アメリカの「トムとジェリー」というアニメを見たことがありますか? 当然、メインキャラクターはトムとジェリーであり、トムはイエネコ、ジェリーはイエネズミです。
そのうち、猫のトムは突然大きな音が鳴った時に反射的に不随意運動(無意識の運動)を伴う発作を引き起こすことでも有名です。実は、この現象はアニメだけの話ではなく、現実に起こる猫の病気になります。
今回はその病気の概要について解説していきたいと思います。
この記事でわかること
- トムとジェリー症候群はFeline audiogenic reflex seizures 猫聴覚原性反射発作のことを指す
- 猫聴覚原性反射発作には全身性強直間代発作とミオクローヌス発作、欠伸発作の3種類がある
- 発作を持つ猫は特定の高い音に反応する
- レベチラセタムは有効な治療薬の一つである
Feline audiogenic reflex seizures:FARS
猫が音に反応して引き起こす発作の全貌が明らかになったのは2015年と最近の話になります。その発作は「Feline audiogenic reflex seizures:FARS」と名付けられており、日本語訳にすると「猫聴覚原性反射発作」になります。あくまでもこの日本語訳は直訳であり、正式な病名として使用されているわけではありませんので気をつけてください。
この猫聴覚原性反射発作を引き起こす猫の多くは急な高い音によく反応して発作を引き起こすことが知られています。そのため、別名「トムとジェリー症候群」とも呼ばれています。
発作の種類
Feline audiogenic reflex seizures 猫聴覚原性反射発作では3つの発作が観察されます。それらの発作は人間のてんかんの患者さんに観察されるような発作と類似しています。
全身性強直間代発作
一つ目の発作は全身性強直間代(きょうちょくかんたい)発作です。この発作では多くの場合は猫が意識を失い、床に崩れ落ち、四肢や顎などの痙攣が起こります。意識を失わずに意識もうろう状態で発作が起こることもあります。一部の猫では失禁も認められます。
発作自体は数分で終わりますが、猫は意識不鮮明やもうろう状態となります。
ミオクローヌス発作
ミオクローヌス発作は筋肉の部分的なけいれん、ピクつきなどが数秒間続くものです。多くの猫では発作の間中、意識が保たれています。
欠伸発作
欠伸(けっしん)発作は上記の2つとは異なり、筋肉のけいれんが起こらない発作になります。つまり、意識障害だけが起こってくるということになります。欠伸発作を引き起こす猫の意識状態は意識不鮮明の状態やもうろうとしている状態であることが多いです。
この発作が起こっている時の猫はボーとしており、飼い主からの呼びかけなどに反応することもありません。この発作は20秒程度続くことが多いため、意外と長いあいだボーとどこかを見つめていることになります。
反応する音の種類
では、Feline audiogenic reflex seizures 猫聴覚原性反射発作が起こる猫はどのような音に反応するのでしょうか?
反応性が高い音の例
以下のような高い音は発作を引き起こしやすいようです。
- アルミホイルを丸める音
- 金属製のスプーンと陶器が当たる音
- グラスの音(グラス同士を当てた時の音やグラスを叩いた時の音)
- ビニール袋や紙などを丸める音
- キーボードを打つ音
- 小銭や鍵の音
- 爪でどこかを叩く音
- 舌で鳴らした音
上記の音が鳴る頻度が高かったり、大きな音であった場合には強い発作が引き起こされます。そのため、発作を持つ猫の場合には飼い主が上記の音を極力出さないようにしたり、極力大きな音が鳴らないようにすることが重要です。
反応性が低い音の例
一方で以下のような音については発作をあまり引き起こさないようです。
- 携帯の着信音
- プリンターの音
- 水が流れる音
- アルミホイルを破る音
- 子供の高い声
発作を示す猫の特徴
Feline audiogenic reflex seizures 猫聴覚原性反射発作が起こる猫の多くは高齢であることや難聴であることが多いようです。年齢でいうと10歳以上の猫において発作が起こりやすく、15歳以上ではさらにその頻度が高くなります。
高齢の猫に起こりやすい理由としては、高齢になるにつれて低い音が聞こえにくくなるため、低い音よりも高い音に敏感に反応しやすくなるためではないかと考えられています。同じことが、難聴の猫についても言えます。人間にとっては耳が聞こえないと思っていても、猫の可聴域は幅広いため、高い音については意外と聞こえていると推測されています。そのため、高い音に敏感に反応してしまい、発作が引き起こされるのではないかと推測されています。
また、バーマンという猫種においても多く観察されることが知られており、少なからず遺伝的な要素が発作の発症に起因している可能性もあります。
治療
動物のてんかんの治療によく用いられるのはフェノバルビタールやレベチラセタム、臭化カリウムなどの薬があります。しかし、このうち臭化カリウムは猫において呼吸器系の炎症を引き起こすために使用が控えられています。したがって、フェノバルビタールもしくはレベチラセタムのどちらかが治療に用いられます。
2015年に行われた57匹の発作を持つ猫を対象にした研究によると、ミオクローヌス発作についてはレベチラセタムの方が効果的であることを示しています。ちなみに、ミオクローヌス発作は猫聴覚原性反射発作を持つ猫の90%以上に観察されるため、その発作のコントロールは重要になります。
その研究では、レベチラセタムで治療した猫では、1日あたりに起こるミオクローヌス発作の数が50%以上も少なくなるということを示しました。フェノバルビタールの方はたった3%の減少しか観察されなかったようです。
ただ、残念なことにレベチラセタムは人間用の薬(商品名はイーケプラ)であり、動物においての使用が正式に認められているわけではありません。そのため、獣医師が処方してくれる確率は少ないと思います。
まとめ
Feline audiogenic reflex seizures 猫聴覚原性反射発作(トムとジェリー症候群)を持つ猫では、高い音に反応し、てんかん発作などが引き起こされます。この発作が見つかったのは最近のことであり、現在でもわからないことが多いのが現状です。そのため、治療に効果的な薬の開発も遅れています。
今後、さらなる研究が進み、猫用の薬の開発が行われ、多くの動物病院で処方されるようになることを期待します。もし、愛猫が発作を引き起こすようになったら、極力発作を引き起こす音を鳴らさないように努力しましょう。
なお、上記の内容は参考文献や私が講義で学習したことをまとめたものです。より詳しく知りたい方については、参考文献を読むか、かかりつけの獣医師などに相談するようにしてください。
参考文献
Mark Lowrie, Claire Bessant, Robert J Harvey, Andrew Sparkes and Laurent Garosi. Audiogenic re ex seizures in cats. 2016, Journal of Feline Medicine and Surgery, 18(4) 328–336. DOI: 10.1177/1098612X15582080.
Mark Lowrie, Sarah Thomson, Claire Bessant, Andrew Sparkes, Robert J Harvey and Laurent Garosi, Levetiracetam in the management of feline audiogenic re ex seizures: a randomised, controlled, open-label study. 2015, Journal of Feline Medicine and Surgery, DOI: 10.1177/1098612X15622806.
Everyday Sounds That Can Trigger Seizures in Cats
Feline audiogenic reflex seizures (FARS)
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