以前は、半室内飼いの猫ちゃんもよく見かけましたが、最近は完全室内飼いの猫ちゃんが多いように思います。そんな日中をずっと家の中で過ごしている猫ちゃんたちは、与えられる餌を食べ、グルーミングをし、睡眠をとるの繰り返しになることが多くなります。
本来の猫のリズムは獲物を狩り、獲物を食べ、グルーミングして睡眠をとるというものです。完全室内飼いの猫ではこのうち獲物を狩るという過程が抜けていることが多く、毎日同じように出される餌を食べているだけです。そのようなリズムは退屈や病気、問題行動などを誘発してしまう危険性があるため、気をつけなければなりません。
毎日餌を与える前に遊んであげるのが一番ですが、運動量が多い猫ではそれでもなお不十分なことがあります。また、仕事が忙しいような飼い主では、なかなか猫と遊ぶことはできません。
しかし、少し餌の与え方を変えるだけで、そのような問題が少し解決するかもしれません(完璧に解決するわけではありません)。
パズルフィーダー
パズルフィーダーというものをご存知でしょうか? パズルフィーダーとは、猫が餌を獲得するために、何らかの作業をしなくてはならない給餌器になります。
一般的なパズルフィーダーは所々穴の開いたボールの様の形をしており、中にドライフードを入れ、それを転がすことで餌が時々出てくるものだと思います。その他には筒の中にドライフードを入れ、その中に猫が手を入れて、餌をほじくり出すといったものもあります。
猫はそういったパズルフィーダーに熱中することが多く、パズルフィーダーにより餌を与えられた猫では運動量が増え、退屈することが少なくなります。

ノネコとペットの猫
ノネコ
ノネコの場合、猫は食べ物を得るために狩りを行います。しかし、その成功率は約50%程度であり、獲物を捕まえることができる時もあればそうでないこともあります。
そして、その狩りに費やす時間は12時間と言われています(Lund et al., 2005)。よく猫の一般書で猫は8時間しか起きておらず、さらにそのうちのほとんどをグルーミングに費やしているという旨の記載があると思います。それはあくまでもペットの猫のように餌が豊富にある環境で飼育されている場合であり、野生に暮しているノネコでは状況が異なります。
また、ノネコは1日に必要なカロリーを摂取するためには1日あたり10匹のマウス(1匹を30kcalとした場合)を捕獲しなければなりません(Morris et al., 1989)。上記の内容も合わせるとノネコは1日に約20回程度は狩りを行っていることになります。
ペットの猫
対してペットの猫は、極端に言えば一日なんにもしなくても、どんどん出てくる餌を食べているのです。飼い主が一緒に遊ぶなどして、十分に運動ができている猫であれば良いですが、実際のところは飼い主の都合などにより毎日十分な運動を行えている猫は少ないように思います。
また、ペットの猫の場合は1回に与えられる餌の量が多く、その分与えられる回数が1日2~3回程度になります。ノネコが少量の餌を複数回に分けて食べているのとは違いますよね。
そのような状況では、肥満や2型糖尿病(生活習慣病)、関節障害、慢性的な猫下部尿路疾患(FLUTD)などのリスクが高まるとされています。また、ストレスなどから問題行動が見れられる頻度も高くなります。
パズルフィーダーで餌を与えると、簡単には餌が手に入りずらくなると伴に、餌を与える回数を増やすことができるため、野生の猫の状態を少し模倣することができます。そういった環境を提供することは単に運動を促進するだけでなく、心理的な刺激を猫に与えるためにも重要になります。
パズルフィーダーの効果
減量や問題行動の対処に
パズルフィーダーを完全室内飼いの猫に与えた事例では、8歳の肥満傾向のあるオス猫がパズルフィーダーを使ったことで一年で20%の減量に成功した例があります(Dantas et al., 2016)。また、不安傾向が高く分離不安症になった猫に対してパズルフィーダーを用いたところ、不安に基づく問題行動がなくなった例もあります。
さらに、パズルフィーダーを多頭飼いの環境に使用することによって猫間における攻撃的行動があまり観察されなくなるといったことも報告されています(Dantas et al., 2011)。
しかしながら、パズルフィーダーだけを用いたとしても問題行動が完全に解決しないこともあり、その他のテクニックと組み合わせて対処しなければならないということには注意が必要です。ここら辺は猫行動専門家の助言が必要になります。
猫にかまえない時は
もちろん、猫と一緒に遊んで運動させるのが一番良いですが、長時間留守にする時や夜寝る前などにパズルフィーダーを用意しておくと、猫が勝手にパズルフィーダーを使って運動をしてくれます。夜の猫運動会が始まる家庭などではこのパズルフィーダーを寝る前に仕掛けるだけでマシになるかもしれません。
色んな猫に
パズルフィーダーは仔猫から高齢の猫、障害のある猫でも適用ができます。もちろん、それぞれの猫に応じて、難易度を変える必要はあります。また、猫が同じパズルに慣れてきたら、新しいものを導入してあげましょう。あまりに慣れてしまうと、面白くありませんからね。幾つか用意しておいて定期的に変えてあげるのが理想的です。
パズルフィーダーを使ってみる?
家にパズルフィーダーがないという方が簡単にできる方法としては、猫のいる部屋のあちこちに餌を隠しておくことです。最初は少しわかりやすい場所においておくと導入しやすいようです。日中、一生懸命探し回ってくれるので、退屈することなく過ごすことができます。
また、自分で作ってみても良いかもしれませんが、意外とちょうど良い難易度に仕上げるのが難しいかもしれません。程よいところで餌が出てこないと猫ちゃんも興味をなくしてしまうので、市販のものを買うのが無難かもしれません。
まとめ
パズルフィーダーに関する詳細な研究が現在さらに進められています。今後の研究によって、最適な導入の仕方や年齢によるアプローチ方法の変え方など、具体的なヒントがもっと増えると良いですね。
具体的なパズルフィーダーの選び方や使い方についてはまた今度紹介することにします。
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参考文献
Lund EM, Armstrong PJ, Kirk CA, and Klausner JS. Prevalence and risk factors for obesity in adult cats from private US veterinary practices. International Journal of Applied Research in Veterinary Medicine 2005; 3: 88–96.
Morris JG and Rogers QR. Waltham Symposium 7: Nutrition of the Dog and Cat. I H Burger IH and Rivers JPW: Cambridge University Press, 1989.
Dantas LM. , Delgado MM, Jhonson I, Buffington CAT., Food puzzles For cats: Feeding for physical and emotional wellbeing. Journal of Feline Medicine and Surgery (2016) 18, 723–732
Dantas LM, Crowell-davis SL, Alford K, et al. Agonistic behavior and environmental enrichment of cats communally housed in a shelter. J Am Vet Med Assoc 2011; 239: 796–802.
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