられています。もし、猫同士であくびが移る場合には後者のお互いの警戒心を強めるという考え方の方が近いのかもしれません。
ストレス
ただし、猫は完全に覚醒している時でさえあくびをする時があります。これは通常のあくびとは違う意味合いがあります。
猫が覚醒している時や行動している時に見せるあくびは一種の転位行動になります。転位行動とは、動物が何らかの葛藤状況に置かれた時に誘発される、全く別の関係のない行動のことを言います。
原因については科学的に解明されていませんが、葛藤状況に置かれているということを考慮すると、ストレスが関連していること予測されます。例えば、おもちゃで遊んでいる時に、おもちゃを捕まえるのに失敗した直後に舌で鼻をペロッとしたり、被毛をグルーミングしたりする行動が転位行動になります。
あくびも転位行動の一種になりえるため、覚醒時にあくびしている際には少しストレスがかかっていると考えた方が良いかもしれません。私の体験ではカメラを猫に近づけて写真を撮っている時などに転位行動のあくびが観察されることがありました。そういった行動が見られたら、すぐにストレスとなるものを取り除いた方が良いかもしれません。
まとめ
猫があくびをするのは脳を冷やし、警戒心を強めるためというのが最も有力な仮説なのかもしません。ただし、転位行動によるあくびも観察されるため、どちらの意味があるのかをしっかりと見極める必要があるようです。
猫に関するあくびの研究は少ないため、今後さらなる研究が行われることを期待したいです。
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参考文献
Zajonc, R.B. (1985). Emotion and Facial Efference: A Theory Reclaimed. Science, 288, 15-21.
Heusner, A.P. (1946). Yawning and associated phenomena. Physiological Review, 25, 156- 168.
Mariak, Z., White, M.D., Lewko, J., Lyson, T., and Piekarski, P. (1999). Direct cooling of the human brain by heat loss from the upper respiratory tract. Journal of Applied Physiology, 87, 1609-1613
Shepherd, A J., Senju A., Joly-Mascheroni, R.M. (2008). Dogs catch human yawns. Biology Letters. 4 (5): 446–8. doi:10.1098/rsbl.2008.0333.
Palagi E, Leone A, Mancini G, Ferrari P. F. (2009). Contagious yawning in gelada baboons as a possible expression of empathy. Proceedings of the National Academy of Sciences. 106 (46): 19262–19267. doi:10.1073/pnas.0910891106.
Gallup A C, Gallup G G.(2007), Yawning as a Brain Cooling Mechanism: Nasal Breathing and Forehead Cooling Diminish the Incidence of Contagious Yawning, Evolutionary Psychology (5) 1, 10.1177/147470490700500109.
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