猫を飼っている人からすると、猫は飼い主の感情や考えていることをある程度、理解していることは当然と思っているかもしれません。そういった飼い主の多くは、泣いている時に猫が慰めるためにそばに来てくれた、飼い主が怒るとその理由を理解して、反省していたというような経験からその様な考えを持っているのでしょう。
でも、これは猫を擬人化しているだけなんです。つまり、私たち人間が相手の気持ちを読めるから猫も相手の気持ちを読めるのは至極当然のことだろうと思っているのです。
猫にとっての心の理論
「心の理論」という言葉をご存知でしょうか? 「心の理論」を分かりやすく言うと、相手の心情や感情、考えていることを理解する能力になります。言い換えると、相手の立場になって物事を考えられる能力ということです。
実はこの「心の理論」が猫に存在することを証明した研究はありません。「心の理論」が存在すると確証されているのは、脳の中でも前頭葉と呼ばれる領域が特に発達した霊長類の一部と人間だけなんです。ちなみに犬に関しては「心の理論」の基礎の一部分のみを持っていると言われています1)。
猫は飼い主の立場になれない
猫に「心の理論」が存在しないということは、猫は飼い主の立場になって物事を考えることが難しいと言えます。そのため、もちろん飼い主が泣いている、怒っている、笑っている理由を理解することができないのです。
猫は「今」を生きている
猫は記憶力が発達していません。そのため、数秒前に起こったことですら覚えていません。猫が物事を記憶に定着させるには関連づけを行わなければなりません。例えば、飼い主がエサの袋を開封する音を聞くと、エサを求めて猫が寄ってくるのは、開封する時の音とエサを関連づけて記憶しているからです。そして、その関連づけた記憶はそのきっかけとなる刺激(袋を開封する音)が入ると即座に思い出されるのです。
また、当然ながら未来を考えることもできないので、将来のためにエサを貯めておこうなんてことも考えません。
猫は飼い主の「今」しか理解できない
猫が過去や未来を考えられないということは、飼い主が泣いたり、怒っていたりしても、その理由を過去の記憶と関連づけて推測することができないのです。つまり、猫が飼い主の見ていないところで悪さをした数秒後にそれに気付き、猫を叱ったとしても、猫にはその理由がわからないのです。その結果、飼い主と猫との関係性に亀裂が生じてしまいます。
猫は飼い主の変化を感じとっている
猫は「心の理論」がなく、「今」を生きているため、飼い主が泣いていても、なぜ泣いているかは理解しておらず、「様子が変だ」としか思っていません。つまり、猫には飼い主が今までにない声を出していたり、目から光る液体が出していたり、うずくまっている姿を見て「様子が変だ」と思うのです。
そうなると、猫は探索行動などを始めて、飼い主のところに近づきじっくりと探索行動を始めるのです。そして、その行動を飼い主は猫が泣いていることを理解して慰めてくれていると思うわけです。
飼い主が怒っている場合には、飼い主の声量が大きくなったり、口が大きく開き歯が見えることから、その瞬間に「これはヤバい」と考えて怯えるわけです。
まとめ
猫は感情を理解して、飼い主のために行動しているのではなく、「今」の飼い主のボディランゲージやエネルギーなどの非言語的な要素を把握してそれに対して反応しているだけなんです。そのため、猫を叱ることは多くの場合、飼い主と猫の関係性を傷つける結果となるため注意しましょう。
参考文献
1) Horowitz A. Theory of mind in dogs?: examining method and concept. The Journal of Learning Behavior. 39(4):314-7, 2011.
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