猫は食に頑固であり、気に入らないものは頑なに拒否します。その猫の好き嫌いに関連しているものの一つとして味覚があります。この記事では、猫の味覚と嗜好性について紹介していきます。
猫の味覚
味覚には「甘味、酸味、塩味、苦味、旨味」がありますが、猫は甘味をほとんど感じないようです。しかし、完全に甘味を感じないと断言することはできません。その点の議論については「猫は純粋な水の味を感じることができる!?」の記事を参照ください。
また、塩味の感受性も低くなっており、塩味を敏感に感じることはありません。これは猫の主食である肉に一定量塩分が含まれているために、積極的に塩分を摂取する必要がないためだと考えられています1)。もし、猫が草食性であったならば、植物には塩分が少なく、積極的に摂取する必要があるため、塩分に敏感になっていたかもしれません。
最新の研究によると、猫には草食動物と同じように苦味を感じる受容体を持っていることがわかっており、12の苦味を感じる受容体のうち、7つの受容体が猫では機能しています2)。従来までは、苦味は毒性のある植物などを口にする心配のある草食動物において重要であると考えられてきました。しかし、この研究により肉食動物でも動物に含まれている毒性の強いものを口にする危険性を回避するために、草食動物と同じように苦味を感じる受容体が発達していることが示唆されました。
猫の舌
食べ物の味は舌の味蕾と呼ばれる小器官の中にある味細胞が持つ受容体で感じることができます。舌の先端部分には塩味や甘味(場合によっては)を感じる味細胞が密集しており、舌の両側には酸味を感じる味細胞、舌の奥の部分には苦味を感じる味細胞が多く存在しています3)。ちなみに、舌のザラザラした突起部分(糸状乳頭)では味覚を感じることはできません。糸状乳頭はグルーミングの際などに利用されます。

猫の舌が感じる物質と嗜好性
アミノ酸
猫の味覚受容体の中で最も多いのが、アミノ酸を感じるものです。特にプロリンやシステイン、オルニチン、リジン、ヒスチジン、アラニンなどの甘いと感じるアミノ酸に対する受容体が多くなっており、猫はそれらのアミノ酸を好むと考えられています4), 5)。一方で、イソロイシンやアルギニン、フェニルアラニン、トリプトファンなどの苦いアミノ酸は嫌う傾向があります1), 4), 5)。
猫は高タンパク質な餌が好きであり、猫の嗜好性はタンパク質含有量と比例します3), 4)。特に肝臓や赤肉、血液などは猫に好まれます。
酸性物質
猫の味覚受容体の中で二番目に多いのが、酸味を感じるものです。特にリン酸、カルボン酸、ヌクレオチドジペプチド・トリペプチドに対して反応します。
猫はモノホスフェート・ヌクレオチドを含む食事を嫌うことが知られています。このモノホスフェート・ヌクレオチドは動物が死んだ後に組織に多く蓄積する物質であり、猫が死肉を食べないのはこの物質のためだと考えられています1), 4), 5)。

脂質
猫が脂質を好むことは一般的に知られていますが、それは一部の脂質に限ります。猫は動物性の脂質は好みますが、中鎖脂肪酸の多い植物性の脂質は嫌います6)。猫は高脂質の餌が好きですが、脂質の含有量が50%を超えると食べなくなります6)。
ドライキャットフードなどの表面には、猫の嗜好性を高めるために、脂質などが塗ってあることが多いですが、これは味覚よりも食感などに関わっていると考えられています5)。
温度
食べ物の温度も猫の味覚に影響を与えます。猫は餌の温度が30℃付近の場合に、最も味覚の違いがわかるとされています3)。猫は40℃前後の餌を好んで食べ6)、一方で、15℃以下、50℃以上の餌は拒否します4), 5)。
まとめ
猫は様々な味覚を感じており、味覚に基づく嗜好性があります。しかし、味覚以外にも様々な要因が猫の嗜好性には影響を与えており、人間と同様に猫によって食べ物の好みはそれぞれです。トレーニングを行う際や投薬を行う際などに愛猫が好む餌などを使用することがあるため、愛猫の好みとその変化を熟知しておくことはとても重要です。愛猫の好みを確かめるには、簡単な検査をするか、猫の行動を観察して行うことができます。方法を知りたい方は「猫の行動からわかるキャットフードの好き嫌い」の記事もしくは、「自宅で試せる猫の好き嫌いを見分ける方法(1)」の記事を参照ください。
参考文献
1) 阿部又信:(2)食性、嗜好、食餌の摂取量など, ペット栄養会誌(1999), 2(2): 70-77.
2) Lei W, Ravoninjohary A, Li X, Margolskee RF, Reed DR, Beauchamp GK, Jiang P. Functional Analyses of Bitter Taste Receptors in Domestic Cats (Felis catus). PLoS One(2015), 10(10):e0139670. doi: 10.1371/journal.pone.0139670.
3) 紺野 耕(監):猫を科学する. 養賢堂, 東京, p132-133. 2009.
4) Little SE. August’s Consultation in Feline Internal Medicine, Volume7. Saunders, Missouri ; 1ed, p601. 2015.
5) Little SE. The Cat:Clinical Medicine and Management. Saunders. p237. 2012.
6) 大石孝雄:猫の動物学. 東京大学出版会, 東京, p54-56. 2013.
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