猫の中には餌に砂かけを行うようなものがいます。多くのサイトでは猫がキャットフードに不満があるために砂をかけるという理由が述べられていますが、大好きなキャットフードを完食した後にもこの行動が観察されることから、そのようなことは考えにくいとされています(Dr.Debra)1)2)。しかし、猫が餌に砂かけを行う理由については未だに分かっておらず推測の域を出ません。この記事では、現在考えられている仮説について紹介していきます。
天敵やその他の猫を寄せ付けないため
最も多くの人が支持しているのが、餌を隠すことで天敵やその他の猫を寄せ付けないようにしているという仮説です1),2)。餌を放置したままにすると、猫を捕食するコヨーテやノイヌ、フクロウなどの動物を引き寄せ、自分の身に危険が及びます(猫を捕食する動物についてはこちらの記事を参照してください)。また、捕食動物に加え、他の猫も引き寄せられるため、不必要な喧嘩や縄張り争いが起こる可能性が高まります。つまり、天敵や他の猫からの危険を回避し、自身の縄張りの安全性を維持するために餌を隠しているというわけです。
便と同じニオイがするから
猫は縄張りの核となる領域で便をした際には、便を隠すために砂をかけます。それと同じことが餌にも適応されるのではないかという仮説もあります。猫の腸は比較的短いために食べたものを完全に消化しきれず、便の中には餌の残骸のようなものが残っています。もちろん、便の外観などからは餌の残骸を認識することはできません。しかし、猫の嗅覚はどうでしょうか?つまり、猫は餌のニオイと便の中に含まれている餌のニオイの共通点に気づいており、便と同じようなニオイのする餌をあたかも便のように扱ってしまうということです3)。

私の愛猫はキャットフードを完食した後に、胃大腸反射によりすぐに便を行います。そして、その直後にフードボウルを横切った時には、必ずフードボウルに砂かけの行動を行います。もしかすると、愛猫は直前に嗅いだ便と同じニオイをする餌を隠すために砂かけを行っているのかもしれません。
後で餌を食べるためは間違い?
意外と多くの記事で記載されている仮説に、後で餌を食べるために餌を隠すというものです。この仮説はボブキャットやヒョウなどが大きな獲物を仕留めた時に食べきれなかった分を枝や葉っぱなどで隠し、その場所に再び現れては食事を行うという行動を参考にしているものと思われます(Petcha)。ボブキャットやヒョウなどはこの行動により、その他の動物に餌を食べられないように餌を貯蔵しています。

しかし、ボブキャットやヒョウは系統学的にイエネコとはかなり離れています。もし、イエネコの祖先であるリビアヤマネコが餌を貯蔵するために餌を隠す行動を行うのであれば、かなりの説得力がありますが、今のところリビアヤマネコが後で餌を食べるために餌を隠すという行動は報告されていません。そのため、後で餌を貯蔵するために餌を隠すという仮説は少し信憑性がないように思えます。
まとめ
猫が餌に砂かけを行う理由について紹介してきましたが、どの仮説も科学的根拠があまりないものであり、どの理由が正しいのかについては不明です。ぜひ猫様に聞いてみたいトピックになります。ひとつ言えるのは、猫が餌に対して不満があるからという理由や後で食べるためという理由については少し、信憑性が低いといえると思います。
もし、愛猫がキャットフードに砂かけを行う行動を見せたとしても、特に問題はありません。しかし、どうしても止めさせたい場合には、猫が餌を食べ終わった後にすぐにフードボウルを片付け、床に散らかったキャットフードを綺麗に掃除するようにしてあげてください。また、餌の回数を増やしたり、パズルフィーダーなどで少量ずつ餌を与えることも有効です。
パズルフィーダーを使えば、飼い主が不在の間にも、愛猫に刺激を与えることができます。そんなパズルフィーダーの利点については「パズルフィーダーの有用性」の記事を参考にしてください。もし、パズルフィーダーを使いたいという方は「パズルフィーダーの使い方」の記事を一読ください。
参考文献
1) Pam Johnson-Bennett. Think Like a Cat: How to Raise a Well-Adjusted Cat–Not a Sour Puss. Penguin Books(2011).
2) Pam Johnson-Bennett. CatWise: America’s Favorite Cat Expert Answers Your Cat Behavior Questions. Penguin Books(2016).
3) 武内ゆかり:ネコの心理学, 西東社, 東京, p.120, 2015年
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