猫は起きている時間の30~50%をグルーミング(毛づくろい)の時間に費やしており1), 2)、猫が綺麗好きと言われる所以にもなっています。では、猫のグルーミングはどのように発達し、どのような機能を担っているのでしょうか?
猫のグルーミングの発達
子猫による自己のグルーミングは生後2週間より始まります1), 2)。もちろん、成猫のように初めから完璧なグルーミングを行えるというわけではありません。まずは、前足を舐める行動が観察され、その数日後にはその他の体部位を舐めるようになります1), 2)。
生後18日目ぐらいより、後足で首の部分を引っ掻くようになります1), 2)。そして、生後4週の時点では食後に前足を使用したグルーミングが観察されるようになります1), 2)。
グルーミングの主な機能
グルーミングの機能には様々なものが考えられていますが、主なものは次のとおりです2), 3)。
- 衛生の維持:鱗屑や抜け毛、外部寄生虫(ノミ・マダニなど)を取り除く。
- 体温の低下:被毛を唾液で濡らし、気化熱により体温を低下させる。
- 天敵からの防御:食後に被毛などについた獲物や餌のニオイを除去し、天敵に襲われる確率を低下させる。
グルーミングには下記のような機能もあります。
グルーミングにより子猫の世話を行う
母猫はグルーミングを行うことにより子猫の世話を行います。その世話は分娩前より始まっており、分娩直前の母猫は乳首や生殖器のあたりを入念に舐めることが知られています4)。これは子猫が生まれてくる場所や授乳する部分の衛生状態を維持するためだと考えられています。
子猫が生まれてからは、子猫を入念にグルーミングすることで、子猫に付着した外部寄生虫を取り除いたり、結膜炎などの目の感染症を唾液により予防する効果があると考えられています4)。また、生殖器の部分を舐めることで、排泄を誘発します4)。その他にも触覚刺激を加えるためにグルーミングを行うとも考えられています2)。
グルーミングは友好関係の証?
友好関係が築かれている猫同士においては、お互いをグルーミングする「アログルーミング allogrooming」が観察されます。これは多頭飼いしている家庭では頻繁に目にする光景です。猫のコロニーにおいては、メス猫は性別に関係なくグルーミングを行うのに対して、オス猫はメス猫にしかグルーミングを行わないということも知られています2)。そして、特に仲の良い猫や血縁関係にある猫同士において頻繁にアログルーミングが観察されることより、アログルーミングは親密性を維持する機能があると考えられています2)。
しかし、ある研究によると攻撃的な猫がそうでない猫に対してグルーミングする頻度が高く、反対に攻撃的でない猫が強い猫にグルーミングをすることが少ないということを示しています4)。そして、多くの場合は一連のグルーミングが終わった際に、グルーミングしている猫が攻撃的になることも観察されています4)。このことはグルーミングが一種の支配的行動であることを示唆していると考えられています4)。
グルーミングはストレスを緩和させる?
グルーミングは猫の皮膚をマッサージし、興奮を鎮めて気持ちを落ち着かせる効果もあると考えられています5)。そして、猫はストレスなどを感じた時に転嫁行動のひとつとして短時間のグルーミングを行います。もし、ストレスが強い場合や強迫性障害などがある場合には、グルーミング行為が激しくなり、脱毛などが起こってきます2)。その他の病気が原因で脱毛が起こることもあるため、その点については十分に注意が必要です。
一方、慢性的なストレスが加わった時にはグルーミング行動が減少することがあり、食欲不振や社会的交流の減少、隠れる時間の増加などを伴います2)。もちろん、その他の病気が原因で起こっていることもあるため、獣医師による検査が必要になります。
まとめ
猫のグルーミングには様々な機能が備わっており、起きている時間のほとんどをグルーミングに費やす理由を理解することができます。愛猫のグルーミング行動が減少したり、増加したりした場合には何かしらの異常が考えられるため、まずは動物病院に連れて行き、検査をしてもらいましょう。病気の可能性が否定された場合には、次にストレスの有無などを考え、その原因を探り、除去する必要があります。飼い主が名探偵になることが求められますが、もし原因がわからない場合には猫行動専門家に相談するようにしましょう。
猫はグルーミングの他にも、箱などに入る行動を頻繁に行います。なぜ猫が箱の中に入るのかについては「猫が箱に入る3つの理由」の記事を参照ください。
参考文献
1) Beaver B. Feline behavior: a guide for veterinarians, 2ed, Saunders Elsevier(2003).
2) Little SE. The Cat:Clinical Medicine and Management. Saunders(2012).
3) Pam Johnson-Bennett. CatWise: America’s Favorite Cat Expert Answers Your Cat Behavior Questions. Penguin Books(2016).
4) Bradshaw JWS, Casey RA, Brown SL. The behaviour of the domestic cat. CABI, Oxfordshire(2012).
5) 武内ゆかり:ネコの心理学, 西東社, 東京, 2015年
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