2017年11月11日にスペイン・バルセロナで開催されたEuropeanFelineConference2017では、ヨーロッパにおける猫の福祉に関する多くのトピックが話し合われました。カンファレンスの中においてイギリスのチャリティ団体CatProtectionに所属する獣医師Maggie Robert氏が講演をしており、今回はその内容をメモをしておきます。講演の題名は「Top tips for feline shelters」であり、猫のシェルターを運営する上での重要なポイントについて話されていました。
シェルター運営に重要なポイント
シェルター運営に重要なポイントを大まかに分けると次の6つであると感じました。
- 資金・労力の確保
- 飼養環境の設定
- ストレスの軽減
- 獣医療の確保
- 感染症の予防
- その他
資金・労力の確保
シェルター運営には資金と労力の確保が必須であり、その資金と労力に適した規模のシェルターを運営することが重要です。また、その地域に十分な里親候補がいるのかどうかも加味する必要があります。そして、もし、資金や労力が足りない場合には、自分たちの目標が、TNRや一時預かりの利用などにより達成できないかを考えていく必要があります。
飼養環境の設定
まず、社会化がなされていない猫に関しては、TNRを選択し、シェルターでケアを行い、譲渡をするということはしません。なぜなら、社会化のなされていない猫にとってシェルターの環境はストレスが多く、その猫の福祉の低下を招くからです。個人的に心に残ったのが次のフレーズです”Feral cats are happy being feral(ノネコはノネコのままが幸せである)”。ここでいうFeral Catsとは社会化を経ていない猫のことです。
シェルターにおいて猫の部屋をどれだけ良いものにしたとしても、猫にとっては牢獄のように感じてしまいます。これは猫をその部屋に入れた時点で、猫の環境をコントロールしたいという欲求を満たすことができないからです。理想は様々な選択肢を与えることが重要ですが、狭いスペースではそうもいかないのが現実になります。しかし、それでもより良い飼養環境を提供することが重要になります。
単独?グループ?
猫は単独行動をするように進化しており、ほとんどの猫は他の猫と一緒に暮らすことにストレスを感じてしまいます(一部の猫はコロニーを形成して集団で暮らすことができます)。そのため、可能な限り猫同士は分離して管理する必要があります。もし、同じ家庭で過ごしていたことがある場合には同じ部屋でも構いませんが、本当に仲が良いかを確かめる必要があります。
他の猫との関係性
前述したように、一部の猫を除けば、ほとんどの猫は他の猫と一緒に暮らすことにストレスを感じます。そのため、他の猫の姿が見えたり、声が聞こえたり、ニオイがするということもストレスになります。極力、他の猫の視覚刺激や聴覚刺激、嗅覚刺激が伝わらないように部屋をデザインする必要があります。
環境設定
猫の部屋は換気が行え、室温が15~24度に維持できるようにしておきます。猫が運動できるスペース、隠れるスペース、高いところに登れるスペースを提供していきます。そして、トイレのプライバシーは確保されており、それぞれのリソース(猫の生活必需品のこと)が分離できる十分なスペースがあることが重要です。
猫の部屋は掃除や消毒が行いやすいようにデザインされている必要があり、猫が逃げないように廊下部分にはしっかりとドアがあるようにしておくことで安全性を高めていきます。シェルターのスタッフが腰を痛めたり、猫に噛まれたり、引っかかれたりしないようなデザインを考えることも重要です。
猫は犬の吠え声などが苦手であるため、犬とは別の施設で管理をする方が好ましく、壁に防音素材のものを使用するも大切になります。
ストレスの軽減
シェルターにおいて、猫に加わるストレスを軽減することはとても大切になります。ストレスは身体的・精神的健康に影響を与えます。特に免疫系を抑制させ、感染症にかかる確率を高めます。その他にもストレスにより、過剰なグルーミングや下痢などが観察されるようになります。
環境エンリッチメントを行うことでストレスを軽減することができます。具体的には、パズルフィーダーを使用したり、隠れ家を用意したり、遊んだり、フェリウェイ(人工フェロモン)を使用したりします。
獣医療の確保
シェルターにおいては猫に獣医療を提供することが必須であり、そのために獣医師を確保する必要があります。見つけるべき獣医師はシェルターの目標に共感してくれ、猫の福祉を一番に考えている人が好ましいです(お金が優先の人も中にはいるため)。そして、必要な時だけお世話になるよりも、日頃からシェルターの運営に携わっている人が望ましいです。そして、意外と重要なことに現実的な意思決定をしてくれる人という条件があります。これは、シェルターの経済状況や譲渡のことを理解してくれている獣医師ということです。
例えば、重度の骨折をしている猫がいるとします。最新の高度な獣医療を適応すれば、その猫はもう一度4本の足で歩くことができるようになります。しかし、その治療法を選択した場合には、かなり高額な医療費がかかるとともに、かなり長い期間シェルターに滞在することになります(約2ヶ月)。しかし、切断を選択すれば医療費は安く、猫がシェルターに滞在する期間は短くなり、早く譲渡を行うことができるようになります。このような現実的な判断を一緒にしてくれる獣医師が必要のようです。
また、譲渡をする前に、必ず避妊・去勢手術を行う必要があります。生後8週後より避妊・去勢手術を行ってくれるような獣医師を探すことが重要です。
感染症の予防
治療するよりも予防する方が明らかに楽であり、結果として費用や労力もかからず、猫も苦しい思いをしなくても良くなります。シェルターに来た猫は必ず、健康診断を行い、外部寄生虫の除去やワクチン接種を行っていく必要があります。また、猫同士が接触したり、猫のくしゃみなどが他の猫に届かないような物理的な工夫を行っていきます(部屋同士がしっかりと壁で隔たれている等)。新しくシェルターに来た猫用の部屋、病気の猫たちを隔離する部屋、譲渡待ちの猫が入る部屋などに分離することが理想になります。
猫の部屋などを掃除する際には効果的かつ安全性の高い消毒薬を使用する必要があり、消毒をする際にあらかじめ掃除をしておくことが重要です。頻繁に手を洗うことを心がけ、掃除をする際や隔離されている猫と接する際には使い捨ての手袋やエプロンなどを装着して行っていきます。
その他
シェルターでは、必ず里親さんに猫の情報を伝える必要があります。それだけでなく、猫の迎え方やフォローアップの仕方などについても教える必要があります。
多すぎる猫を受け入れることはシェルターにいる猫たちの福祉の低下を招き、感染症の蔓延にもつながります。そのため、勇気を出して、猫を受け入れることを断ることも重要です。
まとめ
獣医師Maggie Robert氏の講演内容について紹介してきました。基本的なことばかりだったかもしれませんが、これからシェルターを設立・運営される方にとっては参考になるのではないでしょうか?なお上記の内容は講演内容を個人的にまとめたものであり、本来の講演とはおおまかなストーリー展開などが異なります。もし、実際の講演を聞きたいという方は、以下の「講演を視聴する!」という欄をクリックしてください(YouTubeで視聴します)。
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