保護施設などで保護猫活動をしていると、施設に入ってくる猫のバックグラウンドがわからないことが多いため、その猫がどの程度、「ペットの猫」としてうまくやっていけるのかがわからないことがあります。猫が「ペットの猫」になるには、少なくとも人間やその家庭環境に慣れる必要があり、場合によっては他の猫ともうまくやっていかなければなりません。しかし、保護施設などで保護される野良猫は感受期(生後2~7週)において十分な社会化が行われていない猫も多く、そう言った猫を無理やり人に慣らし、ペットの猫として譲渡を行うのは最適の選択ではありません。世界的に有名な猫の福祉団体であるInternational Cat Care:iCatCareも社会化が十分にされていない野良猫やノネコを譲渡することは推奨しておらず、TNVRなどを行うことを推奨しています。ちなみに、元の地域に戻された猫たちは団体やボランティアなどによりきちんと管理されます。
では、ある猫が人間や他の猫とうまくやっていけるかを判断するにはどのようにすれば良いのでしょうか?この記事では、対象となる猫が人間や他の猫にどれぐらい社交的なのかを見極める方法の1つであるアプローチテストについて紹介していきます。
人間に対するアプローチテスト
まずは、人間に対するアプローチテストです。このアプローチテストを行うには対象となる猫にとって馴染みのない人で行う必要があります。そうしなければ、その猫の人間に対する本当の社交性を見ることはできません。このアプローチテストでは、対象となる猫をケージ(もしくはキャリーケース)の中に入れて、他の猫がいない静かな部屋に置きます。そして、観察者がその猫のケージに近づいた時の反応を観察し6段階で評価を行っていきます。具体的な手順は次のとおりです1)。
1: 観察者は猫のケージにゆっくりと近づき、「こんにちわ」と声をかける
2: 観察者はケージの前に1分間とどまり、そこでケージの格子部分を片手で触り続ける
3: 観察者はケージのドアを数秒開け、すぐに閉める
6段階での評価の仕方は次のとおりです。
1点:とてつもなく人間に対して友好的に反応する
2点:人間に友好的に反応する
3点:人間の方を向く
4点:人間から遠ざかるか、もしくは人間との接触を避ける
5点:人間に友好的でない反応をする
6点:とてつもなく人間に友好的でない反応をする
もし、上記の評価が3以下の猫は人間に対して社交的であると認められ、4以上の猫は人間に対して社交的でないと判断されます。なお、観察者を変更し、複数回このテストを行うことでより精度の高い評価を行うことができます。
他の猫に対するアプローチテスト
続いては、他の猫に対する社交性について見極める方法です。この方法では、まず対象となる猫とキャリーケースの中に入っている馴染みのない猫を一緒の部屋におきます。このキャリーケース内の猫は、他の猫に対して友好的である大人しい去勢済みのオス猫であることが望ましいです。最初はキャリーケースの上にカバーをしておき、外からはその猫が見えないようにしておき、対象となる猫とは1m離れたところに置きます。そして、次のような手順に従って1)、対象となる猫の行動を観察し、先ほどと同じ6段階の評価を行っていきます(上記の6段階の評価の「人間」の部分を「他の猫」に変更してください)。
1: 対象となる猫に4分間ケージを探索する時間を与え、慣れさせる(この時はまだケージにカバーをかけたまま)
2: カバーの前方半分だけを取り、1分間相手の猫と視覚的に対面させる(ケージのドアは絶対に開けない)
3: カバーをもとに戻す
先ほどと同じように、キャリーケースの中に入れる猫を変更し、複数回このテストを行い、もし観察者の評価が3以下である場合には、その猫は他の猫に対して社交的であるということになります。一方で、4以上の場合には他の猫に対して社交的ではないということができます。
評価の基準
上記の2つのアプローチテストについて、6段階の評価を行いますが、その評価は次のような行動の有無を評価していきます。
友好的な行動の指標
● 尻尾を立てる
● 尻尾を立てたまま、尻尾を振る
● 頭や体の一部をスリスリしてくる
● 喉をゴロゴロ鳴らす
● 短く「ニャッ」と鳴く
友好的でない行動の指標
● 「グルルルル」と鳴く
● 「シャー」と鳴く
● 「ッカ(クリック音のような感じ)」と鳴く
● 毛が逆立つ
● 耳が後ろに向く
● 相手をジッと見つめる
そして、さらに他の猫に対するアプローチテストの際には相手の猫との距離が1m未満である場合には、よりプラスに捉えられ、反対に1m以上の距離がある場合にはマイナスに捉えることができるとされています。

簡易的な人間に対するアプローチテスト
上記で説明したアプローチテストは1998年のKesslerとTurnerらの研究に基づくものであり、研究者向けのかなり細かな評価方法になります1)。しかし、最近発表された論文ではより短時間で簡単に評価を行える簡易的な人間に対するアプローチテストが使用されています2)。この方法では、特に猫をケージやキャリーケースに入れる必要はなく、猫が飼養されている部屋などで行うことができます。手順は次の通りであり2)、テスト中は対象となる猫を注視しないようにします。
1: 観察者が対象の猫にゆっくりと近づく(猫が観察者より距離をとる場合には、その場で立ち止まり、終了する)
2: 猫の頭部から20cm離れたところに、手を提示できる距離まで近づき立ち止まる
3: 猫に手の甲の部分を提示する(猫の頭部と同じ高さで提示すること)
評価は2段階で行い、もし猫が近づいてくる観察者に対して、探索行動や友好的とみなされる行動をとった際には「接触可能」とみなされます。一方、猫が観察者と距離をとったり、隠れている場所から出てこなかったり、友好的でない行動をとった場合には「接触不可」とみなされます。最新の研究では、この「接触可能」「接触不可」という意味が社交的であるということを示すということについては言及していませんが、接触可能な猫は接触不可の猫よりも人間に対して社交的であるということができると思います。

まとめ
今回の記事では猫の社交性を評価する一つの手段であるアプローチテストについて紹介していきました。このテストを実際に行ってみるとわかるのですが、意外と主観的な評価になり、難しく感じると思います。しかし、簡易的なアプローチテストは評価の基準が比較的明確であり、場所を選ばず意外と簡単にできてしまうためおすすめです。このアプローチテスト以外にも猫の社会性を評価する方法はたくさんあるため、それらの方法と併用して行うことでより正確に猫の社会性を評価することが可能になります。また機会があれば、そういったその他の評価方法についても紹介していきたいと思います。
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参考文献
1) Kessler MR and Turner DC. Socialization and Stress in Cats(Felis Silvestris Catus) Housed Singly and in Groups in Animal Shelters. Animal Welfare (1999), 8:15-26.
2) Arhant C, Troxler J. Is there a relationship between attitudes of shelter staff to cats and the cats’ approach behaviour? Applied Animal Behaviour Science(2017).187, 60–68. https://doi.org/10.1016/j.applanim.2016.11.014
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