ドライ・キャットフードとウェット・キャットフードを比較すると、なぜかドライ・キャットフードの方が健康上よくないと思われがちです。確かに、水分補給や高たんぱく質といった点ではウェット・キャットフードの方がドライ・キャットフードよりも優れているかもしれません。そして、ドライ・キャットフードの方には炭水化物が多いという印象があると思います。
そのため、多くの方は通常のドライ・キャットフードを与えていると肥満になってしまうのではないかと考えてしまいます。しかし、実際のところはどうなのでしょうか?本当にドライ・キャットフードを猫に与えると肥満になるのでしょうか?
猫と炭水化物
猫は真性肉食動物であり、他の哺乳類と比較すると炭水化物といった糖質を分解することがあまり得意でないということが過去の研究より知られています。そのため、多くの方が猫に炭水化物を与えることはあまり良くないというイメージを持っています。しかし、比較対象にしている哺乳類の多くは反芻動物と似た特徴をもつ雑食動物であることから、短絡的に猫が炭水化物を代謝するのが得意ではないと言うことはできません。
猫では脳や赤血球、腎臓などといった組織ではグルコースと呼ばれる単糖類が主にエネルギーとして利用されます。そのグルコースは食物に含まれる炭水化物だけでなく、アミノ酸などが代謝されることで利用することができるため、確かに猫は大量の炭水化物を摂取する必要はないのかもしれません。しかし、アミノ酸ではなく炭水化物からグルコースなどのエネルギーを作る方が手間がかからないというのも事実です。
血糖値
体内を循環する糖質(炭水化物)の値の量を血液を採取することで確かめることができます。これを血糖値と言います。この血糖値が高くなると、エネルギーが過剰にあることから、膵臓からインスリンというホルモンが分泌され、肝臓にてエネルギーの貯蔵が起こってきます(筋におけるエネルギーの取り込みも起こります)。しかし、慢性的に血糖値が高くなりすぎると肥満や糖尿病などの病気にかかるリスクが高まってきます。
つまり、炭水化物を摂取することで血糖値が高くなる場合には肥満のリスクが高まるという一種の指標として用いることができます。
ある研究では、多糖類であるデンプンを多く含むキャットフードを与えたとしても特に血糖値に変化はなかったとしています。一方で、グルコースという単糖類が含まれている場合には血糖値が急激に上昇したと報告しています(Kienzle et al., 1994)。グルコースなどの単糖類をそのまま摂取すると血糖値にすぐさま反映されるためこれは当然の結果になります。
一般的なドライ・キャットフードに含まれている炭水化物は単糖類という形ではなく、より複雑な多糖類や食物繊維という形で存在しているため、特に血糖値に影響を及ぼさないことが考えられます。
高脂質のキャットフードの方が問題?
さらに、2007年に行われた研究では高脂質のキャットフードと高炭水化物のキャットフードを猫に与えたところ、高脂質のキャットフードにおいて体重の増加やインスリン(ホルモン)の分泌増加が観察されたとしています(Backus et al., 2007)。
今までの話をまとめると、もしかすると猫が少し炭水化物が多いぐらいのドライ・キャットフードを摂取したからといって、肥満になるということはないのかもしれません。
では、何が肥満の原因になるのでしょうか?
肥満の原因はドライ・キャットフードではない
1999年に肥満の猫を対象にして行われた研究によると、雑種の猫や去勢・避妊手術を施されている猫、室内飼いの猫において、肥満と診断される確率が約2~3倍であるということを示しています(Robertson et al., 1999)。
最近の研究では、猫に餌を与える回数が多い方が猫の活動量が増えることも知られており、猫に餌を与える回数も肥満に関連しているのかもしれません(de Godoy et al., 2015)。
まとめ
結局のところ、猫の肥満にはドライ・キャットフードよりも、その他の遺伝的な要素や環境の要素が大きく影響を及ぼしていると思われます。例えば、環境的な側面で言えば、室内飼いの猫では給餌回数の数が少ないことや遊ぶ回数が少ないこと、運動量・活動量が少ないことなどが挙げられます。
愛猫の肥満を心配するのであれば、キャットフードを見直すことも重要かもしれませんが、それと同じように環境的なエンリッチメントについて見直すことも重要だということですね。
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参考文献
Kienzle E. Blood sugar levels and renal sugar excretion after the intake of high carbohydrate diets in cats. J Nutr 1994;124:2563S–2567S.
Backus RC, Cave NJ, Keisler DH. Gonadectomy and high dietary fat but not high dietary carbohydrate induce gains in body weight and fat of domestic cats. Br J Nutr 2007;98:641–650.
de Godoy. MRC, Ochi.K, de Oliveira Mateus L. F. , de Justino A. C. C., Swanson K. S. . Feeding frequency, but not dietary water content, affects voluntary physical activity in young lean adult female cats.J Anim Science. 2015 May;93(5):2597-601. doi: 10.2527/jas.2014-8574.
Robertson ID. The influence of diet and other factors on owner- perceived obesity in privately owned cats from metropolitan Perth,Western Australia. Prev Vet Med 1999;40:75–85.
Buffington, C. A. (2008). Dry foods and risk of disease in cats. Can Vet J 49(6): 561-3.(この記事のメインの参考文献になります。無料で読むことができます。)
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