猫を含む動物たちは人間と同じように退屈を感じているのでしょうか?最近になって、動物が退屈を感じているのではないかということが研究で示唆されるようになってきましたが、少し前までは動物に関する退屈の研究はほとんど進んでこませんでした。なぜなら、退屈はその他の動物の福祉に関する問題と比較して些細な問題と捉えられており、また、「退屈」という言葉があまりにも擬人観(形や性質を人間と似たように捉えること)が強すぎたためです1)。
この記事では猫を含めた動物たちが退屈を感じるのかについて考えていきます。
退屈を生じる要素
人間が退屈を感じる時は何もやることがない場合や単調な仕事を繰り返す場合、不可能なことを強制される場合などに起こります。そして、人間においては『予測可能性』、『単調性』、『監禁(制限)』が退屈を生じるために重要と考えられています1,2)。これらの要素は人間に飼養されている動物に対しても当てはまります。
飼い主は毎日同じような行動を行うため、次に何が来るのかを簡単に予測でき、飼い主は長時間家を空けるため、刺激がない単調な空間で時間を過ごす必要があります。そして、屋内もしくはケージという空間的に制限された環境で飼養されるということです。

退屈による動物の行動
環境エンリッチメントがない環境で飼養された動物では、多様な行動が観察されにくくなることが報告されています1)。一方で、新たな刺激を求めるような行動が観察されることも報告されています。例えば、環境エンリッチメントが行われていない環境で飼養されているミンクでは、報酬だけでなく罰に関する刺激に対しても興味を示し、おやつを食べる量が増えることが知られています1,3,4)。さらに、それらのミンクは、ジッと横になっている時間も長いということもわかっています(意識は覚醒しており、決して寝ているわけではありません)。
もちろん、環境エンリッチメントが無いことで、動物たちが退屈を感じているのかについてはわかりませんが、退屈を感じた人間でも前述したミンクと同じような行動が観察されることが知られています1,4)。確かに、退屈そうな人では意味不明な行動を行ったり、ソファーの上に寝転び、ポテチなどのスナック菓子を食べたりしていますよね。少なくとも私の家族の中にはそのような人がいました。

退屈の必要性と問題点
退屈が長期に続いたり、退屈からどうしても逃れられない場合には問題が起こります。例えば、囚人に置いては脳の変化に起因した様々な認知機能の障害が観察されるようになり、次第に無気力やうつ状態になることが知られています1,5)。そのため、長期間の逃れられない退屈に関しては動物にとっても問題になる可能性があります。事実、必要最低限の環境で育てられた動物では脳が小さくなることが知られています1), 6)。さらに、それらの動物では常同行動が増加することも知られているため、動物の行動のバリエーションを少なくしてしまいます。

しかし、退屈から逃れられるような状況では少し退屈の意味合いが異なってきます。すなわち、退屈を感じた時に新しい刺激を求めることで、より生存確率を高めることができるようになります1)。例えば、その動物が子供の頃は狭い縄張り内で暮らしていたとします。しかし、毎日その縄張りで暮らすことにより、退屈が生じた際には新たな刺激を求めるために、縄張りを広くしようと努力し、その結果新たな獲物や異性に出会うことが可能になります。また、同じような獲物を食べることに退屈を感じた場合にはその他の獲物を食べるようになり、栄養学的にもバランスが取れるようになります。このように、通常の状況下においては退屈は動物の行動のバリエーションを増やし、環境に適応する上でも必要なものになります。
ただし、人間の管理下で飼養されているペットなどでは、長期間の逃れられない退屈にさらされる可能性が多いため、退屈は問題になることが多いと思われます。
猫の退屈
猫に関する退屈の研究は皆無です。そのため、猫が退屈を感じているのかは分かりませんが、ラットやミンク、ブタなどを対象にした退屈の研究から推測するに猫も退屈を感じているものと思われます。
例えば、昔より猫にはモノトニー効果が起こることが報告されています。このモノトニー効果とは、猫が同じ餌をずっと与えられた場合に、異なる餌を食べやすくなるというものであり、退屈に起因している可能性があります。また、猫行動専門家の中には退屈により、破壊的な行動、猫同士の攻撃性の増加、うつや不安などが起こると考えるものもいます7)。具体的には、過剰なグルーミングや異物を噛んだり、食べ過ぎたり、一緒に住むペットをいじめたり、強迫性障害を示す行動が観察されたりするとしています。

退屈に起因するであろう問題行動を解消するには環境エンリッチメントを行うことが重要です。すなわち、常に猫に新たな刺激を加えることができるような環境が必要になります。例えば、猫が退屈をしないような物理的環境を整えたり、外出する前にはパズルフィーダーを用意したり、1日に2回以上は様々なおもちゃで遊んだりすることが大切です。
まとめ
猫を含めた動物が退屈を感じているのかについてはわかっていないことが多いの現状であり、さらなる研究が必要になります。しかし、かなり高い確率で動物は退屈を感じているものと考えらえています。そして、避けることができない長期間の退屈は動物に悪影響を及ぼすことが多いため、環境エンリッチメントなどで常に刺激を与えることが重要です。
ただ、猫においては他の動物とは異なり、予測性も猫に安心感を与えるために重要です。マヌルネコ(イエネコではない)を対象に環境エンリッチメントを行った研究者らは、環境エンリッチメントによる非予測性とルーティンの最適なバランスを見極めるのが健康や福祉を維持する上で重要であると述べています8)。猫においても同じであり、猫の退屈に対応するとなると予測性と非予測性のバランスに気をつけて行う必要があり、短期間で劇的に猫を取り巻く環境を変えることは望ましくありません。その点は気をつけてください。
この記事の一部はBurn博士の論文(参考文献の1番目)の一部を参考にしています。動物に関する退屈についてさらに知りたい方や、退屈に関する研究を行いたいという方はぜひ彼女の論文を一読ください。退屈の研究をするにあたって参考になる実験手法などが多く記載されています。こちらより論文を読むことができます。
最近はキャティオがトレンドになりつつあります。キャティオは猫が安全に屋外の環境を楽しめるというもので、猫のQOLを高めるために多くの猫の飼い主が作成しています。キャティオがどのようなものか知りたい方は「愛猫のためのキャティオ Catio」の記事を参照ください。また、パズルフィーダーによる環境エンリッチメントも主流になってきています。パズルフィーダーについて知りたい方は「パズルフィーダーの有用性」の記事を参照ください。
参考文献
1) Burn CC. Bestial boredom: a biological perspective on animal boredom and suggestions for its scientific investigation. Animal Behaviour(2017). 130, 141-151. https://doi.org/10.1016/j.anbehav.2017.06.006
2) Toohey, P. (2011). Boredom: A lively history. Padstow: Yale University Press.
3) Meagher RK, Mason GJ. Environmental Enrichment Reduces Signs of Boredom in Caged Mink. PLoS ONE(2012), 7(11): e49180. doi:10.1371/ journal.pone.0049180
4) Moynihan AB, van Tilburg W, Igou ER, Wisman A, Donnelly AE, Mulcaire JB. Eaten up by boredom: Consuming food to escape awareness of the bored self. Frontiers in Psychology(2015), 6, 369.
5) Shalev S. The health effects of solitary confinement. A sourcebook on solitary confinement (pp. 9-23). London: Mannheim Centre for Criminology(2008), London School of Economics.
6) Wurbel H. Ideal homes? Housing effects on rodent brain and behaviour. Trends in Neurosciences(2001), 24, 207-211.
7) Pam Johnson-Bennett. CatWise: America’s Favorite Cat Expert Answers Your Cat Behavior Questions. Penguin Books(2016).
8) Rioldi E. Innovative environmental enrichment method for Pallas cat (Felis manul). 2010. diva2:300140.
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