とある悪徳な猫ブリーダーを訪れた際に私が見たのは狭いケージの中で飼われている猫でした。ケージの正確な大きさは計測していないのでわかりませんが、上下のスペースが全くない狭い空間でメス猫とオス猫が飼われていました。そのブリーダーさんに話を伺ったところ、「特に問題はないし、猫はケージで飼ったほうが楽ですよ。」と言われました。
猫を飼っている方の中には猫をケージで飼っている方もいると思います。私も猫を飼い始めた頃には、外出中や就寝中のみ飼い猫を垂直方向の移動が可能なケージに入れておくようにしていました。現在では、猫のための環境を整えているため、ケージは使用しなくなりました。
ここではケージを使用することの賛否については議論しません。飼い主の都合上ケージを使用することもあるでしょうし、動物病院やペットホテルなどでは保管の際に必ずケージを使用します。しかし、気をつけてほしいことは猫が必要とするスペースをしっかりと設けるということです。今回の記事では猫が必要とするスペースの大きさについて解説していきます。
猫が必要とするスペースの原則
まず、猫が必要とするスペースについて述べる前に、そのスペースに必要となるものについて紹介していきます。
猫が飼養、保管されるべきスペースには5つの自由が実現されていなければなりません。5つの自由とは「飢え・渇きからの自由」「不快からの自由」「苦痛からの自由」「恐怖・抑圧からの自由」「自由な行動をとる自由」です。つまり、次のような要素が最低限含まれている必要があります。
- 餌や水を食べる場所が確保されていること
- 清潔であること
- 猫が自由な行動をとれるような十分な広さのスペースが確保されていること
- 猫がストレスから逃れられる場所が確保されていること
- 猫本来の行動がとれるようなリソース(猫が必要とするもの)が用意されていること
特に上記の3つ目のスペースの広さについては、以下のような環境を整える必要があります。
- 方向転換が簡単に行える環境
- 簡単に立ち上がることができる環境
- 座ることができる環境
- ストレッチができる環境
- 足を自由に伸ばしながら、横になれる環境
- 耳が天井につかない環境
- 尻尾をピンと立てられる環境
- 食べることや飲むこと、トイレなどを快適に行うことができる環境
この指針はThe Association of Shelter Veterinarians; ASV(シェルター獣医師協会)が猫や犬をシェルターで保管するときに注意すべきこととして提言しているものです(Newbury, 2010)。
猫が必要とするスペースの広さ
では、具体的に猫が必要とする具体的なスペースの広さについて解説していきます。
猫が必要とするスペースについて論じるときには必ず1999年にKessler & Turnerにより行われた研究の話が出てきます。この研究では、猫を狭いケージに入れた時と広いケージに入れた時に猫が感じるストレスレベルを行動から評価しています。
この研究によると、0.7m2のケージで飼われた猫よりも1.0m2のケージで飼われた猫の方が、ストレス反応が少ないということがわかりました。言い換えると、0.7m2より小さなケージでは猫がストレスを感じることになります。しかし、これはあくまでも水平面のスペースであり、高さなどは考慮されていません。
また、カリフォルニア大学デービス校が主導で行っているKoret Shelter Medicine Programによると、シェルターにおける上部気道感染症(URI)の予防の一環として、約0.85m2以上のスペースを必要とするとしています。猫が健康的な生活を送れるようにするためには約0.85m2以上のスペースが必要なようです。
有名なキャットショー団体のCat Fanciers’ Association; CFAが示すスタンダードなキャッテリーの基準の中には、最低でも約0.85m3のスペースが必要とされています。こちらの単位は立方メートルで高さまで含まれています。
餌や寝床、トイレを配置するスペース
餌と寝床、トイレは狭いスペースでも必ず必要になります。その際、それぞれのリソース(猫が必要とするもの)が60cmずつ離れている必要があります。なぜならば、それ以上リソース同士が近くなると猫は餌を食べにくくなるということが知られているからです(Bourgeois et al., 2004)。
寝床の大きさやトイレの大きさなども考慮すると、やはり1.0m2以上のスペースは必要になってくるものと思われます。理想のトイレの大きさは猫の体長の1.5倍と言われており、トイレがかなり大きいということも念頭に置いておくべきです。
猫本来の行動を行わせるために、爪とぎも用意する必要があります。また、ストレスレベルを軽減するための隠れ場所(寝床と兼用も可能)などの設置も行う必要があり、意外と多くのリソースをスペース内に設置しなければならないということを忘れないようにしましょう。
猫が必要とする高さ
猫1匹が必要とするケージの高さには明確な基準が設定されているわけではないようです。しかし、猫にとって高いところは安心感を得ることができる場所であり、ストレスレベルを軽減する一つの手段にもなってきます。また、狭いスペースでも垂直方向のスペースを利用することにより、寝床や餌、トイレなどのスペースを有効的に分離することが可能になります。さらに、わずかではあるものの上下運動も行えるというメリットもあります。
そのため、垂直方向のスペースができる限り確保されていることが望ましいです。もし、垂直方向のスペースが制限されている場合には、猫が尻尾を高く上げた時や立ち上がって爪とぎを使用する際に猫の頭や尻尾が天井部分に接触しないことが最低限必要になります。
まとめ
上記のことから1匹の猫が必要とするスペースは約0.85m2程度だと言えるかもしれません。
しかし、その他のストレスホルモンを調べた研究では、短期間であれば特にケージの大きさとコルチゾール(ストレスホルモンの一種)との間に関連性はないことが示されています(Uetaka et al., 2013)。また、つい先日発表された研究では小さなスペース(0.56m2)で猫を飼ったとしても環境エンリッチメントを行えばさほど猫の福祉には影響がでないということも示唆されています(Stella et al., 2017)。
そのため、今のところ1匹の猫に対してどれぐらいの広さのスペースが必要なのかについてコンセンサス(一致した見解)が得られているわけではありません。また、狭いスペースでも様々な工夫を凝らすことで猫に加わるストレスを軽減できると思われます。
ただし、この記事の最初で述べた「原則」については忘れないようにしましょう。原則のうちどれかが欠けているだけでも猫の福祉が脅かされていることになりますから。
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参考文献
Kessler MR, Turner DC. Effects of density and cage size on stress in domestic cats (Felis silvestris catus) housed in animal shelters and boarding catteries. Anim Welf (1999);8:259–67.
CFA Cattery Standard Minimum Requirements
Sandra Newbury, Mary K. Blinn, Philip A. Bushby, Cynthia Barker Cox, Julie D. Dinnage, Brenda Griffin, Kate F. Hurley, Natalie Isaza, Wes Jones, Lila Miller, Jeanette O’Quin, Gary J. Patronek, Martha Smith-Blackmore, Miranda Spindel, Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters, The Association of Shelter Veterinarians.
Feline Upper Respiratory Infection aka URI
Bourgeois H, Elliot D, Marniquet P, et al. Dietary Preferences of Dogs and Cats. Focus Special Edition Royal Canin Paris: Aniwa Publishing, 2004.
Uetake K, Goto A, Koyama R, Kikuchi R, Tanaka T. Effects of single caging and cage size on behavior and stress level of domestic neutered cats housed in an animal shelter. Animal Science Journal(2013), 84(3):272-4. doi: 10.1111/j.1740-0929.2012.01055.x.
Stella J, Croney C & Buffington T. Behavior and Welfare of Domestic Cats Housed in Cages Larger than U.S. Norm. Journal of Applied Animal Welfare Science.(2017) http://dx.doi.org/10.1080/10888705.2017.1317252
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