猫ちゃんは自分自身のことをどう捉えていると思いますか?私たちは自分自身の容貌は容易にイメージできると思いますが、それは鏡に小さな頃から親しんでおり、ほぼ毎日のように鏡で自分の姿を見る習慣があるからだと思います。鏡や写真が無ければ、自分の顔はどう顔張っても直接見ることができませんから、そう言った習慣のない猫ちゃんが自分の姿を鏡で目にした時に、一体どんな反応をするのでしょうか?
遊び始める
遊び仲間?
猫ちゃんが、初めて自分の姿を鏡の中に見つけた時、他の猫がいると思って鏡に映った自分と遊ぼうとするかもしれません。しかし、猫はすぐに興味を失ってしまうでしょう。この時点で、おそらく猫は映っている像が他の猫ではないことが分かっていると言えると思います。だからといって、それが自分自身の像であると認識しているかどうかは定かではありませんけれどね。
このような、小さな頃に鏡に映った自分と遊ぼうとした経験のある猫は、大人になって鏡を見たときにはほとんど何も反応しないことが多いと言われます。研究者の多くは、猫が映った像が自分かどうかは別として、映っている像には匂いがないので、それが「実在するもの」として認識していないと考えています。
自己の認識には匂いが重要
コロラド大学の生物学者であるMarc Bekoff は、自身の飼っている犬で行った実験で、犬は容貌よりも匂いで自分自身を認識しているということを報告しています。犬の実験なので、猫に全てがあてはまるとは言えないかもしれませんが、猫が鏡に映っている自分の姿にそれほど反応を示さないのはこのためかもしれません。
セルフグルーミングテスト
また、動物が自分自身を認識しているかかどうかを確かめる一つの方法として、セルフグルーミングテストと呼ばれる手法があります。ニューヨーク州立大学の心理学者であるGordon Gallupは、チンパンジーを実験対象として、いわゆる”ミラーテスト”を行いました。
実験の仮説はこうです。
もしも動物が鏡をのぞいて、例えば自分の顔に何か汚れがついていた時に、それを見て自分の顔を触って汚れを取ろうとすれば、それは動物が今見えているのは自分の像で、それゆえに自分が影響を及ぼすことができるということを理解していると言える。
チンパンジーやゾウ、イルカではこの行動が見られたと言います。
猫でのセルフグルーミングテスト
同じことは猫でも行うことができるようです。猫ちゃんが眠っている時に、そっと額の所に取れやすいシールのようなものを付けます。そして猫ちゃんが起きて、鏡を見た時の様子を観察してみてください。
鏡を見てそれを取ろうとすれば、あなたの猫ちゃんはちゃんと、自分自身のことを認識しているかもしれません。(ただしチンパンジーで行った実験なで、猫にそのまま当てはまるとは言えないかもしれないですが)。
筆者的には、額に何かついていたら、鏡で見なくても何となく違和感を覚えて、顔をこするような気がしますけれどもね・・・。
興味がない・・??
このようにミラーテストはある種の動物で、自己認識を証明するのに有効な手段であることは確かですが、すべての動物種で当てはまるとも言えません。
ある研究者は、西洋の文明から切り離された僻地で生活していた子供達に、同じくミラーテストを実施したところ、彼らは鏡の中に映った自分自身の像を、「自己」と認識することができなかったと報告しています。これは決して彼らが自己を認識していないわけではなく、鏡に慣れていなっただけと言えます。
自分を認識する必要がない
このように確かに、何か鏡に映っており、それが実在していないことは多くの動物が認識しています。しかし、それに対してどう反応するかはそれぞれの動物が暮らす環境によります。
言ってしまえば、それが実在するものでないのなら、襲ってくる心配もないので、自分だろうが、なんだろうがどうでも良いということです。つまり、「自己」の容貌を認識することが、生活をしていく上で重要事項ではないということなのでしょう。
鏡の中の自分は何を意味するのか
種の中には、鏡の中に映っている自分の像をはっきりと「自分」と認識し、それに対してかなりの興味を示すものもいます。先ほども述べましたが、イルカやゾウ、チンパンジーはそういった種の代表例です。
GallupやBekoffなどが行った実験では、チンパンジーは鏡の中の自分を注視し、自分自身をチェックするのに鏡を積極的に使うほどでした。ゾウやイルカも、鏡の中の像を自分と認識するだけでなく、それに対して注意を向ける傾向があると言われています。
視覚と嗅覚
一方で、明らかに猫や犬はこれとは違います。この違いというのは、おそらく「視覚」が生存に関して、どれだけその種にとって重要なのかと言うことに関連していると思われます。霊長類は生きていく上で、視覚にかなり依存する傾向にある一方で、犬や猫は嗅覚が先行して働きます。
したがって、あなたの飼っている猫が鏡に映っている自分に対して何も反応を示さなくても、純粋に「嗅覚情報」が欠落しているために興味がないだけで、自己認識ができていないというわけではないのかもしれません。
人間が気にしすぎている!?
猫は鏡に映っている像を自分であると認識しているかもしれないし、そうでないかもしれません。その真意はわかりませんが、猫にとってはどうでも良いことなのかもしれません。私たち人間は、視覚を重要視し、容姿にかなり注意を向ける動物種であるので、こんな鏡についての疑問が生まれてしまうのかもしれませんね。
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参照論文
Marc Bekoff. Observations of scent-marking and discriminating self from others by a domestic dog (Canis familiaris): tales of displaced yellow snow. Behavioural Processes Volume 55, Issue 2, 15 August 2001, Pages 75–79
Gallup, GG Jr. (1970). “Chimpanzees: Self recognition”. Science. 167 (3914): 86–87. Bibcode:1970Sci…167…86G
参考文献
Psychology Today: Canine Corner – Does My Dog Recognize Himself in a Mirror?
Scientific American: Kids (and Animals) Who Fail Classic Mirror Tests May Still Have Sense of SelfMirror Test –
Gordon Gallup Jr., James Anderson and Daniel Shillito
What Do Cats See When They See Their Reflection
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